小さな会社は、まだ言葉になっていない
京都・滋賀の事業者と20年以上向き合ってわかった、「伝わる前」に必要な仕事
ホームページを作る仕事を、二十年以上続けてきた。
けれど、最近になってようやく気づいた。
私が本当に手伝ってきたのは、ページを作ることではなかった。
その会社が、何を表に出すのか。
何を言葉にするのか。
何を残し、何を閉じ、何をまだ黙っておくのか。
それを一緒に考える仕事だった。
「ホームページを作りたいんです」
そう言われて話を聞き始める。
けれど、最初の相談で聞こえてくるのは、ホームページの話だけではない。
お客さんが減ってきた。
求人を出しても人が来ない。
昔作ったサイトが古くなっている。
SNSに何を書けばいいかわからない。
自分たちの強みがわからない。
うちは特別なことをしていない。
言葉は違っても、奥にある悩みはよく似ている。
「自分たちの良さを、どう言えばいいのかわからない」
京都・滋賀を中心に、小さな会社やお店、団体、個人事業者のホームページ制作や運営を手伝ってきた。
医療関係の団体、地域の店舗、士業、宿泊施設、製造業、教室、イベント、NPOに近い活動。
業種は違っても、同じような場面に何度も出会ってきた。
多くの小さな会社は、何も持っていないわけではない。
むしろ、持っているものは多い。
長く通ってくれるお客さんがいる。
昔から続けてきたやり方がある。
大きな会社なら切り捨ててしまうような、細かい対応をしている。
代表者が当たり前だと思っている親切が、実は大きな価値になっている。
ただ、それがまだ言葉になっていない。
だから外から見ると、何をしている会社なのかわからない。
他と何が違うのかわからない。
誰に向いているのかわからない。
問い合わせていいのかどうかもわからない。
ホームページが古いから伝わらないのではない。
写真が少ないから伝わらないのでもない。
もちろん、デザインや写真や文章は大事だ。
でも、その前に必要なのは、自分たちが何者なのかを、無理のない言葉で整理することだ。
小さな会社に足りないのは、魅力ではない。
言葉だ。
これは、Web制作者だけに向けた話ではない。
小さな会社やお店を続けている人。
発信しなければと思いながら、何を書けばいいかわからない人。
AIを使って文章を作ってみたものの、どこか自分たちらしくないと感じている人。
ホームページやSNSの前で、自分たちの強みを言葉にできずに止まっている人。
そういう人に向けて、まず何を見ればいいのか、どこから言葉を拾えばいいのかを書いていく。
第1章 ホームページを作る前に、言葉が足りていない
ホームページ制作の相談では、最初に見えている問題と、本当に整理しなければならない問題が違うことが多い。
サイトが古い。
スマートフォンで見にくい。
更新が止まっている。
問い合わせが少ない。
採用にも使いたい。
検索しても出てこない。
どれも大事な問題だ。
けれど、話を聞いていくと、その奥にもう一つの問題が見えてくる。
「何を載せたらいいのかわからない」
「うちの強みと言われても、特にない」
「他社との違いを聞かれても困る」
「代表挨拶って何を書けばいいんですか」
「実績はあるけれど、名前を出せない」
「料金を出すと、それだけで判断されそうで怖い」
この段階で必要なのは、まだデザインではない。
システムでもない。
SEOでもない。
SNSとの連携でもない。
まず必要なのは、言葉の整理だ。
ホームページは、情報を載せる場所だと思われている。
会社概要、サービス内容、料金、実績、よくある質問、問い合わせ先。
それらを用意すれば、一応ページはできる。
でも、情報が載っていることと、伝わることは違う。
会社概要に住所と設立年が載っていても、その会社がなぜ続いてきたのかは伝わらない。
サービス名が並んでいても、誰のどんな困りごとに向いているのかは伝わらない。
料金が載っていても、その金額に含まれる安心や手間や責任は伝わらない。
代表挨拶に「地域に貢献します」と書いてあっても、その人が本当に大事にしていることは伝わらない。
小さな会社のホームページで足りていないのは、情報量ではない。
むしろ、情報はすでにあることが多い。
過去の資料がある。
古いパンフレットがある。
名刺がある。
お客さんとのやりとりがある。
SNSに投稿した写真がある。
代表者が何度も口にしている言葉がある。
お客さんから言われた何気ない感想がある。
ただ、それらが散らばっている。
そして、どれを表に出せばいいのかが決まっていない。
だから、ホームページを作る前に、私はよくこう考える。
この会社は、何を言えば伝わるのか。
何を言わないほうが伝わるのか。
何を先に見せるべきなのか。
何をあとから読んでもらえばいいのか。
何を強調すると、逆に違うお客さんを呼んでしまうのか。
伝えるとは、全部を出すことではない。
選ぶことだ。
小さな会社ほど、全部を載せようとすることがある。
あれもできる。
これもできる。
昔はこんな仕事もしていた。
今も頼まれたら対応できる。
そうやってサービスを並べていくと、一見にぎやかなホームページになる。
けれど、読む側から見ると、何を頼めばいいのかわからなくなる。
たとえば、ある会社が十種類のサービスを載せていたとする。
実際には、そのうち一番頼まれたい仕事は二つだけだった。
残りは昔からの付き合いで続けている仕事や、頼まれたら断らない程度の仕事だった。
でも、ホームページ上では全部が同じ大きさで並んでいる。
すると、会社として本当に伸ばしたい仕事が埋もれてしまう。
逆に、もう積極的には増やしたくない仕事の問い合わせが来てしまう。
これは、ホームページの問題に見えて、経営の言葉の問題でもある。
何を増やしたいのか。
何を減らしたいのか。
誰に来てほしいのか。
誰に誤解されたくないのか。
どの仕事なら、自分たちらしく力を出せるのか。
そこが決まっていないと、ホームページはただの案内板になる。
案内板としては間違っていない。
でも、事業を前に進める力は弱い。
私は、ホームページを作るときに「何でもできます」と書くのが少し怖い。
もちろん、本当に幅広く対応できる会社もある。
長く続けている会社ほど、経験の幅は広い。
代表者も職人も、いろいろな現場をくぐってきている。
多少のことなら何とかする力がある。
でも、読む人は「何でもできます」という言葉を、あまり信用しない。
