幼児教室の講師が使ってはいけないことば――「見られてるよ」が子どもの心に与える意外な影響
「見られてるよ」という声かけ、気になったことはありませんか。幼児期に与えたい価値観と、そうでない価値観。ことばの選び方が、子どもの内側を大きく変えます。
幼児教室の授業参観や送迎の際に、講師が子どもたちにかけることばを耳にして、「あれ?」と感じたことはないでしょうか。
今回は、ある幼児教室で実際に見聞きした場面をもとに、幼児への「ことばの選び方」について考えてみたいと思います。特定の講師や教室を批判したいわけではありません。ただ、幼児期にどんなことばの環境に置かれるかが、子どもの育ちに深く関わるという視点を、保護者の方と共有したいと思っています。
「見られてるよ」ということば
ある幼児教室で、年長の子どもたちに向けて「見られてるよ」ということばをよく使う講師がいました。
小学校受験を意識したことばであることは理解できます。考査の場では、常に先生に見られているという意識が大切、という文脈でのことばだと思います。
しかし、気になったのは、授業中だけでなく、授業前の待機時間――子どもたちにとっての休憩時間にあたる場面でも、厳しい口調で「見られてるよ」と言い続けていたことです。
本来、待機時間は子どもたちが少し気持ちをほぐせる時間です。その時間にまで「見られてるよ」という緊張感を与え続けることは、子どもの心にとって、どのような影響をもたらすでしょうか。
「見られている」という価値観が育てるもの
「大人に見られている」「評価されている」という意識を常に持ち続けることは、幼児期の子どもにとって、健全な育ちをもたらすものではありません。
心理学における「自己決定理論(Self-Determination Theory)」(デシとライアン)では、人間の健全な動機づけは「自律性(自分で決めている感覚)」「有能感(できるという感覚)」「関係性(つながりの感覚)」の3つが満たされることで育まれるとされています。
「見られているからきちんとする」という価値観は、この3つのうち「自律性」を根本から損ないます。自分の内側からではなく、外側からの視線によって行動が決まる子どもは、誰かに見られていないときに行動が崩れやすくなります。これはまさに、前回お伝えした「外発的動機づけ」の弊害です。
幼児期に育てたいのは、「見られているからきちんとする」ではなく、「誰も見ていなくても、自分でよい行動を選べる」という内側からの力です。
「見られてるよ」の代わりに使いたいことば
では、同じ場面で、どのようなことばをかければよいのでしょうか。具体的な代替表現をご紹介します。
① 行動そのものの意味を伝える
「見られてるよ」→「待っているときも、素敵な姿でいようね」
なぜそうするのかの意味を伝えることで、子どもは「言われたからやる」ではなく「そういうものだから自分でやる」という感覚を持てます。
② 子どもの内側に問いかける
「見られてるよ」→「自分が一番かっこいいと思う待ち方、どんな感じかな?」
外側からの評価ではなく、自分自身の基準で考えさせることで、自律的な行動が育まれます。
③ できていることをさりげなく認める
「見られてるよ」→「みんな、素敵に待てているね」
禁止や警告ではなく、できていることを認めることで、その行動が自然に強化されます。
④ 場の雰囲気を穏やかに整える
「見られてるよ」→「そろそろ始まるよ、気持ちを整えようか」
緊張感を与えるのではなく、切り替えを促す穏やかな声かけが、子どもの心を自然に準備状態へと導きます。
⑤ 待機時間は「休む時間」として認める
「見られてるよ」→(何も言わず、子どもが自然に過ごせる時間を確保する)
待機時間は、子どもにとっての貴重な息抜きの時間です。この時間まで緊張感で満たすことは、子どもの心の余白を奪います。何も言わず、静かに見守ることも、立派な関わり方です。
⑥ 受験の文脈で伝えるなら
「見られてるよ」→「先生たちはね、みんながどんなことを考えているか、知りたいと思っているんだよ」
「監視されている」ではなく「関心を持たれている」というポジティブな文脈で伝えることで、受験への構えが萎縮ではなく、自己表現へと向かいます。
休憩時間の「ことばのない関わり」が、子どもを育てる
授業前の待機時間や休憩時間は、子どもが自分のペースで心身を整える大切な時間です。
この時間まで「きちんとしなさい」「見られてるよ」という言葉で満たすことは、子どもから「ほっとできる瞬間」を奪います。幼い子どもにとって、ほっとできる時間があるからこそ、次の活動への集中力が生まれます。
発達心理学における「自己調整(self-regulation)」の研究では、子どもが自分で気持ちを整える力は、緊張感のない環境でこそ育まれることが示されています。常に外からの圧力にさらされている子どもは、自分で気持ちを切り替える力を育てる機会を失います。
指導者のことばが、子どもの価値観をつくる
幼児期の子どもにとって、先生のことばは非常に大きな影響力を持ちます。毎週、あるいは毎日のように接する指導者のことばは、繰り返されるうちに子どもの価値観の一部になっていきます。
「大人に見られているからきちんとする」という価値観と、「自分がそうしたいからきちんとする」という価値観では、その後の人生における行動原理が根本的に違います。
前者は、監視がなくなれば崩れる行動です。後者は、誰も見ていなくても続く行動です。
幼児期に育てたいのは、間違いなく後者です。そしてそれは、指導者が日々どんなことばを選ぶかによって、大きく左右されます。
保護者の方へ――ことばの環境を見極める目を持ってください
幼児教室を選ぶとき、カリキュラムや合格実績だけでなく、先生が子どもにどんなことばをかけているかにも、ぜひ目を向けてみてください。
「見られてるよ」が頻繁に聞こえる教室より、「素敵だね」「自分でできたね」「どう思う?」ということばが自然に飛び交う教室の方が、子どもの内側から育つ力を大切にしていると言えます。
ことばは、子どもの心の環境をつくります。その環境が、受験の結果だけでなく、お子さんのその先の長い人生の土台をつくっていることを、どうか忘れないでいただけたらと思います。
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