餓鬼玉
これもK君の話。
高校の頃、K君は突然大食になった。
何の前触れもなく。ごく一時的に、ではあったけれど。
それはこんな具合だ。
朝しっかり食べて学校へ行き、
二時間目の授業が終わった時にはもう腹が鳴っている。
休み時間、学食でカツ丼をかきこむ。
そして昼休みには、耐えられないほど腹が減っている。
弁当とうどんを食べる。
放課後、部活(K君は美術部だ)の前にまた玉子丼を食べる。
部活が終わり、家に帰り着く頃には空腹で足元も覚束ない。
晩御飯は、丼のような茶碗で三杯おかわりをする。
ほとんどのおかずをK君が一人で食べ、家族に文句を言われる。
寝る前にも、食パンを一斤くらい食べないと夜中に目が覚めてしまう。
こんな日が何日か続いた。
ちなみにK君は身長が一メートル六十五センチくらいで、
体重は五十キロに満たない。
すごくスレンダーだ。
身体も胃も小さい。
本来は小食で、
ダイエット中の女の子のような弁当箱を使っていた彼のことだ。
育ち盛りということを差し引いても、あきらかに異常である。
一週間ほどして、
旅行に行っていたおばあさんが帰ってきた。
例の祈祷師のおばあさんだ。
家に入るなり、おばあさんはK君の部屋に駆け込んだ。
「おまえ、何を拾ってきた?」
おばあさんはK君にそう詰め寄る。
そしてK君の襟首を掴むと、
文字通り引きずりながら玄関を飛び出した。
K君はそのまま近くの神社まで連れて来られたのだが、
昔からよく知っているその神社が、その時は
「とてもいやな、不吉なもの」
に見えたという。
おばあさんは鳥居の真下にK君をしゃがませると、
背中を平手で何度も叩いた。
思わず咳き込んでしまうほどの強さで。
K君は直前に食べたものを全部吐いた。
吐くものがなくなっても、うげうげといいながら胃液を吐いた。
すると、まさに「ぽんっ」という感じで、
K君の口から黒い玉が出た。
それはスーパーボールくらいの大きさで、ほぼ真円に近い球だった。
そんなものを食べた覚えは、もちろんK君にはない。
「えらい大きなって」
おばあさんはそう言うと、
K君の吐瀉物にまみれたその玉を拾い上げてハンカチに包み、懐にしまった。
それっきり、K君の大食はけろりと治った。
