かき氷は海味と決まっている #シロクマ文芸部(808文字)
砂浜で遊ぶのが好きだった。
ただ、今となっては、砂浜で遊ぶのが好きだったのか砂浜しか遊ぶところがなかったのかは定かではない。
海のそばで生まれた私は海と共に育った。
水産業を商う両親、元漁師の祖父。
祖母のことは誰も語らなかったから、私も聞かなかった。
そういうものだと、子供なりに背伸びして気遣って暮らしていた。
そして、両親も祖父も私のそうした背伸びをとても喜んだ。
「この子は分別がある」
「大人になってもきっとやっていける」
そんな無責任な言葉たちが、嬉しさと共に私を縛っているとその時は知らなかった。
当時の私は子供なりに褒められて無邪気に喜んでいたのだ。
すっかり大人になった今は、祖母はどこかで生きているのだと知っているけれど、会いに行く気にはなれなかった。
分別がある大人になれたかは、今でもわからない。
そして、大人になって、きっちりやれているのかも不明だ。
祖父とはよく遊んだ。
砂浜で山を作って、海水をかけて遊ぶのが好きだった。
飽きもせず山を作り、海水を汲んでそれを山にかける幼い私を、祖父は黙って煙草を吸って眺めていた。
ある日、祖父はそっと訪ねた。
「面白いんか、それ」
私は頷いた。
「海の水は、シロップで、砂の山は削った氷よ」
「かき氷か」
祖父はそう訪ねた。
私は、
「海味のかき氷。美味しいよきっと」
と答えた。
「そうか」
とタバコの煙を吐き出しながら、愛おしそうに祖父はそう言った。
そんな祖父の顔を、私は新幹線の窓から外を眺めながら思い出していた。
お盆は何度目だろうか。
夏は何度、あの日から過ぎ去っただろう。
私は何者にもなれていないような気がするけれど、ただここに生きて、故郷に帰ろうとしていることを、祖父はどう思っているだろうか。いつかずっと遠くで聞いてみたい。
都会に出て知った、ブルーハワイのかき氷は私の想像していた海味のかき氷とはかけ離れていた。
その事を、ずっと私は秘密にしている。
だって祖父はそんな事、知らなくていいのだ。
こちらの「砂浜で」のお題に挑戦させていただきました!