それよりも、
「こういう相談が多いです」
「こういう方に向いています」
「こういう場合は、最初にご相談ください」
「反対に、こういうご依頼はお受けしていません」
と書いてあるほうが安心することがある。
できることを増やして見せるより、できることの範囲を正直に見せる。
それだけで、問い合わせの質が変わることがある。
小さな会社の発信では、「断る言葉」も大事だ。
これは冷たい意味ではない。
自分たちに合わない仕事を無理に受け続けると、会社もお客さんも苦しくなる。
最初に合わないことがわかれば、お互いに時間を失わずに済む。
ところが、多くのホームページには「断る言葉」がない。
問い合わせを減らしたくないからだ。
せっかく来てくれるかもしれない人を逃したくない。
その気持ちはよくわかる。
でも、誰にでも向けた言葉は、誰にも届きにくい。
小さな会社は、大きな会社のように大量の問い合わせを処理する必要はない。
むしろ、本当に合う人から、無理なく続く相談が来るほうがいい。
そのためには、「誰に来てほしいか」と同じくらい、「誰に誤解されたくないか」を言葉にする必要がある。
私は、最初の打ち合わせで、強みより先にこの三つを聞くことがある。
どんな人に来てほしいですか。
どんな仕事を増やしたいですか。
どんな誤解をされたくないですか。
この三つに答えられると、ホームページの方向はかなり見えてくる。
価格の安さで選ばれたいのか。
安心感で選ばれたいのか。
専門性で選ばれたいのか。
近さで選ばれたいのか。
代表者の人柄で選ばれたいのか。
実績で選ばれたいのか。
小回りの良さで選ばれたいのか。
全部を同時に打ち出すことはできない。
打ち出したとしても、読まれない。
だから、選ぶ。
この「選ぶ」という作業が、思っている以上に難しい。
なぜなら、小さな会社の代表者にとって、自分の仕事は生活そのものに近いからだ。
売上を作るためだけのものではない。
家族の時間、地域との関係、昔からのお客さん、従業員との距離、先代から引き継いだもの、自分が我慢してきたこと、これから手放したいこと。
そういうものが全部、仕事の中に混ざっている。
だから、言葉にするのは怖い。
「うちはこういう会社です」と書くことは、同時に「こうではない」と決めることでもある。
「この仕事を大事にしています」と書くことは、他の仕事の優先順位を下げることでもある。
「こういうお客さんに来てほしい」と書くことは、別のお客さんには少し距離を置くことでもある。
ホームページ制作の打ち合わせで、沈黙が生まれるのは、だいたいこのあたりだ。
デザインの好みを聞いているときではない。
色やレイアウトを決めているときでもない。
本当に言うべきことに近づいたとき、人は少し黙る。
その沈黙を急がないことが、私の仕事では大事だと思っている。
小さな会社の言葉は、会議室で急に生まれるものではない。
日々の仕事の中に、すでにある。
お客さんとの会話にある。
断りきれずに引き受けた仕事の反省にある。
昔から変えていないやり方にある。
逆に、もう変えたいと思っていることにもある。
ホームページを作る前に必要なのは、それらを拾い上げる時間だ。
「何を書けばいいですか」と聞かれたとき、私はいつも思う。
書くことは、もうある。
ただ、まだ文章になっていないだけだ。
第2章 小さな会社の強みは、だいたい本人が気づいていない
「御社の強みは何ですか」
ホームページ制作の打ち合わせで、この質問を真正面からすると、たいてい場の空気が少し止まる。
「強みですか……」
「特にないですね」
「普通にやっているだけなので」
「他社さんと比べたことがないので、よくわからないです」
「昔からのお客さんに来てもらっているだけです」
そう返ってくることは多い。
けれど、私はこの答えをそのまま受け取らない。
「強みがない」のではない。
本人が、それを強みとして認識していないだけのことがほとんどだからだ。
小さな会社の強みは、派手な言葉で出てくることが少ない。
業界初。
地域最大級。
圧倒的実績。
最先端技術。
唯一無二のサービス。
そういう言葉で表せる強みもある。
もちろん、それが本当にあるなら出したほうがいい。
でも、小さな会社の現場で見つかる強みは、もっと地味だ。
電話に出るのが早い。
説明が丁寧。
急ぎの相談にできるだけ対応する。
お客さんの事情を覚えている。
難しい言葉を使わない。
小さな修正を嫌がらない。
売って終わりにしない。
できないことは、できないと言う。
長く付き合える人を大事にする。
本人たちは、こういうことを「普通」と言う。
でも、外から見れば、それは普通ではない。
特に、初めて相談する人にとっては、とても大きな安心材料になる。
どんな人が対応してくれるのか。
こちらの話をちゃんと聞いてくれるのか。
無理に売り込まれないか。
あとから困ったときに相談できるのか。
専門的すぎて置いていかれないか。
お客さんが本当に不安に思っているのは、商品やサービスそのものだけではない。
その前後にある、やりとりの不安だ。
だから、強みを探すときは、商品名やサービス名だけを見ていても足りない。
その会社が、お客さんとどう関わっているのかを見る必要がある。
ある地域の小さな店舗で、最初に相談を受けたとき、店主は何度もこう言っていた。
「うちは本当に普通なんです」
「特別なサービスがあるわけでもないです」
「昔から来てくれる人がいるだけで」
たしかに、外から見ると派手な特徴はなかった。
大きな看板があるわけでもない。
写真映えする内装でもない。
価格が特別安いわけでもない。
最新の予約システムを入れているわけでもない。
でも、話を聞いていくと、その店にははっきりした強みがあった。
年配のお客さんが多く、電話での問い合わせが中心だった。
メールやLINEより、電話のほうが安心する人が多い。
予約内容を間違えないように、店側では紙のメモを残していた。
初めて来る人には、近くの目印を使って道案内をしていた。
足の悪い人が来る時間帯には、入口まわりを少し気にしていた。
家族の分もまとめて相談されることが多く、その人の生活リズムまでなんとなく覚えていた。
店主にとっては、それは全部「普通のこと」だった。
でも、初めて利用する人にとっては違う。
特に、ネット予約やアプリに慣れていない人にとって、電話でちゃんと話を聞いてもらえることは大きな安心になる。
