メイドの飛脚⑤
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メイドの飛脚⑤
メイドさんの背中が夕暮れの町に消えていくのを見送った後、私は机に戻り、便箋を広げた。第四章が文通相手から届くのを待つ間、頭の中ではすでに第五章の構想が渦巻いていた。霧の町の少女は、時計塔で誰と出会うのか? 彼女が届ける「時を超える手紙」は、どんな心を繋ぐのか?
そして、なぜかその少女の姿は、いつもメイドさんの笑顔と重なるのか?
彼女の軽やかな足音、汗と埃にまみれたメイド服、そしていつもの「守秘義務」の言葉。まるで、彼女自身が霧の町から飛び出してきたヒロインのようだ。
だが、今は待つしかない。文通相手の第四章が、物語の次のページを開く鍵となるのだ。私はペンを置いて、窓の外を眺めた。町は茜色から深い藍色へと移り変わり、遠くでメイドさんの走る足音が響いているような気がした。彼女が運ぶ第三章は、どんな想いを文通相手に届けられるのだろう? そして、どんな物語が返ってくるのだろう?
数日後の昼下がり、玄関のチャイムが鳴った。いつものように、メイドさんが弾むような声で現れた。
「ご主人様、お手紙が届きました!」
彼女は厚めの封筒を手に、目をキラキラさせながら立っていた。メイド服の裾には、今日も町の埃と風の香りが漂っている。
「お相手の方から、第四章が届いたようですよ!」
「本当かい? 早く見せてくれ!」
私は思わず身を乗り出し、封筒を受け取った。メイドさんはソファに腰掛け、私が封を切るのをワクワクした様子で見守った。
「メイドさん、せっかくだから、今回も一緒に読もう。声に出して読むよ」
私は彼女に微笑みかけ、便箋を手に持った。
「ふふふ、ご主人様、いつもありがとうございます! 私、飛脚として、どんな物語が続くのか、楽しみで仕方ありません!」
メイドさんは手を軽く叩き、まるで舞台の幕が上がるのを待つ観客のようだった。
私は舞台にこれからあがる役者のように、少し緊張していた。深呼吸してから、第四章を読み始めた。
第四章
ご主人様の第三章は、まるで私の心を映す鏡のようでした。霧の町の少女が、過去と現在をつなぐ手紙を届ける姿に、胸がとても熱くなりました。彼女の物語は、私の人生ともどこか重なるようです。
実は、私がこの手紙を口述し、メイドさんに書いてもらうようになったのは、病が進行してからのことだけではありません。かつて、私は自分で手紙を書いていた頃、ある人との文通を突然やめてしまったことがあります。その人は、私にとって大切な存在でした。でも、若さゆえの意地や誤解から、手紙を途絶えさせてしまったのです。その後悔が、今も心に残っています。
ご主人様の物語を読んで、ふと思いました。霧の町の少女が届ける「時を超える手紙」は、まるで私の届かなかった想いを、どこかで繋いでくれる希望のようです。そこで、私も少女の物語を進めてみます。
少女は、時計塔にたどり着きました。そこには、老いた時計職人が住んでいました。彼は、少女に言います。
「その手紙は、過去の誰かが、未来の誰かに送ったものだ。だが、届ける先は、君の心が決める。」
少女は手紙を手に、時計塔のてっぺんに登ります。そこから見える霧の町は、まるで時を超えた物語の舞台。彼女は手紙を風に預け、こう願います。
「この想いが、必要な人に届きますように」
ご主人様、私の手紙が、こうして今、あなたに届いているのも、メイドさんの飛脚の魔法のおかげです。彼女は、ただ手紙を運ぶだけでなく、過去の後悔や未来の希望を、私たちの間に架けてくれる存在です。どうか、これからもこの物語を続けましょう。第五章は、どんな舞台になるのか、楽しみにしています。
草々
読み終えた後、私はしばらく便箋を手に持ったまま、言葉を失った。文通相手の告白に、心が揺れた。過去の後悔、届かなかった手紙、そしてメイドさんがその架け橋となる存在だという言葉。まるで、私の霧の町の物語が、相手の人生と響き合っているようだった。
「メイドさん、この第四章…すごいね」
私は彼女の方を向いて、感慨深く言った。
「君が届ける手紙が、こんな風に過去と未来をつなぐなんて。霧の町の少女も、君そのものみたいだよ」
メイドさんは、いつものニコニコした笑顔で、軽く首をかしげた。
「ご主人様、素敵な物語の続きでございますね。霧の町の少女、私に似ていると言っていただけるなんて、光栄です。でも…」
彼女は少し意味深に微笑み、言葉を続けた。
「飛脚の仕事は、ただ走って届けるだけじゃなくて、誰かの心を繋ぐこと。ご主人様と文通相手の方の物語も、私にはそんな魔法の舞台に見えますよ」
「メイドさん、本当は、その少女と君は繋がってるんじゃないかい?」
私は冗談めかして、彼女の反応をうかがった。
メイドさんは「ははは」と笑い、いつものミステリアスな眼差しで答えた。
「ふふふ、ご主人様。飛脚には守秘義務がございますから、肯定も否定もいたしません。ただ、この物語を届けるのが、ますます楽しくなりました。第五章、どんなお話になるのか、私もとても楽しみです!」
私は笑いながら、便箋を手に取った。「よし、じゃあ第五章を書こう。霧の町の少女は、手紙を風に預けた後、町に戻って新たな冒険を始めるんだ。でも、メイドさん、君の飛脚の話がまたヒントになりそうだから、なんか面白いエピソードがあったら教えてよ」
「かしこまりました!ご主人様!」
メイドさんは目を輝かせながら、軽くお辞儀をした。
「実は、昨日、町の広場で小さな女の子から、遠くのおじいさまへの手紙を預かりました。『おじいちゃん、はやく元気になってね』って、絵と一緒に書いてあったんです。届けたとき、おじいさまが手紙を抱きしめて、涙を流しながら笑って…。私、飛脚冥利につきました。」
「その話、最高だね! よし、第五章にそんな心温まる手紙を織り込むよ。」
私はペンを握り、胸が高鳴るのを感じた。メイドさんのエピソードは、まるで霧の町の少女の物語に新たなページを加える魔法のようだ。
「では、ご主人様、第五章が完成する頃、またお伺いします!」
メイドさんは封筒を胸に抱き、軽やかな足取りで玄関を飛び出した。
「この物語の続き、心から楽しみにしております!」
彼女の足音が遠ざかる中、私は便箋に向き直った。霧の町の少女は、風に預けた手紙が届いた先で、新たな出会いを果たす。だが、その手紙は、過去の誰かの後悔を癒し、未来の誰かに希望を届けるものだった…。
書きながら、私は思った。メイドさんが運ぶ手紙は、タイムマシンのように、過去と未来をつなぐ。彼女が霧の町の少女そのものかどうかはわからない。でも、この物語は、私と文通相手、そしてメイドさんが一緒に紡ぐ、一冊の本だ。第五章は、どんな心を繋ぐのだろうか?
…つづく
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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします