見出し画像

ピエール=ロラン・エマールによるジェルジ・クルターグの《遊び(Játékok)》


今晩は、ピエール=ロラン・エマールのピアノによるジェルジ・クルターグの《遊び(Játékok)》を聴きます。
クルターグの作品は、最近いろいろな小品集の中に1曲または数曲挿入されているアルバムが印象に残っています。オラフソンのアルバムや、アナスタシア・コペキナの《ヴェニス》のアルバムなどに、栞のように挿入されていて、不思議な印象を与えており、気になっていました。そして今回、エマールが作曲者との共同作業的な形で、まとまったクルターグ作品集をリリースしました。

ジェルジ・クルターグ(György Kurtág, 1926年生まれ)は、ハンガリー出身の作曲家です。代表作《遊び(Játékok)》は、もともと子どものための教育作品として始まりましたが、次第に人生の記録や友人への追悼、内面の祈りのような作品へと広がっていったとのこと。どの曲もとても短く、まるで音で書かれた日記のようです。

第1巻から11巻までのうち、ピアノ連弾が中心の巻を除いたものから選曲されており、曲数でいうと81曲が2枚のCDに収められています。クルターグは現在99歳とのこと。自身の手も弱ってきたため、エマールが彼の手となり、この作品集を作ったそうです。膨大な作品の中から、本人が認めた作品のみ、厳密な芸術的監修のもとで録音が行われたとのこと。作曲者の承認を得られないものは一切リリースしないという厳格なルールで、2年間かけて制作されたアルバムです。

クルターグの作品は音の数こそ少ないものの、そこに込められた感情や意味は非常に深く、静けさの中に強い印象を残す作品ばかりです。大きな音や派手さではなく、「耳を澄ませること」で心に届く、不思議な力を持っています。時にシンプルで、そしてピアノの奥深い音が心の中に沈んでくるような……

ピアノって不思議な楽器です。適当に弾いたあと、そっと弦のそばに耳を近づけると、そこには不思議な倍音の世界が聞こえてきます。音符には記されていない音響の世界。その音響世界を一つ一つ掬い上げるように作られた作品たち。最初はタイトルを確かめながら聴いていましたが、やがてただただピアノの奏でる不思議な音響世界に迷い込んでいってしまいました……

これは、いま流行している癒し系ピアノ──ステファン・モッキオなど──とはまったく異なる音楽です。一つ一つに意味が込められていて、それはタイトルに関係なく、自分の奥深くに響いてきます。静けさとともに、時に感情や記憶を呼び覚ましてくれる……不思議な音楽です。
第1巻から後半へと進むにつれ、音楽がさらに内面化されていくようにも感じられます。ピアノ自体を弱音器付きのものに変えたり、音色も徐々に柔らかなものになっていきますね。

エマールのピアノは素晴らしい音色です。彼は3台のピアノ──ピアノ・デュオ Op.353018、スタインウェイ 541672、バーガー&ヤコビ アップライト・モデル115──を弾き分けているようですが、余韻のある会場の残響が上に抜けていく感じ。その音を聴いているだけで、いつまでも浸っていたくなります。エマールの息遣いや声までもがリアルに収録されていて、まるで目の前で演奏しているかのように感じられます。あれ、これはもしかしたら隣で聴いているクルターグの声でしょうか?──そんな錯覚さえ誘う、不思議な世界に連れていってくれるアルバムでした。




いいなと思ったら応援しよう!