トンネルの中でも、前に進んでいる。
トンネルの中でも、前に進んでいる。
10歳の男の子と、お父さんの山の話。
10歳の男の子が、ピアノ個人レッスンの帰り際に、私へ小さなメッセージを書いてくれました。
今はトンネルの中です…。 トンネルから出れば、幸せです…。 はっぴょう会、がんばります。
その文字は、迷いながらも前へ進もうとする気持ちがにじんでいて、 読んだ瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなりました。
彼は今、発表会に向けて一生懸命に練習しています。 うまく弾けない日もある。 気持ちが沈む日もある。 でも、それでも前に進もうとしている。
そんな姿を、毎週送り迎えしてくださるお父さんが静かに支えています。
お父さんが見せてくれた「朝日の写真」
ある日、私の休憩時間とお父さんの来館時間が重なり、 コーヒーを飲みながら少しお話をしました。
お父さんはスマホを取り出し、 山の上から撮影した一枚の写真を見せてくださいました。
雲をかき分けて昇る朝日。 はるか彼方から光が差し込む、息をのむような景色でした。
「山登りが趣味なんですよ」とお父さんは話します。
そして、こう続けました。
「ピアノも山登りと似ていると思うんです。 この朝日の写真も、たまたま雲海の中に昇る景色でしたが、毎回こうなるわけじゃない。 でも、登った本人が一番感動できるんですよね。」
小さな成功体験を積み重ねるということ
お父さんは、山に登るために日常から準備をしているそうです。
・出勤は一つ先の駅まで歩く ・エスカレーターを使わず階段を登る ・最初はハイキングコースから ・毎週毎週、休みになると山へ ・息が切れて辛い日もある ・でも続けると余裕が出てくる ・少し高いコースへ ・少し長いコースへ ・そして低い山へ ・また次の山へ
「もちろん、下山した後は、もうしばらく山は見たくないと思う時もありますよ」と笑いながら話してくれました。
でも、しばらくするとまた計画を立てている。
その姿勢は、まさにピアノと同じです。
発表会という“山”を登る子どもたちへ
ピアノの発表会も、毎年少しずつ高い山を登っていくようなものです。
本番を終えて振り返ったとき、 その子にしか見えない景色がきっとあります。
・真っ黒になるまで書き込んだ楽譜 ・毎週送り迎えしてくれたお父さんの姿 ・練習で泣きそうになった日 ・うまく弾けて嬉しかった日 ・ステージの上で感じた空気
それら全部が、その子だけの「朝日」になるのだと思います。
トンネルの中でも、前に進んでいる
10歳の男の子が書いてくれた言葉。
今はトンネルの中です…。
その気持ちは、とてもよく分かります。 練習がうまくいかない日、先が見えない日、気持ちが沈む日。 子どもたちは、そんなトンネルを何度も通ります。
でも、トンネルは必ず出口があります。
大丈夫。 本番で途中で止まっても、ステージまで楽譜を持って行きます。 サポートはしますので、安心して弾いてください。
あなたが見たい景色は、きっとその先にあります。
好い景色が見れますように。