紙の案内があることも、道順をゆっくり説明してもらえることも、強みになる。
そこで、ホームページでは「地域密着の店です」とだけ書くのをやめた。
代わりに、
「お電話でのご相談も受け付けています」
「初めての方にも、場所やご利用の流れをわかりやすくご案内します」
「昔からのお客さまにも、初めての方にも、無理なくご利用いただけるよう心がけています」
という方向に整えた。
強いキャッチコピーではない。
でも、その店らしかった。
その打ち合わせでは、店主が何度も「普通です」と言った。
でも、その「普通」を聞いているうちに、私は店の中の景色を少しずつ想像していた。
電話で予約を受けるとき、相手が少し不安そうなら急がせない。
場所がわかりにくそうなら、近くの目印を使って説明する。
以前来た人なら、前回の話を少し覚えている。
年配のお客さんには、ネットではなく紙や電話のほうが安心なこともわかっている。
それは、店主にとっては宣伝するようなことではなかった。
むしろ、わざわざ書くのが少し恥ずかしいことだった。
でも、初めてその店を探している人にとっては、そこが知りたいところでもある。
どんな人が出てくるのか。
こちらが慣れていなくても大丈夫なのか。
急がされないのか。
わからないことを聞いてもよいのか。
店主が「普通」と呼んでいたものは、外の人にとっては安心の材料だった。
公開後、店主は「これなら自分でも言えます」と言った。
私は、その言葉を聞いて安心した。
ホームページの文章は、読んだ人に届くことも大事だ。
でも、その前に、そこに載っている言葉を本人が背負えるかどうかも大事だ。
本人が「普通」と思っていることの中に、外の人が安心する理由がある。
小さな会社の強みは、そういう場所に隠れていることが多い。
私は、強みを探すときに「お客さんからよく言われること」をよく聞く。
「助かりました」
「早く相談すればよかった」
「説明がわかりやすかった」
「安心しました」
「またお願いします」
「ここまでしてもらえると思いませんでした」
「前のところでは断られました」
こういう言葉の中には、事業者自身が気づいていない価値が入っている。
特に大事なのは、「前のところでは断られました」という言葉だ。
これは、単なる感謝ではない。
その会社が、他では拾われにくい困りごとを受け止めているということだ。
もちろん、何でも受ければいいわけではない。
無理な仕事や合わない依頼を受け続ければ、事業は苦しくなる。
けれど、自分たちが無理なく対応できて、なおかつ他では困っている人がいるなら、それは大きな強みになる。
強みとは、自分が得意なことだけではない。
誰かが困っていて、自分たちなら自然にできることでもある。
本人にとって自然にできることほど、本人は価値だと思わない。
努力して身につけたことではなく、長年の仕事の中で当たり前になっているからだ。
たとえば、説明が苦手な人の話をじっくり聞ける。
年配のお客さんに合わせて、紙で案内を用意する。
メールより電話のほうが早い人には、電話で確認する。
細かい修正を面倒がらずに受ける。
急に予定が変わる業種の事情をわかっている。
家族経営ならではの意思決定の遅さも含めて待てる。
こういうことは、効率だけで見れば遠回りかもしれない。
でも、その遠回りが安心になる人もいる。
小さな会社は、大きな会社のようにすべてを仕組みにできない。
その代わり、人が見える。
誰が対応するのかがわかる。
相談の途中で少し立ち止まれる。
マニュアルではなく、事情に合わせて考えられる。
そこに価値がある。
ただし、その価値は言葉にしなければ伝わらない。
「親身に対応します」では足りない。
「お客様に寄り添います」でも足りない。
その会社がどんなふうに親身で、どんな場面で寄り添うのか。
そこまで書いて、ようやく読み手に届く。
小さな会社の文章で大事なのは、誰でも使える言葉を、その会社にしか使えない言葉に近づけることだ。
すごいと言わずに、何をしているかを書く。
丁寧と言わずに、どこで手間をかけているかを書く。
安心と言わずに、どんな不安を減らしているかを書く。
地域密着と言わずに、地域の中でどう動いているかを書く。
読み手が読んだあとに、「だから安心できそうだ」と自分で感じられるようにする。
それが、小さな会社の強みを言葉にするということだ。
第3章 「伝えること」と「盛ること」は違う
ホームページの文章を考えていると、必ず一度はこの境目に立つ。
どこまで良く見せるか。
どこまで強く言うか。
どこまで自信があるように書くか。
仕事を増やしたい。
問い合わせを増やしたい。
採用につなげたい。
競合と比べられたときに負けたくない。
そう考えるのは自然なことだ。
だから、言葉はつい強くなる。
「地域ナンバーワン」
「圧倒的な実績」
「高品質なサービス」
「お客様満足度が高い」
「安心と信頼の」
「選ばれ続けています」
「どんなご相談にも対応します」
こういう言葉は、決して悪い言葉ではない。
本当にそう言える根拠があるなら、使えばいい。
けれど、小さな会社のホームページでそれらの言葉を見るとき、私は少し慎重になる。
その言葉は、その会社に本当に似合っているだろうか。
読み手は、それを信じられるだろうか。
代表者本人が、その言葉を声に出して言えるだろうか。
ここが大事だと思っている。
ホームページの文章は、会社の外に出る言葉だ。
でも同時に、会社の中の人が背負う言葉でもある。
いくら見栄えのする文章でも、本人が違和感を持っている言葉は長く持たない。
公開したあとで、自分のホームページを見るたびに少し恥ずかしくなる。
お客さんに見られたときに、どこか落ち着かない。
問い合わせが来ても、その期待に応えられるか不安になる。
それは、良い文章ではない。
伝えることと、盛ることは違う。
伝えるとは、すでにある価値を、相手に届く形に整えることだ。
盛るとは、実際より大きく見せることだ。
この二つは、似ているようでまったく違う。
伝えるためには、言葉を選ぶ。
盛るためにも、言葉を選ぶ。
伝えるためには、良いところを見つける。
盛るためにも、良いところを見つける。
表面だけを見ると、作業は似ている。
けれど、向いている方向が違う。
伝える言葉は、読み手との信頼に向かっている。
盛る言葉は、見られ方の不安に向かっている。
この違いは、文章に出る。
