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覗くやつ その2

「……何ですか?」

僕がドアノブを掴んだまま訊ねた。

「いや……いるかと思って……」
僕から目を逸らさず、女が答えた。

「ええ、そりゃいましたけど……あの、どなたですか? 何の用ですか?」
「いえあなたじゃなくてね!」

女はなぜかそこだけ早口で言って、ドアの隙間から部屋を覗き込んだ。
そして隙間からぐぐぐっ、と顔を強引にねじ込んできた。

「あの子達ガ……まだイるかと思っテ……」

ゾッとした。

女ははあはあと荒い息を吐きながら耳の辺りまで顔をねじ込み、
ビー玉みたいな小さな目をぐるぐる動かして部屋の中を無遠慮に眺め回した。

あ、この人、いっちゃってる。

反射的に思った。

「ここは三ヶ月前から僕が一人で住んでます。僕以外誰もいませんよ」

僕は努めて冷静に言った。

「えエ、デもあの子達がマダ……ネえ、中にいルカと思って……」

女は相変わらずぎょろぎょろ部屋中をねめ回しながら、
隙間に膝を入れてきた。

僕は反射的に、その膝を外に蹴り出した。
そして女の首の下辺りを強く押した。
ごりゅ、といやな音がして、顔はドアの外に消えた。

「僕の他に誰もいません。帰ってください」

僕はドアを乱暴に閉め、鍵をかけた。
呼吸が乱れ、膝が震えていた。

「がえぜ‼ アノ子達ヲ返ぜ‼」

女は怒声をドアに叩きつけ、

「ぎギいいいい。ぎ、ぎいいイいいイイ」

とわけのわからない奇声を発した。
なおもがんがん叩かれるドアに向かって僕は、

「警察呼びますよ!」

と一喝した。するとぴたり、とノックの音はやんだ。

ずっ、ずっ、ずっ、とサンダルを引きずる音が遠のいていった。
やがてエレベーターのドアが閉まり、降下していく音が聞えた。
僕は胸を撫で下ろした。
まだ動悸は激しく、膝は震えていた。
ゆっくりと這うようにしてリビングに戻り、そうっとベランダに出た。

僕の部屋は六階にある。
手すりから少しだけ顔を出し、下を見た。

女は歩道で棒立ちになり、僕の部屋をじっと見上げていた。

女とまともに目が合った。


心臓が凍りつきそうになった僕はすぐに顔を隠し、
またそうっとリビングに戻った。
そして部屋の電気を消し、ベッドにもぐり込んだ。
しばらくはまんじりともしなかったが、
やがてとろとろと眠ってしまった。


気がつけば朝になっていた。

それから二度と、女は現れなかった。


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