最後の一葉 その2
『○月○日。今日もがんばろう。
今よりもう少し自分を愛していたい。信じていたいんだ』
そんなメールが届いたある夜、Rさんは心に決めた。
「大学に合格したら絶対に、
この謎のメールをくれている人に返信しようって。
今までありがとうございましたって」
そして二月某日。
志望校の合格発表の前日の夜。
当然のようにメールは届いた。
『○月○日。人は泣きながら生まれ、
周りの人達は笑っていたはずだ。
だから死ぬ時は微笑みを浮かべ、周りの人は泣いている。
そんな人間になりたい』
「じわって胸が熱くなりました。
優しい言葉だなって。……それと同時に」
文面がいつもと違う、と感じた。
はじめて死という文字が書かれている。
そこにRさんは一抹の不安を覚えた。
かくしてRさんの努力は実った。
志望校に合格したのだ。
Rさんは狂喜しながら様々な人に吉報を伝えた。
もちろん、謎のメールの主にも。
「一年近くの間、
励ましてくれてありがとうございますって。
大学に受かったのもあなたのおかげです、って。
そんな内容のメールを送ったんです」
しかし、返事は来なかった。
気付かれていないのかと思い、
何回も送信したが一向に返事は来ない。
それどころか。
「それまで来ていた毎晩のメールも来なくなっちゃったんですね」
Rさんは後悔した。
送り主にどんな事情があったのかは知るすべもないが、
こちらからコンタクトを取ろうとしてはいけなかったのだ。
きっと向こうには返信できない理由があるのだろう。
自分を長い間救ってくれていたメール。
たった一行の、誰のものともわからない力強くあたたかい言葉。
それはパンドラの箱だった。
自分の軽率な行動でそれを永遠に失ってしまったと思うと、
Rさんはやりきれなかった。
そして楽しい大学生活ははじまり、
Rさんはいつしかメールの存在を忘れた。
数年後。
大学を卒業した彼女は志望通り看護師になることができた。
忙しくも楽しい職場での毎日。
ある日、彼女は仲良くなった先輩看護師にある患者の話を聞いた。
「個室の患者さんで。
原因が特定できない脳の病気で植物状態になって、
もう四年以上も昏睡状態が続いてるって」
十四歳の少年らしい。
特別手がかかる患者ではないので、
専任というわけではないがRさんが注意して目をかけるように、
とその先輩看護師は言った。
「きれいな顔の子でした。
四年前、昏睡に入る前までは普通に元気にしてたらしいんですけど」
少年の枕元にノートパソコンがあった。
Rさんが布巾でパソコンを拭こうとした時、
マウスが動いてスリープが解け、
パソコンは低くうなりながら起動した。
「デスクトップにはフォルダがたった一つだけ。“日記”って書いてました」
絶対にしてはいけないことだと思いつつ、
Rさんは好奇心に勝てなかった。
フォルダをダブルクリックして開いたのだ。
<つづく>