たとえば、「丁寧に対応します」という言葉がある。
これはよく使われる。
ただ、そのままだと少し弱い。
だからといって、
「どこよりも丁寧な対応で、お客様から圧倒的な支持をいただいています」
と書けばよいわけではない。
それよりも、
「初めての方にも内容を確認しながら進めます」
「ご相談内容によっては、すぐに契約をすすめず、まず状況整理から行います」
「専門的な内容も、できるだけ日常の言葉で説明します」
と書いたほうが、伝わることがある。
強く言っていない。
大げさにもしていない。
でも、読み手は具体的に想像できる。
「この会社なら、話を聞いてくれそうだ」
「わからないまま進まなさそうだ」
「最初に相談しても大丈夫かもしれない」
そう思ってもらえる。
文章で大事なのは、相手の頭の中に場面が浮かぶことだ。
「安心です」と書くより、どんな不安を減らすのかを書く。
「実績があります」と書くより、どんな相談に対応してきたのかを書く。
「地域密着です」と書くより、どの地域のどんな人と関わってきたのかを書く。
「柔軟に対応します」と書くより、どこまで相談できて、どこからは難しいのかを書く。
これは、言葉を弱くすることではない。
むしろ、言葉を強くすることだ。
実績を出せない団体のホームページを考えたこともある。
仕事の性質上、具体的な名前は出せない。
写真も出しにくい。
関わった相手の情報を細かく書くこともできない。
それでも、外から見た人には、何をしている団体なのか、どんな相談ができるのかを伝えなければならない。
最初は、どうしても文章がぼんやりした。
「幅広い支援を行っています」
「さまざまなご相談に対応しています」
「安心してご相談いただけます」
間違ってはいない。
でも、これでは読み手の中に何も残らない。
そこで、実名を出すのではなく、相談の傾向を整理することにした。
どんな業種からの相談が多いのか。
どんな段階で困っている人が多いのか。
最初の相談では何を聞くのか。
相談後には、どんな流れで進むのか。
反対に、対応できないことは何か。
具体名を出さなくても、伝えられることはあった。
「個別の名称は掲載できませんが、これまでに地域団体、医療・福祉関係、専門職、店舗運営など、継続的な情報整理が必要な現場を支援してきました」
「初回のご相談では、すぐに結論を出すのではなく、現在の状況、困っている点、公開できる情報と公開できない情報を整理するところから始めます」
こう書くと、少し見え方が変わった。
実績名は出していない。
数字も大きく見せていない。
でも、どんな相談に向き合ってきたのかは伝わる。
伝えることは、すべてを公開することではない。
公開できないものを守りながら、公開できる範囲で信頼の材料を置くことでもある。
小さな会社や団体には、出せない情報がある。
守るべき関係がある。
言いすぎると、かえって信頼を損なうこともある。
だからこそ、「何を書くか」と同じくらい、「何を書かないか」が大事になる。
盛らずに伝えるとは、ただ控えめに書くことではない。
守るべきものを守りながら、それでも必要な人に届く言葉を探すことだ。
大きな言葉は、一瞬強く見える。
でも、読み手の中に具体的な景色を作れないことが多い。
一方で、具体的な言葉は派手ではないが、残る。
小さな会社の文章には、この「残る感じ」が必要だと思っている。
広告のように一瞬で目を引く言葉も必要な場面はある。
キャンペーンや新商品やイベントなら、強い見出しが効くこともある。
けれど、会社そのものを伝える文章では、それだけでは足りない。
小さな会社が本当にほしいのは、一度きりの反応ではなく、合う人からの相談だ。
自分たちの仕事を理解してくれる人。
無理な期待をしすぎない人。
長く付き合える人。
必要なタイミングで思い出してくれる人。
そういう人に届く言葉は、過剰に飾らないほうがよい。
もちろん、控えめすぎても伝わらない。
小さな会社の代表者は、よく遠慮する。
「そんなに立派なことは書けません」
「うちは小さいので」
「大きな会社みたいにはできません」
「実績といっても、名前は出せないものが多いです」
「自分で言うのは恥ずかしいです」
その気持ちはよくわかる。
特に長く地域で仕事をしている人ほど、自分から大きなことを言うのを嫌がる。
知っている人に読まれることも意識する。
近所の人、お客さん、取引先、同業者。
顔が見える範囲で仕事をしているからこそ、言葉を強くしすぎることに抵抗がある。
でも、遠慮しすぎると、何も伝わらない。
「お気軽にお問い合わせください」
「誠実に対応します」
「地域の皆さまのお役に立てるよう努めます」
悪い文章ではない。
けれど、それだけでは、その会社を選ぶ理由にはなりにくい。
盛らずに、でも引っ込めすぎない。
この中間を探す必要がある。
私はそれを、「ちょうどよく正直に書く」と考えている。
小さな会社にとって、言葉は大きすぎても小さすぎてもいけない。
大きすぎる言葉は、実態から浮いてしまう。
小さすぎる言葉は、価値を伝えきれない。
ちょうどいい言葉を探す必要がある。
その「ちょうどいい」は、会社によって違う。
元気な言葉が似合う店もある。
静かな言葉が似合う事務所もある。
専門性を前に出したほうがよい業種もあれば、まず人柄を見せたほうがよい業種もある。
価格をはっきり出したほうが安心される場合もあれば、最初に相談の流れを見せたほうがよい場合もある。
だから、他社の成功例をそのまま真似してもうまくいかない。
「同業他社がこう書いているから」
「有名な会社のサイトがこうだから」
「検索で上に出ているページがこうだから」
それを参考にすることはある。
でも、最後に必要なのは、自分たちに合う言葉だ。
強みは、外から借りてくるものではない。
すでにあるものを、見える形にするものだ。
第4章 AIで文章は整う。でも、何を言うかは現場にしかない
文章を書く仕事は、ここ数年で大きく変わった。
AIに見出しを考えてもらう。
文章を整えてもらう。
言い換え案を出してもらう。
構成を作ってもらう。
長い文章を要約してもらう。
不足している視点を出してもらう。
以前なら時間がかかっていた作業の多くが、短い時間でできるようになった。
私自身も、AIを使う。
使わない理由はないと思っている。
小さな会社のホームページ制作や情報発信にとって、AIはかなり心強い道具だ。
