しろべが
何年も前に亡くなってしまったおじさん。
徳島県出身なのだが、
彼の少年時代、つまり今から六十年ほど前に、
局地的ブームになった話である。
山に妖怪が住んでいるらしいのだ。
名前は「しろべが」。
ひょろひょろの体型で、首から下は裸で真っ白。
なぜ首から下だけ真っ白なのかというと、
首から上を見た人がいないからだと。
目が合うと、手に持った鎌のような武器で、
一瞬のうちに殺されてしまうそうだ。
黄昏時に山道を歩いていると、
いつの間にか一定のペースでついてくる足音がある。
そうっと振り返ってみると、白い足が見える。
それがしろべがだ。
そうなるともう前を向き、
人家が見えるまで歩き続けるしかない。
しかし、その道行きが少々やっかいなのだ。
しろべがが話しかけてくるのである。
しかも質問をしてくる。
注意点として、しろべがの質問に正しく答えてはいけない。
とんちんかんに答えなくてはいけないのだ。
「今何時だ?」
「それよりもそばが食べたいなあ」
「おまえ一人か?」
「やっぱり山歩きに草履は向かないねえ」
といった感じで。
うっかり正確に答えてしまうと、
やはり斬り殺される。すごい話だ。
何がすごいって、これは六十年前の徳島の寒村での話なのだ。
テレビもラジオもなければ、
子ども達のための娯楽雑誌などもない。
その村に、外部から人間が訪れることもほとんどなかったはずなのだ。
それなのに、その妖怪話の性質たるや、
まるっきり現代の都市伝説そのものだ。
カシマさんやテケテケ、口裂け女などの話となんら遜色ない。
そこのところがすごく面白い。
しろべが、という意味不明の名前も恐ろしくて良い。
恐怖というのはいつも未知に対する畏怖と、
憧れにも似た好奇心から生まれるわけであり、
それに時代も環境も関係ないのだなあ、と思う。
水木しげる大先生は「妖怪千体説」を説いておられるが、
このしろべがはどの妖怪にカテゴライズされるのかなあ。
