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ススキの中から

A君はフリーターだ。

旅行が大好きで、
少し時間ができると友達や彼女とあちこちに出かける。
けっこういい歳なのだが、

「長期の旅行にも出られなくなる」

という理由で正社員にはならない。
半年働いてお金を貯めては、
また半年沖縄に住み……という暮らしをしている。

そんなA君、連休を利用し、
友達と二人で山陰地方にドライブ旅行にでかけた。


季節は秋。
街中を離れ、山間にあるだだっ広い平野は一面ススキが生い茂っていた。
その大人の身長くらいあるススキがあんまり見事だったので、
急遽車を止めて記念写真を撮ろう、ということになった。
良き場所で停車し、車外に出ようとした時。

「助けてくれえ」

と声が聞こえた。
生い茂るススキの中からだ。

「聞こえたか?」

「聞こえたよなあ」

二人は顔を見合わせ、耳をすませた。

「おういおうい。助けてくれえ」

また聞こえた。
と、がさがさがさ、というススキをかき分ける音が聞こえ、
上半身裸の男がアスファルトの道路に飛び出してきた。
二人の車から三十メートルくらい離れたところに。

裸の男の背中には、もう二本の腕があった。
男はA君達の車を見ると、四本の腕をざわざわと振った。
大きく開かれた口には、
ピラニアのようなぎざぎざの歯があった。

男はぜえぜえ、と大きく肩を揺らして息をしている。
はた、と目が合った。
理性的、ともとれる目だった。

「……出せ!」

「え、何?」

「車だよ! 早く出せ! 逃げろっ」

A君は友達に言った。

「ぎゃばらぼあっ」

男は怒号とも悲鳴ともつかない声を発し、
車に向かって走ってきた。
と、ススキの中からなおも数人の男が走り出てきた。
その男達は紺色の軍服のようなものを着ていた。
オレンジ色の、ライフルのような武器を全員が持っていた。

そしてその顔。
どこかおかしかった。
どこがおかしい、とははっきり言えないが、
バランスが変なのだ。
目が小さすぎる。
鼻梁が長すぎる。
口が大きすぎる。
額が狭すぎる。
肌が白すぎる。
そして全員が、ほぼ同じ顔をしている。

「出せって! アクセル!」

A君は怒鳴った。
ぎゅるるる、とタイヤが鳴り、車は急発進した。
バックミラーの中で、四本腕の男は軍人に押さえつけられていた。
その姿が点になり、まったく消失してしまうまで、
車のスピードは落ちなかった。
街に入っても恐怖感は持続していた。
結局二人は泊まるはずだったホテルをキャンセルし、そのまま大阪に戻った。
とにかくそこから少しでも離れたかったのだ。

もちろん、四本腕の男も謎の軍人も正体はわからずじまいだ。



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