文章が苦手な人でも、最初のたたき台を作れる。
何を書けばいいかわからないときに、候補を出せる。
専門的な内容を、やわらかい表現に変えられる。
長すぎる文章を短くできる。
逆に、箇条書きのメモから文章を広げることもできる。
これまで「書けない」で止まっていた人にとって、AIは入口を作ってくれる。
それは大きい。
小さな会社では、文章を書く専任の人がいないことが多い。
代表者が営業も現場も経理も採用も見ている。
事務の人が、電話対応や請求書作成の合間にお知らせを更新している。
SNSも、ブログも、求人ページも、誰かの余力で回っている。
その状態で、「定期的に発信しましょう」と言われても難しい。
だから、AIを使って負担を減らすことには意味がある。
完璧な文章を一から書こうとして止まるより、まず下書きを出して、直していくほうがいい。
白紙の画面を前にして固まる時間が減るだけでも、発信は続けやすくなる。
けれど、AIを使うほど、はっきり見えてくることもある。
AIは文章を整えてくれる。
でも、何を言うべきかまでは、現場の代わりに決めてくれない。
ここを間違えると、文章はきれいなのに、どこの会社のものかわからなくなる。
「地域に根ざしたサービスを提供しています」
「お客様一人ひとりに寄り添います」
「豊富な経験を活かし、最適なご提案を行います」
「安心してご相談いただける環境を整えています」
こういう文章は、AIがとても上手に出してくれる。
悪い文章ではない。
日本語としても自然だ。
読みやすい。
失礼もない。
整っている。
でも、少し距離がある。
その会社のにおいがしない。
誰が話しているのかが見えない。
どんなお客さんと向き合っているのかが見えない。
どこで悩んできたのかが見えない。
文章が整いすぎると、かえって消えてしまうものがある。
小さな会社の文章に必要なのは、きれいさだけではない。
その会社の温度だ。
温度というと感覚的に聞こえるかもしれない。
でも、実際のホームページではとても大事だ。
代表者が少し照れながら話していたこと。
お客さんとの会話で何度も出てくる言葉。
現場の人が当たり前のようにしている工夫。
長く続けてきたからこそ、あえて強く言わないこと。
本当は変えたいけれど、まだ変えきれていないこと。
昔からのお客さんに支えられているという実感。
そういうものは、AIに何も伝えなければ出てこない。
AIは、空気を読んでいるように見える。
でも、その会社の空気を吸っているわけではない。
現場に立っていない。
打ち合わせで沈黙した代表者の顔を見ていない。
工場の奥に貼られた古い予定表を見ていない。
店の入口に置かれた手書きの案内を見ていない。
何度も修正されたチラシの言葉を見ていない。
電話口でお客さんに謝っている声を聞いていない。
そこに、その会社の言葉の材料がある。
だから、AIを使う前に必要なのは、材料を集めることだと思っている。
材料がないままAIに頼むと、一般的な文章が出てくる。
材料を入れれば、かなり使える文章になる。
でも、その材料を見つけるのは、人間の仕事だ。
たとえば、ある店の紹介文を書くとする。
「地域に愛されるお店です」と書くことはできる。
AIもきれいに整えてくれる。
でも、本当に知りたいのは、その中身だ。
どの地域の人が来るのか。
どれくらい前から通っている人がいるのか。
どんな時間帯に、どんな人が来るのか。
店主はお客さんの何を覚えているのか。
常連さんは何と言ってくれるのか。
初めての人はどこで少し緊張するのか。
店側は、その緊張をどうほどいているのか。
そこまで聞けば、「地域に愛される」という言葉を使わなくても、地域に愛されていることは伝えられる。
AIには、その材料を渡す。
「京都の住宅街で長く続く店。昔からの常連が多い。初めての人にも入りやすいよう、店主は声をかけすぎず、でも困っていそうならすぐに案内する。派手な店ではないが、日常の中で思い出してもらえる場所」
こういう材料があれば、AIはずいぶん良い下書きを出してくれる。
つまり、AIに任せるべきなのは、ゼロから会社らしさを発明することではない。
すでに見つけた材料を、読みやすい形に整えることだ。
ここを逆にしてはいけない。
AIに「うちの強みを考えて」と頼むことはできる。
候補もたくさん出てくる。
でも、その候補が本当に自分たちの強みかどうかは、自分たちで判断しなければならない。
「迅速な対応」
本当に迅速なのか。
どの範囲なら迅速と言えるのか。
忙しい時期でも約束できるのか。
「高品質」
何をもって高品質と言うのか。
誰がそれを評価しているのか。
他社とどう違うのか。
「柔軟な対応」
どこまで柔軟なのか。
何でも受けるという意味ではないのか。
無理な相談まで呼び込まないか。
AIが出してくれた言葉は、入口にはなる。
でも、その言葉を自分たちが背負えるかどうかを確認する必要がある。
私自身、言葉を整えすぎて失敗したことがある。
あるホームページの文章を作っていたとき、私はできるだけ読みやすく、きれいに、誤解のない表現にしようとしていた。
長い言葉を短くした。
少し癖のある言い回しを直した。
代表者が話していた不器用な言葉を、一般的な表現に置き換えた。
業界の人ならではの言葉も、初めて読む人にわかるように整えた。
文章としては、よくなったと思っていた。
でも、確認してもらったとき、代表者の反応は少し違った。
「わかりやすいんですけど、ちょっと自分たちじゃない感じがします」
その一言で、はっとした。
私は読みやすくすることに気を取られて、その人が話していたときの温度まで消していた。
確かに文章は整っていた。
でも、整いすぎていた。
その会社は、早さや派手さを売りにする会社ではなかった。
少し時間をかけて話を聞き、相手の事情を確認しながら進める会社だった。
代表者の言葉も、勢いよく売り込むものではなく、少し立ち止まりながら相手を見ているような言葉だった。
それを、私は「わかりやすさ」の名目で平らにしてしまっていた。
そのときから、文章を整えるときには、必ずこう考えるようになった。
読みやすくなった代わりに、何か消えていないか。
言葉がきれいになった代わりに、その人らしさが薄くなっていないか。
一般的な表現にしたことで、どこの会社にも使える文章になっていないか。
文章は、直せば直すほどよくなるとは限らない。
直したほうがいい言葉もある。
