見出し画像

メイドの飛脚②


前話はこちら(↓)



メイドの飛脚②


 メイドさんの背中を見送りながら、早くも私の頭の中は、今日は何をどう書こうかということを考えはじめていた。

 私が書く文字が、誰かの物語の1ページを刻んでいると考えると、私の手紙にも大きな意味があると実感できる。

 私はいつものように、筆箱を開き、ペンを一本取り出した。
 朝起きて散歩して、食事をしてからお昼まで本を読む。昼食が済んだら手紙を書く。毎日、変化に乏しい生活だ。だが、文通相手のお手紙を読むと、一緒に追体験しているような気持ちになる。さて、私は今日は何を書こうか?何か読んでいて楽しくなるような、ちょっと長めの物語を書きたいのだが。
 出来れば、メイドさんが戻ってくるまでに仕上げたい。そのとき、私に1つアイデアが思い浮かんだ。

「そうだ、長編小説の第一章を書いてみよう。そして、第二章は、お相手の方に書いてもらうなんてどうだろう?さすがに図々しいかな? 」


 私は便箋を前にして、物語の舞台を頭に描いた。霧に包まれた小さな町。そこを走る一人の飛脚の少女。彼女の手紙が、町の人々の心をつなぐ。ペンが紙の上を滑るように動き、物語はみるみるうちに形になっていった。
 少女が届けた差出人不明の手紙には、「次の物語は、君が書く番だ」と書かれていた。彼女は手紙の謎を追い、町の秘密に近づいていく。書いているうちに、まるで自分がその物語の住人になったような気分だった。


 夕暮れのチャイムが鳴り、私はペンを置いた。メイドさんが戻ってきたのだ。

「ご主人様、ただいま戻りました!」
 彼女の声は、軽やかで、とても楽しそうだった。ドアを開けると、汗をかきながらメイドさんが、夕陽を背に立っていた。笑顔はまるで物語のヒロインのようにとても絵になる。

「おかえりなさい、メイドさん。ずいぶん早かったね」
 私は便箋の束を手に、彼女を出迎えた。

「はい、山の屋敷のおじい様が、今日は手紙を読みながら涙を浮かべておられました。なんだか私まで心が温まり、とても元気をいただきました。ご主人様のお手紙、書けましたでしょうか?」
 メイドさんは私の手元の便箋に目を輝かせていた。

「うん、ちょうど書き終わったところてす。実は、ちょっと変わった手紙にしてみたんだけど」
 私は便箋を見せながら、少し照れ笑いした。
「長編小説の第一章を書いてみたんです。それで、続きを文通相手に書いてもらおうと思ってるんだけど。どうかな? こういうのは、図々しいかな?」

 メイドさんの顔がパッと明るくなった。
「まあ、ご主人様! なんて素晴らしいアイデアなんでしょう! お手紙で物語を紡ぎ合うなんて、まるで二人で舞台に立ってお芝居をするようですね。きっとお相手の方も楽しまれますよ」
 メイドさんは手を軽く叩き、目をキラキラさせた。

「そうかな? でも、こんな突拍子もない提案、驚かれないかな?」
 私は少し心配そうに笑った。

「最初は驚くかもしれませんが、きっと素敵な驚きでございますよ。ご主人様のお手紙は、いつも読む人をほっこりさせます。この物語も、きっとお相手の方の心を掴みますよ」
 メイドさんはそう言うと、ふっと微笑みながら付け加えた。
「それに、ご主人様と文通相手の方の物語を届ける私も、なんだかその舞台の共演者になれるような気分です!」

「ははは、共演者か! いいね、メイドさんはまさに、この物語のヒロインだよ」
 私は笑いながら、便箋を封筒に丁寧に入れた。
「じゃあ、この手紙をお願いいたします。お相手に届けて、どんな反応だったか、戻ってきたときに教えてくれると嬉しいな」

「かしこまりました、ご主人様!」
 メイドさんは封筒を受け取り、まるで宝物のように胸に抱いた。
「この物語の第一章、必ずお届けいたします。そして、お相手の方の第二章も、私、楽しみにしております!」

 彼女が再び町へと走り出すのを見送りながら、私はふと思った。この手紙が、どんな舞台を創り上げるのだろう? 文通相手がどんな「第二章」を書いてくれるのか、想像するだけで心が躍った。だが、それ以上に、メイドさんがその手紙を届ける姿を思うと、なんだか彼女自身が物語の主役のように思えてきた。


 数日後、メイドさんがいつものように玄関に現れた。彼女の手には、厚めの封筒が握られていた。いつもより少し緊張したような、でもどこかワクワクした表情で、メイドさんは言った。

「ご主人様、お手紙が届きました! それに…お相手の方が、第二章が書かれたようですよ!」

 私は思わず身を乗り出した。
「本当かい? どんな物語になったんだ? ちょっと見せてくれ!」

 メイドさんは封筒を差し出しながら、にこりと笑った。
「ご主人様、これはただのお手紙ではありません。まるで舞台の幕が上がる瞬間です。私も、どんな物語が続くのか、ワクワクしておりますよ」

 封筒を開ける前、私は、メイドさんの笑顔を見た。彼女の言葉通り、この手紙はただの手紙ではない。私と文通相手、そしてメイドさんが共に演じる、物語の新たな一幕なのだから。


…つづく



#メイドの飛脚
#創作大賞2025
#お仕事小説部門
#みんフォト
#蒼龍葵さん



 

 

 

いいなと思ったら応援しよう!

山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします