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【余白のエロス】 スイッチが入った瞬間、世界は裏返る


毎朝のルーティン。

布団から出て、顔を洗って、湯を沸かす。

カフェオレを入れる。


ぼんやりしたままカーテンを開けると、

今日も変わらない朝がはじまる。


──昨日と同じようで、

なにかが、すこしズレている。


そのズレは、いつも唐突にやってくる。

それは音だったり、光の角度だったり、

通りすがりの誰かの香水だったりする。


でも今日は、自分の指先だった。


カップを持ち上げたとき、

カップのふちをなぞるように小指がふれた。

その瞬間、スイッチが、入った。


世界が、じんわりと裏返る。

冷たい空気が、肌にまとわりつく感触になる。

手のひらの感覚が過敏になり、

音が、遠くて、近くなる。


わたしは今、あちら側にいる。


鼓動が、やけに近い。

首の奥が熱をもちはじめる。

足のつけ根の内側が、じわっとうずく。


何もしなくても、感じてしまう。

肌が、呼吸している。

下腹部に熱が灯る。


わたしの中の欲しいが目を覚ます。

だれかを求めているんじゃない。

自分で自分を、やさしく抱きしめるように。

ひとりきりで、ただ静かに、心をほどいていく。


手のひらで触れた感覚が、そのまま脳に届く。

濡れたようなまどろみ。

やわらかい快感が、波のように押し寄せて、

思考をすこしずつ塗りかえていく。


ここにいていい。

そう言ってくれてる気がした。


わたしは、わたしで、救える。

わたしだけの世界の裏側で、

何度でも、愛しなおせる。


誰にも見せなくていい。

誰にも教えなくていい。


ここは、

わたしだけの、秘密の救済。


エロなんて、ただの快楽じゃない。

それは、わたしがわたしを保つための、

一瞬のまたたき。


まばたきひとつで世界が裏返るなら──

その裏側に、わたしはちゃんと、生きている。



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