誤解される表現は避けたほうがいい。
長すぎる文章は整理したほうがいい。
でも、その人の仕事の姿勢まで消してしまうと、文章は弱くなる。
AIを使うようになってから、この失敗をさらに意識するようになった。
AIは、文章をなめらかにするのが得意だ。
ただ、そのなめらかさの中で、現場のひっかかりが消えることがある。
小さな会社の言葉には、ときどき少しだけひっかかりが必要だ。
大きな会社のような早さはない。
でも、一件ずつ確認する。
安さでは勝てない。
でも、無理な提案はしない。
何でもできるわけではない。
でも、合う相談には長く付き合う。
その正直なひっかかりが、信頼になることがある。
整えることと、消してしまうことは違う。
この失敗は、今でも私の中に残っている。
AI時代の文章づくりで大事なのは、AIに書かせることではなく、AIを使って「自分たちの言葉に戻ってくる」ことだと思っている。
まず材料を出す。
AIに整理させる。
出てきた文章を読んで、違和感を探す。
違和感のある言葉を外す。
足りない現場の情報を足す。
言いすぎを弱める。
弱すぎるところを少し立てる。
最後に、代表者が読んで自分の言葉として受け取れるか確認する。
この流れなら、AIは小さな会社の味方になる。
逆に、材料を出さずにAIだけで整えようとすると、どこの会社にも使える文章になる。
どこの会社にも使える文章は、どこの会社の言葉にもならない。
小さな会社がAIを使うときこそ、自分たちの現場をよく見る必要がある。
AIに文章を書かせる前に、私はまず次のような材料を集める。
お客さんからよく言われること。
初めての相談で必ず説明していること。
よく誤解されること。
本当は増やしたい仕事。
無理に増やさなくてもいい仕事。
他社では断られやすいけれど、自分たちなら受け止められる相談。
代表者が何度も口にする言葉。
逆に、本人が恥ずかしがって言わないけれど、外から見ると価値があること。
これらを箇条書きで出してからAIに渡すと、文章は変わる。
「会社紹介を書いてください」ではなく、
「この会社にはこういうお客さんが多く、こういう不安を減らしていて、こういう仕事は増やしたいが、こういう相談は無理に増やしたくない。その前提で、初めて読む人に伝わる紹介文にしてください」
と頼む。
AIに良い文章を書かせるために必要なのは、良い命令文だけではない。
良い材料だ。
そして、その材料は、会社の外ではなく、日々の仕事の中にある。
普段どんな相談を受けているのか。
お客さんは何に困っているのか。
自分たちはどこで手間をかけているのか。
何を大事にしているのか。
何を無理に広げたくないのか。
どんな人に来てほしいのか。
AIが進化すればするほど、こういう問いが大事になる。
なぜなら、問いが浅ければ、答えも浅くなるからだ。
第5章 公開ボタンを押す日は、少し怖い
ホームページ制作の最後には、必ず「公開」という瞬間がある。
文章を入れる。
写真を選ぶ。
スマートフォンで確認する。
リンクを確認する。
誤字を直す。
フォームの送信テストをする。
表示崩れがないか見る。
作業としては、いくつもの確認項目がある。
けれど、公開直前の緊張は、技術的なチェックだけでは説明できない。
公開ボタンを押すということは、その会社の言葉を外に出すことだ。
知っている人にも、知らない人にも、同業者にも、昔のお客さんにも、これから出会う人にも見える場所に置くことだ。
だから、少し怖い。
「これで大丈夫でしょうか」
「ちょっと大げさではないですか」
「この写真でいいですか」
「料金を出してしまって問題ないでしょうか」
「この表現、知っている人が見たらどう思いますか」
公開前になると、こうした不安が出てくる。
私は、それを悪いことだとは思わない。
むしろ、自然なことだと思っている。
自分たちの仕事を外に出すのは、勇気がいる。
特に小さな会社ほど、ホームページは単なる広告ではない。
代表者本人やスタッフの顔、これまでの歩み、地域との関係、これから何をしていきたいかが、そのまま出る。
大きな会社なら、広報部や制作会社や広告代理店が間に入る。
言葉も少し会社の外側にある。
でも、小さな会社では、言葉が本人に近い。
代表挨拶を書けば、そのまま代表者の言葉になる。
サービス紹介を書けば、そのまま日々の仕事の説明になる。
料金を書けば、その金額で判断される。
実績を書けば、過去の仕事を見られる。
写真を載せれば、店や事務所や現場の空気が見える。
公開とは、隠れていたものを外に出すことだ。
もちろん、すべてを出す必要はない。
出さないほうがいい情報もある。
取引先の名前、個人が特定される内容、社内の事情、まだ固まっていない方針。
公開するものと、公開しないものを分けることも大事な仕事だ。
でも、何も出さなければ伝わらない。
ここに、ホームページ制作の難しさがある。
出しすぎてもいけない。
出さなさすぎてもいけない。
良く見せすぎてもいけない。
控えすぎても届かない。
公開前の不安は、その境目に立っているから生まれる。
私は、公開前に「完璧にしましょう」とはあまり言わない。
もちろん、間違いは直す。
見落としも減らす。
法律や権利や個人情報に関わることは慎重に見る。
でも、完璧になってから公開しようとすると、いつまでも公開できない。
小さな会社のホームページは、公開して終わりではない。
公開してから育てるものだ。
最初からすべてのページが揃っていなくてもいい。
完璧な写真がなくてもいい。
代表挨拶が少し硬くてもいい。
実績紹介がまだ少なくてもいい。
お知らせの更新がこれからでもいい。
大事なのは、今の時点で外に出せる言葉を、まず出すことだ。
公開すると、反応が返ってくる。
問い合わせが来る。
知り合いから「見ました」と言われる。
思っていたページとは違うところを読まれる。
想定していなかった質問が来る。
逆に、期待していた反応が来ないこともある。
その反応を見て、直していく。
ホームページは、紙のパンフレットと違って、公開後に直せる。
この当たり前のことに、ずいぶん助けられてきた。
もちろん、公開時点でいい加減でよいという意味ではない。
でも、最初から完成形を目指しすぎると、言葉が動けなくなる。
会社も仕事も変わる。
お客さんも変わる。
代表者の考えも変わる。
ならば、ホームページの言葉も変わっていい。
