連載小説(47)漂着ちゃん
ヨブを連れてマリアのもとへ行く日がやって来た。ナオミにはヨブと私が本当に行く場所については何も伝えないまま。
「母さん、じゃあ行って来ます」
「お父さんとお出かけなんて、めったにないことね。私たちはいつも収容所の中で暮らしているだけだから。外の世界を存分に楽しんで来なさい。お父さんも一緒だから心配はないと思うけど」
「『心配はない』なんて言われると、心配をかけてるような気持ちになる。私が一緒にいるから、ヨブのことは本当に心配しなくていい。それに、ヨブももう成人だし、しっかりしてるから」
私の言葉には、ナオミは何も反応しなかった。
いつも外出するときと同じように、部屋を出ると護衛官が二人いた。今回は彼ら二人とヨブと私でエレベーターを一緒に降りた。
収容所の外へ出ると、エヴァがすでに玄関前に車を止めて待っていた。
「あぁ、ヨブくんね。来てくれたのね。これから、あなたとお父さんを乗せてマリアのもとへ向かいます。イサクにも会ってもらうつもりです」
「マリアさんだけでなく、イサク君にも会えるのですか?それは楽しみです」と緊張した面持ちながら、ヨブが微笑んだ。
「では、行きましょう」
私は後部座席に乗り、ヨブが助手席に座った。エヴァは車中では何も語ることなく運転した。
数分でエヴァの住居に着くと、マリアとイサクが待っていた。三人の兄弟が一堂に会するのは、これがはじめてだった。
エヴァは車から降りると、「こっちが姉のマリア、こっちにいるのがイサクです」とヨブに向きあいながら言った。
「はじめまして。ヨブです。マリアさん、イサクさん」とヨブも自分の名前を告げた。
「ヨブさんは、お父さん似かしら?似ていらっしゃいますね」とマリアが言った。
「そうおっしゃるマリアさんもエヴァさんよりもお父さんに似ていらっしゃるかもしれません」
ヨブの言葉を聞いたエヴァは怪訝そうな表情を浮かべた。
「女の子に対して、お父さん似というのはどうかしら?マリアは私に似ていると思いますけど」と、少し立腹しているような口調でエヴァが言った。
若干険悪な雰囲気に包まれた。気を取り直すようにマリアは「ヨブさん、お父さん、どうぞこちらへ」と家の中に案内してくれた。
「ここが、父さんが最初にこの町にやってきた時に住んでいた家なのですね」
暖炉を見ながらヨブが言った。
「あぁ、もう昔だが、雪山で冷えた私を暖めてくれた暖炉だよ」
「準備ができました」
エヴァたちと一緒に住んでいる3人の『漂着ちゃん』が、私たちをダイニングへ案内してくれた。
私とエヴァ、ヨブ、マリア、そしてイサクがテーブルを囲み、会食が始まった。
「ところで、ヨブくんはマリアのことを気にいってくれたかしら?」とエヴァが口を開いた。
「ええ、美しくてかわいい女の子だと思います」とヨブが照れながら言った。
「マリアはヨブ君のことをどう思ったかしら?」
「お父さんに似てハンサムだと思います。だけど…」
「だけど?どうかしたかしら?」
エヴァが心配そうな表情を浮かべた。
「私とヨブさんは、兄妹ですよね。だから、恋愛感情と言える気持ちなのかどうか、今は言えません」
呟くような小さな声でマリアが言った。
「イサクはヨブさんのことをどう思いましたか?」
「僕はただ、お兄さんに会えたことが嬉しいだけです」
一問一答のような会話ばかりで、打ち解けたような雰囲気になることはなかった。
「まぁ、今日は顔合わせですからね。これから何度も会ううちに、ヨブ君もマリアもイサクも、打ち解けてゆくことでしょう。そろそろお開きにしましょうか?だいぶ遅い時間になりました。ナオミさんも収容所で待っていらっしゃるでしょうから」
会合はなんとも盛り上がらない形で終わることになりそうだった。
「では、今日のところは、私とヨブはこの辺でお暇させていただくことにします」
マリア、イサクに見送られながら、エヴァ、そして私とヨブが車に向かおうとした。しかし、そこには思いがけない人物が待っていた。鬼の形相のナオミが立っていた。
…つづく
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