見出し画像

ギャグ小説・俳句達人伝 | 第二話



前話はこちら(↓)

第二話 宿場町の論破合戦


 千住大橋を後にした小町は、宿場町の賑わいの中をズンズン歩き進む。風呂敷包みは背中で揺れ、杖代わりの小枝を地面に突きながら、彼女の目は次の「論破」の標的を探していた。婆さんとの一句論破が不発に終わった悔しさは、むしろ小町の闘志に火をつけた。「次こそは、完璧な論破でキメてやる!」と小町は鼻息を荒くした。

 千住の宿場は、旅人でごった返していた。馬のいななき、荷車の軋む音、行商の呼び声が響き合い、まるで祭りのような喧騒だ。小町はそんな中、ふと立ち止まった。道端に、胡散臭い雰囲気を漂わせた男がいた。派手な縞模様の着物に、頭には手ぬぐいを巻き、口ひげをピンと張らせている。男は木箱の上に立ち、通りすがりの旅人たちに大声で呼びかけていた。

「さあさあ! 見ておいで、聞いておいで! この『万病に効く秘薬』、飲めばたちまち元気百倍! 風邪も腹痛も、果ては恋の病まで治る! 一服わずか一文! 安い!」

 小町の目がキラリと光った。

「おっしゃ~、こいつ、絶好の論破ターゲットじゃん!」

 彼女は人混みをかき分け、男の前に仁王立ちになった。男は小町を見て、ニヤリと笑う。

「おや、かわいいお嬢ちゃん! うちの秘薬、恋の病に効くよ! 好きな男に振り向いてもらいたいなら、一服どうだい?」

「はぁ? あたしがそんな怪しい薬に頼るわけないでしょ!」

 小町は腰に手を当て、ドヤ顔で続ける。

「あんたのその胡散臭い売り文句、まるで水(見ず)に浮かぶ油みたいね! 今から五七五で論破してやるから、覚悟しな!」

 周囲の旅人たちが「おおっ」とどよめき、野次馬が集まり始めた。男は少しムッとした顔をしつつも、余裕の笑みを崩さない。

「ほぉ、面白いねぇ。どんな句でこの俺をやっつけるってんだ?」

 小町は小枝を地面にトンと突き、胸を張って一句を詠み上げた。


秘薬だと ほざく水って 油かな

小町


 詠み終えた瞬間、小町は得意げに腕を組んだ。

「どうだ! あんたのその薬、ただの水か油でできてるってバレバレなのよ! 論破!」

 野次馬たちは一瞬静まり返ったあと、やがて「ほぉー」と感嘆の声を上げた。だが、男は動じず、むしろニヤニヤと笑みを深める。

「へぇ、なかなかやるじゃねぇか、お嬢ちゃん。けどな、俺の秘薬はそんなちゃちなもんじゃねぇ。見てな!」

 男は木箱から小さな瓶を取り出し、中の液体をゴクリと飲んだ。すると、突然その場で跳び上がり、くるりと一回転して見せた。

「どうだ! この元気! この秘薬の実力、わかったか!飲めば宙返りが余裕で出来ちゃうもんね~だ」

 野次馬たちは「すげえ!」「本物だ!」と拍手喝采した。小町は目を丸くし、思わず後ずさる。

「な、なんなん!? ま、まさか本当に効くの、その薬!?」

 だが、すぐに小町は我に返り、ムキになって叫んだ。

「いやいや、待て待て待て~い! それ、ただの勢いじゃない! 薬の効果なんて証明にゃならねぇよ! もう一発、論破してやるぜ!」

 小町は小枝を振り回し、頭をフル回転させた。そして、ひらめいた。
「よし、ととのった。これでキメる!一撃必殺だよ~ん」
 再び胸を張り、声を張り上げた。


その元気 薬じゃなくて 気合いだろ

小町


 今度は野次馬からも失笑が漏れ、拍手が沸き起こった。男は一瞬たじろいだが、すぐに反撃に出た。

「おお、気合いで元気が出るってか! いいねぇ、お嬢ちゃん! じゃあ、俺も一句返してやる!」

 男は木箱の上でポーズを決め、得意げに詠んだ。


気合いもな 薬で増すぜ 買ってみな

秘薬売人男


 小町は慄然とした。まさかの返歌だった。
「なっ!?なんだ、これは。なんだかグサッと刺さっちまったぜ」
 小町のダメージは大きかった。

 野次馬たちはさらに盛り上がった。

「おお、やり返した!やり返した!」
「こりゃ面白いぜ!」と囃し立てた。

 小町は悔しそうに唇を噛んだ。

「くっ、こ、こいつ、ただの詐欺師じゃない…! 俳句の達人か? でも、私、こんなところで、負けるわけにはいかないわ!」

 小町は風呂敷包みから石ころを一つ取り出し、握り潰す勢いで気合いを入れた。

「よし、こうなったらもう一発ぶちかましてやる!! 次こそ完璧に論破してやるんだから!!」

 果たして、小町の次の句は男を黙らせることができるのだろうか?
 それとも、宿場の論破合戦はさらに白熱するのか?
 彼女の旅は、まだまだ波乱に満ちているようだ。


…つづく


#俳句
#自由律俳句
#俳句の達人
#創作大賞2025
#エンタメ原作部門


いいなと思ったら応援しよう!

山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

この記事が参加している募集