まさに変なおじさん
昔、朝の通勤電車で変なものを見たことがある。
五十歳くらいのおじさんだ。
ドアのすぐそばに立って景色を見ている。
背広を着ていて、なんだかくたびれていた。
そのおじさんはハンチング帽を被っていた。
帽子の具合がよくなかったのか、
すっと頭から取って形を整えた。
その時に見えたのだ。
左耳のすぐ上に小さなスイッチがあった。
そいつは銀色で、五ミリくらいのツマミがある。
オンとオフが切り替えられるようになっている。
(……えっ。……えっ!?)
と思って僕がもう一度目を凝らすと、
おじさんはまたすっと帽子を被った。
帽子のフチのところでスイッチは隠れてしまった。
おじさんはまた外の風景を眺めはじめた。
その表情は深い哀愁を纏い、
朝の喧騒に不似合いなようでいて、
また妙にしっくりとはまっているようでもあった。
翌日も同じ電車の同じ場所に乗ったが、
おじさんを見つけることはできなかった。
ただそれだけの話である。
