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鈴木優人さんのバッハ 平均律クラヴィーア曲集第2巻

今晩は、鈴木優人さんのチェンバロでバッハ作曲、平均律クラヴィーア曲集第2巻を聴きます。

ここのところ平均律第2巻の新しいアルバムのリリースが多いですね。このブログでもアントン・メヒアスの若々しく新鮮な演奏、アーロン・ピルサンの不等分調律のピアノによる響きを重視した演奏がありました。今回は久しぶりにチェンバロでの演奏。録音は2024年1月に日本のトッパンホールで行われています。bisレーベルらしい自然な録音、ギラギラしたチェンバロではなくて、これはホールの余韻が感じられる優しい音です。

チェンバロの再生はスピーカーを選びますね。バックロードホーンだとちょっとキツすぎる。イクリプスの卵形スピーカーは自然な音ですが、ちょっと高域が物足りない。やっぱりハーベスHL5がいいですね、スピーカーによって全く印象が違う。最も違いのでる楽器かもしれません。

それからもう1つの聴き方、Apple TVを使ってドルビーアトモスでも聴いてみました。これは後ろのスピーカーからよりホールの余韻が感じられて、これもいいなぁ。

Qobuz+roon+HQplayerだとピシッとピントがあった音だけど、これは柔らかく包み込んでくれるような音です。色々な音が楽しめるって贅沢な話ですね。

ドルビーアトモスって、いわゆるハイレゾとは違って「音の密度」より「空間の広がりと立体感」を際立たせてくれるんですね。情報量が増えるという点では、むしろハイレゾに劣らないと思います。アトモスだと、音がどこにあるか、どこから響いてくるかがリアルに感じられて、ホールにいるような感覚になるんです。特にこの録音はトッパンホールの響きが丁寧にとらえられているので、アトモス再生でその空間ごと味わえるのが嬉しいところ。バッハのようなポリフォニーだと、声部の重なりが空間的にも感じられるという贅沢な聴き方ができます。

鈴木優人さんは時の人ですね。バッハ・コレギウム・ジャパンだけではなくて指揮でも大活躍。私は何度も聴いていますし、雅明さんとのチェンバロ協奏曲の演奏会をかなり前の方の席で聞けてとても素晴らしかった記憶があります。トッパンホールでの平均律の演奏会は聞き逃したので、このアルバムは嬉しい。第1巻も昨年発売されていますね。幼い頃から父親の鈴木雅明さんの影響でバッハ漬けだったとのことで、平均律は彼にとって空気のように存在し続けた作品ではないでしょうか。とても安定したナチュラルな演奏で、奇を衒うところが全くありません。自然体でときにほんの少し装飾を入れる。繰り返しはありますから全曲聞くのに2時間以上かかりますが、優しい音に包まれているのは幸せな時間。

ここのところピアノでの平均律をたくさん聴いてきたので、チェンバロでの演奏やっぱりいい。何が違うのかというと、ピアノでの演奏はフーガとか主題とか重要な声部を浮き立たせて演奏する場合が多いけれど、チェンバロは音量差をつけられない楽器ですから、全ての声部が等しく同じ音量で音が鳴ります。そのことによって、一番上の旋律やフーガのテーマだけではなくてあらゆる声部がくっきりと聞こえてくる。それが多分ポリフォニーの作曲家としてのバッハが求めていた本来の音楽だと思います。聴いていて実に楽しい。

鈴木優人さんの平均律第1巻の演奏会の時のインタビュー読んでも同じことが書いてありました。ピアノで弾くと楽しくないとまで。

このアルバムのブックレットは音楽学者 富田 庸さんの平均律第2巻の成立過程や改訂の歴史が書いてあって興味深いですね。富田さんはヘンレ版の校訂を担当されたとのこと。あれ、プロフィールみたら学生時代にすれ違っていたかも・・・。この解説によると明確な自筆譜はなくて、草稿や写本から制作過程が推測されるとのこと。まずはよく使われる調12曲が一気に作成されて、バッハの奥様アンナ・マグダレーナが写本を手伝って、残りの10曲は当時あまり使われなかった珍しい調を作曲し、最後にハ長調と変イ長調を1741年に追加して作ったとのこと。バッハ自身も写譜を監修・改訂を続けて、娘婿のアルトニコルという人の1744年の写本がバッハが指示を出した最新版に当たるとそう。第1巻に比べると地味だけど色々な様式があって、構成も巧みになって作曲技法が円熟している他、ソナタ形式っぽい前奏曲とか、古典派にもつながる要素があること。音楽的なモチーフはマタイやヨハネ、そのほかのコラールとの関連があったり、フーガはカンタータなどのモチーフに基づいている可能性もあるとのこと(特に22番と23番)。完成後も絶えず改訂を続けていて、バッハの創作活動の縮図ともいえるとのことです。非常に興味深いですね。

チェンバロで聞くもう1つの醍醐味はやはり調律かな。ブックレットには記載はないですが、不等分律であることは間違いなくて、ピルサンのピアノよりも遥かに調性による響きの違いがよくわかります。最後の和音の揺らぎを聞くのもまた楽しみの1つ。

柔らかい音で24曲を聞くのは本当に幸せな時間でありました。


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