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ニーヴ・トリオによるフランスのピアノ三重奏とドビュッシーの「海」

今晩は、ニーヴ・トリオによるサン・サーンスのピアノ三重奏曲第2番 ホ短調 作品92、メル・ボニスの「朝と夜」 作品76、そしてドビュッシーの「海」ピアノ三重奏版(サリー・ビーミッシュ編曲)を聴きます。

ニーヴ・トリオは、アメリカを拠点とするピアノ三重奏団で、その名前「Neave」は、古いスコットランド語で「明るさ」や「輝き」を意味しているとのこと。すでにシャンドス・レーベルから多くのアルバムを出していますね。

メンバーはアンナ・ウィリアムズ(ヴァイオリン)、ミハイル・ヴェセロフ(チェロ)、エリ・ナカムラ(ピアノ)。ナカムラ エリさんは日本人ですね。経歴をググると広島出身で米国で勉強され、現在は米国のロンジー音楽院の教授として教えつつ、国際的に活躍されているとのこと。知らない日本人の演奏家って多いのだなあ・・・

今回リリースされたアルバムはフランスのピアノ三重奏集ですが、やはり「海」のピアノ三重奏版というのが目を惹きますね。

まずはサン=サーンス:《ピアノ三重奏曲 第2番 ホ短調 作品92》。有名な交響曲第3番「オルガン付」の直後1886年から構想が練られ、1892年に完成しています。ということは6年間もかかって作曲したいうことですね。普通はサン=サーンスは流れるように作曲していたとのことですが、この作品についてはかなり苦労したようです。なにしろこういう作品には珍しく5楽章もありますから・・・。

ニーヴ・トリオの演奏は、冒頭の静謐な和音からすでに格別で、ヴァイオリンのアンナ・ウィリアムズとチェロのミハイル・ヴェセロフが作る有機的な対話に、ナカムラのピアノが呼吸するように寄り添い、引き立てていきます。しっとりとしたヴァイオリンとチェロの対話が実に美しい。そして展開部は弦楽器がユニゾンで長い歌を歌う中、激しいピアノが葛藤を深めていきます。

第2楽章は5拍子が特徴で、ふとチャイコフスキーの悲愴の第2楽章を思い起こします。中間部も5拍子だけれど、ずっとピアノが細かい16分音符を弾くという形。なかなかない面白い形式です。

第3楽章のアンダンテでは、ナカムラさんの弾く下降音形が深く沈み込むような音色で始まります。まるで心の奥底に降りていくような時間を紡ぎ出します。それぞれの楽器が哀愁あるこのメロディを重ねていきますが、ヴァイオリンもチェロもよく歌いますね。ちょっとうっとり。

第4楽章はちょっとした間奏曲、あるいはスケルツォでしょうか。

そして終楽章では、短い前奏のあとピアノの低音で主題が弾かれ、それが発展しつつ一糸乱れぬ緊迫感のあるアンサンブルでフーガの構築を重厚に積み上げていきます。クライマックスに向かって力強く、そして誇り高く楽曲を締めくくります。サン=サーンスらしい古典的形式感の強い作品。

続くメル・ボニスの《朝と夜(Soir – Matin)作品76》。メル・ボニス(1858–1937)は、フランスの女性作曲家で、本名はメラニー・ボニスでしたが、当時の性差別的な環境を避けるため、男性名に見える「Mel Bonis」と名乗って活動しました。セザール・フランクに認められてパリ音楽院で学び、ドビュッシーと同時期に在籍。結婚後は長く家庭に入りましたが、中年期に作曲を再開し、ピアノ作品、室内楽、宗教曲などを多数残しています。近年、忘れられた女性作曲家として再評価が進んでいるとのこと。本当に以前はどんなに才能があっても女性というだけで大変なハンデがあったのですね・・・最近女流作曲家がどんどん発掘されていますが、男性の影に隠れて実は凄い作曲家がたくさんいたのかも。

《Soir(夕)》、これは一聴して非常に美しいフランス的な作品で気に入りました。ヴァイオリンとチェロが織り成す柔らかな旋律の揺らぎに、ナカムラさんのピアノが淡い光の陰影のように寄り添います。その一音一音には、日が沈みゆく時のほの暗さと、過ぎ去った時間へのまなざしが宿ります。

一方、《Matin(朝)》では、夜明けの光のように清澄な躍動感が音楽にみなぎります。ピアノは、キラキラと陽の光が少しずつ差し込んでくるような明るさと透明感を持ち、弦楽器とともに新しい一日への高揚感を描き出します。

これは隠れた名作ですね。本当に美しく繊細でそして親しみやすさもあります。

そしていよいよドビュッシーの「海」のピアノ三重奏版。この曲をオリジナルのオーケストラ版以外で聴くのは初めて。オーケストレーションの綾による音色の微妙な光や色合いの変化こそがこの曲の本質だと思うのですが、ピアノ三重奏版でどのような表現になるのでしょう。編曲したのはヴィオラ奏者のサリー・ビーミッシュという方で、解説には彼女はこの編曲について、「編曲というより、再構成(reimagining)に近い」とも述べています。

第1曲《海の夜明けから真昼まで》では、ピアノが低音で深い海のうねりを低音で刻みつつ、光の粒のような高音を織り交ぜます。ヴァイオリンとチェロは水平線にのぼる光を思わせる旋律を重ね、編成の小ささを感じさせないスケールの大きな広がりと透明感を生み出しています。第2曲《波の戯れ》では、原曲の印象的な細かな動きが、ピアノと弦の美しい対話の中に溶け込んで、水面がきらめくような緊張と軽快さが見事に表現されています。終曲《風と海との対話》では、三人が高い集中力で音を織り重ね、緊迫感を高めていきます。時に荒れ狂い、時に静まる海のドラマをダイナミックに展開しています。

オーケストラ版の再現、というのではなく、オーケストレーションにあまりこだわらずそのモチーフに合わせてピアノ、ヴァイオリン、チェロを振り分けていて、緻密なアンサンブルは、オーケストラとは違う室内楽ならではの《海》の姿を提示してみせます。それはオーケストラという巨大な「海」からそのエッセンスをくみ取って、凝縮させたかのよう。管弦楽の中に埋もれがちなドビュッシーの繊細なハーモニーが透き通るように感じられて、非常に美しい。そして意外なほど多彩な音色やダイナミック。オーケストラには敵わないのでは、と思っていたのですがクライマックスの激しさは、逆にピアノトリオだけに表現できるのかも。

ニーヴ・トリオはくっきりとしたヴァイオリンと、優雅で美しい音のチェロの後ろに、比較的柔らかく透明で金属音をほとんど出さない、少し控えめ美しい音のピアノ、かと思いきや、びっくりするような迫力もだすピアノが特徴。表現の幅の広いアンサンブルです。シャンドスレーベルにたくさんの録音があるので、他のアルバムも聴きたくなりました。

https://music.apple.com/jp/album/la-mer-french-piano-trios/1811315127


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