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文学フリマ・鳥取




(1) 「砂の女」に導かれて


 3月22日土曜日。晴れ。

 私は鳥取・文学フリマに足を運びました。
 きっかけは、安部公房(作)「砂の女」でした。この小説の中で、男は砂に閉じ込められ、逃れられない運命に絡め取られますが、初めて読んで以来、頭から離れることはありませんでした。

 だから、もし私が鳥取砂丘を訪れれば、その砂の重力と文学の交錯を感じられるかもしれないと思ったのです。

 JR鳥取駅からバスに乗り、砂丘に着くと、風が砂を舞い上げました。と同時に、日本海の青と砂の金が目に飛び込んできました。なんとも美しいコントラストでした。

 鳥取・文学フリマの会場は、砂丘の平坦なエリアに設けられていました。
 白いテントが並ぶ中、私は「砂の女」の砂を思い浮かべたのでした。

 しかし、ここでの話題は文学フリマらしくもありつつ、超理系な方向にシフトしていきました。

 最初のブースで出会ったのは、鳥取大学の工学部出身の男性でした。彼は「砂の女」を題材に、砂丘の物理的特性を分析した自費出版の論文集を売っていました。
 彼の話す内容もさることながら、とてもイケメンで、イケボで、私はあっと言う間に引き込まれたのでした。

 彼の論文集の表紙には、
安息角33.7°」というプリントされた文字と、砂丘の斜面の写真が印刷されていました。

論文集
『砂の女の安息角』
表紙
(許可を得て掲載しています)

 彼の話はこんな感じでした。

「『砂の女』に登場する男が、幾何学的に逃げられない状況ってね、まさに砂の安息角そのものなんだよ」

 安息角とは、砂のような粒状物が自然に積み上がる際、崩れずに安定する最大傾斜角のことです。
 鳥取砂丘の砂は、花崗岩由来の細かい粒子であり、平均粒径0.2mm、乾いた状態で約33〜34度が限界だと言います。もちろん湿気や風速で変動しますが、ここでは毎秒5mの風が砂を運び、斜面がその角度を超えると崩落が起きます。

「あの小説の砂は、単なるメタファーじゃない。物理的な罠なんだよ」

 彼は熱弁を続けました。
 私は300円でその論文集を買うことを全く躊躇することはありませんでした。微かに、うまい棒を何本買えるのだろう?ということが頭をよぎったことは否定しませんけど。

 安部公房「砂の女」を超理系視点で解剖するというその発想に痺れたのです。恥ずかしながら、私は「砂の女」をファンタジーとして読んでいたのです。目からウロコとは、こういうことを言うのでしょうね。

論文集
『砂の女の安息角』
背表紙 
(許可を得て掲載しています)

(2) 砂丘シミュレーション


 次に立ち寄ったブースでは、別の出店者が「砂丘シミュレーション」を展示していました。

 ノートPC上で、鳥取砂丘の風速と湿度を入力すると、リアルタイムで砂の挙動を計算するプログラムになっていました。

「安息角を超える瞬間を再現してみた」と言い、彼は風速を8m/sに設定しました。
 すると、なんということでしょう!

 画面上の砂丘斜面が崩れ始め、34.2度で一気に滑落したのです。

これが『砂の女』の男の絶望だよ」と笑う彼。私は「文学より流体力学のほうが面白いかもしれませんね」と返すと、2人で大笑いしたのでした。


(3) 詩の朗読会


 昼近くになると、詩の朗読会が始まりました。
 風にマイクの音が少し乱れる中、ある参加者が「砂の方程式」と題した短歌を読みました。

重力と / 摩擦係数 /均衡は / μ=tanθで/
崩れるのかな

と詠みました。
 
 安息角の公式を織り交ぜたその発想に会場がざわつきました。私は砂丘の斜面を見ながら、摩擦係数μと角度θの関係を頭で計算しながら、精一杯拍手しました。


(4) 砂丘カレー


 そうこうするうちに、腹が減ってきたので、私は「砂丘カレー」を食べました。
 パン粉が砂に見立ててあり、見た目は安息角を模した小さな山形をしていました。
 スプーンで崩すと、なんと、まさに34度で崩落しました。
 食べながら、論文集『砂の女の安息角』を開き、「砂の女」の一節と砂の運動方程式を並べて読みました。
 砂が靴に入り込む中、文学フリマなのに理系の楽園に迷い込んだ気分になったのでした。

 帰り際、風速が10m/sを超え、砂が舞い上がりました。
 論文とシミュレーションのUSBを手にバス停へ私ひ向かいました。

 鳥取砂丘が「砂の女」を超えた理系の聖地だと確信しました。また来年も、この砂と数式の交差点、「文学フリマ・鳥取」に戻りたいと強く強く思いました。


(5) この記憶を忘れないうちに


 文学フリマ・鳥取を十分に堪能した私は、家に帰り、今この記事を書いています。
 もしかして、私と同じように、「安息角」の魅力にとりつかれた人がいるかもしれない。

 そうしたら、なんと私よりもずっとずっと、安息角の魅力を感じていた人がいるではありませんか!!!

 ゆらゆらミルコさんというnoterってスゲェな、と改めて思ったのでした。



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山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします

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