公開ボタンは、終わりのボタンではない。
始まりのボタンだ。
ただ、その始まりには覚悟がいる。
ある会社のホームページを公開したあと、代表者から言われたことがある。
「自分たちが何をしている会社なのか、初めてちゃんと見えた気がします」
その言葉を聞いたとき、私はうれしかった。
問い合わせが増えたという報告もうれしい。
検索順位が上がったという報告もうれしい。
でも、それとは別のうれしさがあった。
ホームページを作ることで、会社自身が自分たちを見直す。
それは、外に向けた発信であると同時に、内側に向けた確認でもある。
自分たちは、何を大事にしてきたのか。
これから何を増やしたいのか。
誰に来てほしいのか。
何は無理に受けないのか。
どんな言葉なら、自分たちらしく背負えるのか。
公開までの過程で、そういうことを何度も考える。
だから、公開日は少し怖い。
でも、その怖さには意味がある。
怖さがまったくない公開は、たぶん何も賭けていない。
どこにでもある言葉を並べただけなら、怖くない。
誰にも嫌われない文章だけなら、怖くない。
何も決めていないホームページなら、怖くない。
でも、誰に届けたいかを決めた言葉は怖い。
自分たちの姿勢を出した文章は怖い。
できることとできないことを書いたページは怖い。
価格や流れや考え方を出すことは怖い。
その代わり、届く可能性がある。
言葉は、ぼやけていれば安全に見える。
でも、ぼやけた言葉は通り過ぎられる。
少しだけ輪郭を出すから、誰かに見つけてもらえる。
小さな会社に必要なのは、派手な宣言ではない。
でも、何も言わないことでもない。
「私たちは、こういう仕事をしています」
「こういう方の役に立てます」
「こういう進め方を大事にしています」
「これは得意ですが、これは向いていません」
「急には大きくなれませんが、長く続けることを大事にしています」
そういう言葉を、少しずつ外に出すことだ。
公開ボタンを押した瞬間に、世界が大きく変わるわけではない。
翌日から問い合わせが殺到するわけでもない。
売上が劇的に伸びるわけでもない。
でも、会社の外に、ひとつ言葉の置き場所ができる。
誰かに紹介するとき、見てもらえる場所がある。
名刺を渡したあと、確認してもらえる場所がある。
検索した人が、今の会社の姿を見られる場所がある。
迷っている人が、問い合わせる前に安心できる場所がある。
それだけでも、大きい。
小さな会社にとってホームページは、巨大な広告塔でなくてもいい。
無理に毎日人を集める場所でなくてもいい。
ただ、必要なときに、必要な人が見に来て、
「ここなら相談してもよさそうだ」
と思える場所であればいい。
その場所を作るために、言葉を整える。
写真を選ぶ。
流れを作る。
問い合わせの入口を置く。
そして、公開する。
公開ボタンを押す日は、少し怖い。
でも、その怖さを越えた先にしか、届かない言葉がある。
第6章 小さな会社には、小さな会社の伝わり方がある
小さな会社は、大きな会社のように伝えなくてもいい。
これは、二十年以上この仕事を続けてきて、少しずつ確信に変わってきたことだ。
もちろん、大きな会社の発信には学ぶところがある。
見やすいデザイン。
整理された導線。
わかりやすいサービス説明。
統一されたブランドイメージ。
採用ページの見せ方。
問い合わせまでの流れ。
参考にできることは多い。
でも、そのまま真似をすると、小さな会社は苦しくなることがある。
大きな会社には、大きな会社の伝え方がある。
小さな会社には、小さな会社の伝え方がある。
同じように見せる必要はない。
小さな会社の強さは、規模ではない。
顔が見えることだ。
誰が対応するのかがわかることだ。
話を聞いてもらえそうだと思えることだ。
地域やお客さんとの距離が近いことだ。
大げさではない言葉に、実感があることだ。
だから、小さな会社のホームページに必要なのは、立派に見せることではない。
その会社らしく、信頼できる形で見えることだ。
見た目がきれいでも、どこの会社かわからないホームページがある。
文章が整っていても、誰に向けているのかわからないページがある。
情報は多いのに、問い合わせていいのか迷うサイトがある。
反対に、派手ではないけれど、安心できるホームページもある。
代表者の言葉が自然に読める。
サービスの説明が具体的で、無理に広げていない。
料金や流れがわかる。
できることと、できないことが見える。
写真にその場所の空気がある。
問い合わせる前の不安が少し減る。
そういうホームページは、強い。
検索順位だけで強いのではない。
デザインだけで強いのでもない。
読んだ人が、「ここに相談してもよさそうだ」と思える。
その意味で強い。
小さな会社の伝わり方は、速さや量だけでは測れない。
毎日発信できなくてもいい。
すべてのSNSを使えなくてもいい。
動画を作れなくてもいい。
月に一度のお知らせでもいい。
よく聞かれる質問を一つずつ増やすだけでもいい。
お客さんに何度も説明していることを、ページに残すだけでもいい。
小さな会社にとって大事なのは、発信量を競うことではない。
必要な人が必要なときに見つけられるように、言葉を置いておくことだ。
私は、ホームページを「言葉の倉庫」のように考えることがある。
その会社の考え方。
サービスの説明。
料金の考え方。
よくある相談。
お客さんに先に伝えておきたいこと。
これまで積み重ねてきた仕事。
これから大事にしたい方向。
それらを、必要な場所に置いておく。
すると、営業が少し楽になる。
問い合わせ対応が少し楽になる。
説明の手間が少し減る。
紹介してくれる人も、伝えやすくなる。
初めての人も、安心しやすくなる。
ホームページは、魔法の道具ではない。
公開しただけで仕事が増えるとは限らない。
すぐに売上が変わらないこともある。
検索に時間がかかることもある。
更新が止まることもある。
でも、ちゃんと言葉が置かれているホームページは、少しずつ効いてくる。
名刺を渡したあと。
紹介された人が検索したとき。
求人に応募しようか迷っている人が見たとき。
久しぶりに連絡しようかと思ったお客さんが確認したとき。
SNSの投稿から詳しく知りたい人が来たとき。
そのとき、そこに今の言葉があるかどうか。
これは小さな差に見える。
でも、積み重なると大きい。
では、小さな会社が最初に何をすればいいのか。
