覗くやつ その1
かなり怖い体験をしたことある。
他の記事でも書いた、
僕が二十三歳くらいちょっと贅沢な八畳の1Kで一人暮らしをしていた時の話だ。
十二月の平日、午後十一時くらい。
僕がテレビを見ながらうとうとしていた時、
「ピンポーン」
と玄関からチャイムの音が響いた。
そもそもこれが変なのである。
そのマンションはオートロックだったのでエントランスにセキュリティがあり、
突然玄関のチャイムが鳴るのはおかしい。
最初にインターホンが鳴るはずなのである。
一体、どうやってここまで来たのだろう?
うとうとしていたせいもあって、
最初は隣の部屋のチャイムが鳴っているのかと思った。
だがほんの数秒待っていると、
「ピンポーン、ピンポーン」
と立て続けに鳴った。これはウチに間違いない。
さて、おかしい。
インターホンでの応対もしていないし、
エントランスのロックも解除していない。
同じマンションの住人だろうか?
回覧板的な物を持ってきたとか、
お隣さんが新しく引っ越して来たとか……?
などと考えていると、急にドアのノブががちゃがちゃっ、と乱暴に回された。
「いるんでしょ? いますよね?」
おどおどしたような焦ったような、なんとも表現しがたい妙な口調だ。
声からして中年の女性だった。
「いるんでしょ? ねえ、いるんでしょお?」
女はがんがんと大きな音を立ててドアを叩きはじめた。
その声に、まったく心当たりはなかった。
それ以前に、部屋にいるかどうかもわからないのに
「いるんでしょ?」
と言いながらドアを拳で叩いたり、
ドアノブを外から回したりするような不躾な人間を僕は知らない。
ほっておくとドアを叩く音は大きくなっていくので、
「ちょっと! ちょっと待ってください」
と僕は言ってドアにチェーンを掛け、鍵を開けた。
その途端、がちゃり、とドアは外から勝手に開けられた。
僕はこの時ほど、ドアチェーンの存在をありがたく思ったことはない。
この一件以来、僕は家に帰った時のドアロックとドアチェーンのセットを欠かしたことはない。
はにわ。そう形容するのが一番かもしれない。
顔の色は病的に真っ白。
鼻がぺたんこで、目と口がまん丸で小さく、
頭蓋骨の幅が異様に狭い。
あくまで記憶によるところの感覚値でしか言いようがないが、
僕には10センチくらいに見えた。
そんな様相の、はにわそっくりの中年女性が立っていた。
ぼさぼさの長い髪の毛を強引に後ろで一つにまとめ、
化粧はまったくしていなかった。
がりがりに痩せていて、
ショッキングピンクのだぼだぼの薄汚れたスウェットを着ていた。
女はぽっかりと丸く口を開けたまま、僕を凝視していた。
<つづく>
