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幽霊について その1

僕は幽霊を見たことがない。

とにかく怖がりなので別段見たいとも思わないし、いわゆる自称『霊感が強い』という友人Kからも、

「ほんまによかったなあ、お前は霊感なくて」

と、つくづく、といった感じで言われる。


まあそう言われたところで、
彼が申すところの『霊感』が自分に備わっているかどうかなどということは自分自身では測りようがないし、彼が申すところの『霊感』が彼自身に備わっているかどうかということももちろん僕にはわからない。
つまり、

「ほんまによかったなあ、お前は霊感なくて」

と言われたところで、
「そうですか」
としか答えようがないのだ。

ちなみにKには幽霊がばんばん見えるらしい。
しかしこちらから『見えている』ことを悟られると向こうから寄って来るので、見えていてもそ知らぬふりをする、という。


ある天気のいい日曜日。
そのKともう一人Tという友人(Kいわく、このTにも霊感は露ほどもない)と僕の三人でレンタカーを借り、湖に釣りに行った。運転はT、助手席に僕、後部座席にKというポジショニングだ。

市街地を離れ、周囲の景色にも緑が増えてくる。八つほどトンネルをくぐった。
目的地直前の、最後のトンネルにさしかかった時だった。
ずっと上機嫌でルアーフィッシングについての薀蓄を並べていた後部座席のKが、急にむっつりと黙り込んでしまったのだ。
喋り疲れたのかな、と思い、僕もTも別段気にもとめなかった。

長く、やけに暗いトンネルだった。
ひょいと後ろを振り向くと、Kは仕事で重大なミスでもしてしまったかのように両手で頭を抱え、俯いていた。

(ああ、こいつ何かを感じとったんだろうな)

僕とTは恐らくほぼ同時にそう思ったが、とりあえずトンネルを出るまでは何も言わなかった。
やがてトンネルを抜け、さんさんと降り注ぐ太陽の光にきらめく湖が見えた頃を見計らい、僕はKに訊ねた。

「なあ。さっきトンネルで俯いてたん、何で?」

すると頭を抱えていた両手を引き剥がすように離し、顔を上げた。真っ青だった。

「……見えてもうた……」

「ふうん……。何が?」

トンネルの出口付近の天井に、スーツを着た男が七・八人、クモのように四つん這いで張り付いてこっちを見ていた、というのだ。

たっぷりと釣りを楽しんだ後、もちろん帰りは別ルートを使った。
<つづく>

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