立派なキャッチコピーを考える必要はない。
いきなりSNSを毎日更新しようとしなくてもいい。
AIに会社紹介を丸ごと書かせる前に、まず手元の言葉を集めたほうがいい。
最初に書き出すなら、この三つでいいと思っている。
一つ目は、お客さんからよく言われること。
「助かりました」
「説明がわかりやすかった」
「早く相談すればよかった」
「ここまでしてもらえると思わなかった」
「前のところでは断られました」
こういう言葉の中には、外から見た価値が入っている。
自分では強みだと思っていなくても、お客さんはそこに価値を感じている。
二つ目は、何度も説明していること。
営業時間。
相談の流れ。
料金の考え方。
最初に用意してほしいもの。
できることとできないこと。
よく誤解されること。
何度も電話やメールで説明していることは、ホームページに載せる意味がある。
それは、お客さんの不安を減らすだけではない。
会社側の説明の手間も減らす。
三つ目は、本当は増やしたい仕事と、無理に増やさなくていい仕事。
これは少し経営に近い話になる。
でも、とても大事だ。
ホームページに何を載せるかは、これからどんな仕事を増やしたいかとつながっている。
昔からやっている仕事を全部同じ大きさで並べると、本当に増やしたい仕事が埋もれる。
逆に、もう無理に増やしたくない仕事を大きく見せると、その問い合わせが増えてしまう。
だから、書く前に考える。
これから増やしたい仕事は何か。
今後も大事にしたいお客さんは誰か。
もう少し減らしたい仕事はあるか。
価格だけで選ばれたくない仕事は何か。
自分たちらしく力を出せる相談は何か。
この三つを書き出すだけでも、ホームページや発信の言葉は変わる。
お客さんからよく言われること。
何度も説明していること。
増やしたい仕事と、無理に増やさなくていい仕事。
ここに、その会社の言葉の材料がある。
大きな言葉を探す前に、まずこの三つを見る。
流行の発信方法を試す前に、自分たちの中にすでにある言葉を拾う。
AIに整えてもらうのは、そのあとでもいい。
小さな会社の発信は、外から借りた言葉で始めなくていい。
すでに日々の仕事の中にある言葉から始めればいい。
この仕事をしていると、何度も同じ場面に出会う。
「うちはそんなに書くことがないです」
「特別なことはしていません」
「大きな会社ではないので」
「今さら発信しても遅いでしょうか」
「何から始めたらいいかわかりません」
そのたびに思う。
書くことがないのではない。
まだ見つけていないだけだ。
特別なことをしていないのではない。
特別という言葉に合わない、日々の積み重ねがあるだけだ。
大きな会社ではないからこそ、伝えられることがある。
今さらではなく、今の言葉に直す意味がある。
何から始めるか迷うなら、まずお客さんに何度も説明していることから書けばいい。
発信は、遠くの知らない誰かに向けたものだけではない。
目の前のお客さんのためにもある。
未来のお客さんのためにもある。
紹介してくれる人のためにもある。
そして、自分たち自身が迷わないためにもある。
言葉にすると、仕事の輪郭が見える。
何を大事にしているのか。
何を引き受けたいのか。
何は無理に受けないのか。
誰に来てほしいのか。
これからどこへ向かいたいのか。
それらは、頭の中にあるだけでは曖昧なままだ。
文章にしようとしたとき、初めて迷いが見える。
そして、迷いが見えるから、考え直せる。
小さな会社にとって、ホームページを作ることは、自分たちの仕事を見直す機会でもある。
これまで当たり前にやってきたこと。
続けたいこと。
もう無理に続けなくてもいいこと。
外に出したほうがいいこと。
まだ出さないほうがいいこと。
それを一つずつ選んでいく。
その作業は、華やかではない。
すぐに成果が見えるとも限らない。
でも、地味で大事な仕事だ。
AIが進み、情報が増え、誰でも簡単に文章を作れる時代になった。
だからこそ、これからは「その会社の言葉かどうか」がますます大事になると思う。
整った文章は増える。
きれいなページも増える。
似たような表現も増える。
「地域密着」「親切丁寧」「安心と信頼」「お客様に寄り添う」という言葉は、これからもあちこちに並ぶだろう。
その中で、読む人に残るのは、実感のある言葉だ。
大きすぎない言葉。
でも、逃げていない言葉。
その会社の現場から出てきた言葉。
代表者が自分の声で言える言葉。
お客さんが読んで、実際の仕事とつながる言葉。
小さな会社には、その言葉が必要だ。
私はこれまで、たくさんのホームページを作ってきた。
でも、作ってきたのはページだけではなかったのだと思う。
言葉の置き場所を作ってきた。
まだ整理されていない思いを、外に出せる形にしてきた。
当たり前だと思われていた仕事の価値を、少し見えるようにしてきた。
言いすぎないように、でも隠れすぎないように、ちょうどいい言葉を探してきた。
そしてそのたびに、小さな会社の中には、まだ言葉になっていないものがたくさんあると感じてきた。
長く続けてきた理由。
お客さんに選ばれている理由。
断れずに引き受けてきた仕事の中にある優しさ。
派手には言えないけれど、大事にしてきた姿勢。
効率だけでは切り捨てられない関係。
もう少し先に残したい仕事。
それらは、放っておくと見えないままになる。
でも、言葉にすれば、誰かに届く。
小さな会社は、まだ言葉になっていない。
それは、弱さではない。
まだ外に出せる価値が残っているということだ。
大きな言葉を借りなくていい。
流行の言葉で飾らなくていい。
無理に立派に見せなくていい。
ただ、自分たちの仕事を、必要としている人に届く形で言葉にする。
それは、簡単なことではない。
ときには怖い。
迷う。
言いすぎたり、引っ込めすぎたりする。
公開したあとで直したくなることもある。
それでも、言葉にする意味はある。
言葉にしたものだけが、誰かに見つけてもらえる。
言葉にしたものだけが、次の仕事につながることがある。
言葉にしたものだけが、会社の中に残っていく。
ホームページを作る前に、言葉を探す。
強みに気づく。
盛らずに伝える。
AIを使いながらも、現場に戻る。
怖さを越えて公開する。
そして、小さな会社らしい伝わり方を育てていく。
それが、私がこの仕事を通して学んできたことだ。
小さな会社は、まだ言葉になっていない。
だからこそ、これから言葉にできる。
