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ゲルネ&ヒンターホイザーが辿るシューマン歌曲の旅

今晩は、2026年7月24日にドイツ・グラモフォンからリリースされた、マティアス・ゲルネ(バリトン)、マルクス・ヒンターホイザー(ピアノ)による《Zwielicht》を聴きます。

収録曲は以下の通りです。

ロベルト・シューマン(1810–1856)
《リーダークライス》作品39
(ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩)
1. 異郷にて(In der Fremde)
2. 間奏曲(Intermezzo)
3. 森の対話(Waldesgespräch)
4. 静けさ(Die Stille)
5. 月の夜(Mondnacht)
6. 美しい異郷(Schöne Fremde)
7. 城にて(Auf einer Burg)
8. 異郷にて(In der Fremde)
9. 憂愁(Wehmut)
10. 薄明(Zwielicht)
11. 森の中で(Im Walde)
12. 春の夜(Frühlingsnacht)

《ヴィルヘルム・マイスター》による歌曲と歌
(ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』より)
1. 孤独に身を委ねる者(Wer sich der Einsamkeit ergibt)
2. 涙でパンを食べたことのない者は(Wer nie sein Brot mit Tränen aß)
3. ただ憧れを知る者だけが(Nur wer die Sehnsucht kennt)
4. この国をご存じですか(Kennst du das Land)

《メアリー・ステュアート女王の詩》作品135
1. フランスへの別れ(Abschied von Frankreich)
2. 息子の誕生に寄せて(Nach der Geburt ihres Sohnes)
3. エリザベス女王へ(An die Königin Elisabeth)
4. この世との別れ(Abschied von der Welt)
5. 祈り(Gebet)

マティアス・ゲルネ(バリトン)
マルクス・ヒンターホイザー(ピアノ)
録音:2022年12月~2025年5月 テルデックス・スタジオ(ベルリン)

ゲルネとヒンターホイザーという、現在のドイツ・リート界を代表する二人によるシューマン・アルバムです。タイトルの《Zwielicht(薄明)》は、《リーダークライス》作品39の第10曲から採られています。

マティアス・ゲルネ(1967–)は、ドイツを代表する現代最高峰のバリトン歌手の一人。ドレスデン生まれ。ライプツィヒで学び、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウやエリーザベト・シュヴァルツコップの薫陶を受け、シューベルト、シューマン、ブラームス、マーラーを中心とするドイツ・リートで数多くの名盤を残す一方、オペラでもウィーン国立歌劇場、ベルリン国立歌劇場、メトロポリタン歌劇場など世界の主要歌劇場で活躍し、現代を代表するリート歌手として高い評価を得ています。

ピアノのマルクス・ヒンターホイザー(1958–)はウィーン音楽大学で学び、現代音楽のスペシャリストとして国際的な評価を築きました。ルイジ・ノーノやモートン・フェルドマン、ジョン・ケージなど20世紀・現代作品の演奏で知られる一方、シューベルトやシューマンなどドイツ・ロマン派にも深い造詣を持ち、ゲルネとは長年にわたり共演を重ねています。2017年からはザルツブルク音楽祭総監督を務め、演奏家と芸術監督の両面で現代音楽界を牽引する存在です。

早速聴いてみます。

まず印象的なのは音響設計です。ステレオで聴くと、非常に豊かな残響が感じられ、ゲルネの深い声が柔らかな響きに包まれながら、夜や森、月明かりといった詩の世界を美しく描き出しています。一方で、その残響のために言葉の輪郭はやや曖昧になり、歌詞が少し聴き取りにくく感じられる場面もあります。しかし、ヒンターホイザーのピアノは残響に埋もれることなく、美しい音色と繊細なニュアンスを存分に聴かせてくれます。

Dolby Atmosで聴いてみると、さらに印象が変わります。空間表現が強調され、まるでゲルネがピアノの向こう側で歌っているように感じられます。《Zwielicht》というタイトルに合わせて幻想的な空間を演出したかったのでしょうが、ここまで来ると少々演出過剰かな、という印象も受けました。

《リーダークライス》は一見すると12曲の独立した歌曲ですが、詩を通して読むと、故郷を失った旅人が幻想と孤独、愛と死を経験し、最後の《春の夜》で救済へ至る一つの精神的な旅として聴くこともできます。シューマンはアイヒェンドルフの詩を巧みに配列し、単なる歌曲集ではなく、一つの大きな物語として結実させました。

《ヴィルヘルム・マイスター》による歌曲と歌(ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』より)は、ミニョンや竪琴弾きなど、小説に登場する人物たちの心情を描いた歌曲です。ゲーテ文学への深い共感が感じられる作品です。

《メアリー・ステュアート女王の詩》作品135は、スコットランド女王メアリー・ステュアートが処刑前に残したと伝えられる祈りや瞑想の詩による5曲からなります。シューマン最晩年の作品で、静かな諦念と深い精神性に満ちています。

録音の音響設計には賛否が分かれそうですが、演奏そのものは実に魅力的です。ゲルネの歌は言葉を鋭く刻み込むというより、詩全体の雰囲気や感情の流れを丁寧に描いています。そして何より素晴らしいのがヒンターホイザーのピアノです。美しい音色、詩に寄り添った自然な呼吸、決して急がない落ち着いた音楽作りは見事で、単なる伴奏ではなく、歌と対等に物語を語っているように感じました。

若い頃のゲルネには、もっと言葉を前面に押し出す鋭さがありました。しかし、このアルバムでは、深く熟成した声と円熟したピアノが静かに寄り添い、シューマンの内省的な世界をじっくりと聴かせてくれます。録音の好みは分かれるかもしれませんが、成熟したリート演奏として大変聴き応えのあるアルバムでした。

過去記事は以下のブログから


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