『お母さんが一緒』(2024)


傑作だ。

3姉妹の他愛ない口ゲンカから始まって、人間性の本質が次第にあらわにされる。そこから立ち現れてくるのは、絶え間なしにひがみ、陰口ばかりきいているために、他人の善意に素直に感謝できなくなっている毒親(マイルドな)のイメージだ。

といっても、姉妹は決して彼らの親を憎悪しているわけではない。だからこそ、温泉旅行を母親にプレゼントした。しかし結局は3人とも目に見えない糸で母親につながれ、その手のひらの上でジタバタしているに過ぎないことが分かる。

こういう親子像は、目に見えにくいが、日本の家庭の大半を占めるのではないか。

しかし基本のトーンは、あくまでコメディだ。登場人物が泣いたり喚いたり、目を吊り上げて怒ったりするたびに、観客はなぜか噴き出してしまう。ことさら笑わそうとしないで笑わせる、オトナのコメディである。

かつてのイングマール・ベルイマン『秋のソナタ』とは違って、口論が重く深刻な対立にまでエスカレートすることはなく、ドラマは常に心地よいテンポで軽やかに流れる。

稀に見る充実作となったのには、優れた女優陣の貢献も大きい。居丈高にもなれば哀れっぽく泣きを入れもし、硬軟使い分けて中年女のしたたかさを存分に表現する江口のりこも上手いが、とりわけ見事なのが内田慈。

次々男を取り替えながら精神的にはまったく満たされていない三十女の焦りと空虚感を、陽気で騒々しい表情のうちに描き出す。

末娘の古川琴音に突然結婚すると告げられて、呆然と妹の後ろ姿を見送る無言の演技が絶妙だ。行き遅れの女の孤独。これがあるから終盤、ブチ切れて菓子缶を投げつける表現が生きる。内田の表現は、際立って切れ味鋭い。

この人の美点は、どれほど強い演技をしても無意味な過剰には決して陥らないことだ。リアルさとはどの程度のものか、彼女は正確なサジ加減を知っている。現在の日本映画界屈指の名女優であろう。そして、この人の演技が、もっとも可笑しい。

いずれ、往年の杉村春子的立ち位置の存在になるのではないか。

姉妹の口論が高じて終盤、興奮した末娘が子持ちの恋人に「なんでアンタに子供がいるの」と決定的なセリフを口走ってしまう。演じる古川は滑舌が弱く、このセリフを一息でしゃべれない。ために、おそらく全編でもっとも重要なこのセリフに生きた感情が乗らず、インパクトの乏しいセリフになってしまった。古川は見掛けも幼く、設定年齢の29歳には見えない。ミスキャストなのではないか。

ともあれ、橋口監督、いよいよ巨匠の域に入ったね。余裕綽々、楽しみながら演出している。一目で低予算と分かる画面だが、どんな制約下でも才能と才覚次第で名作を創り出しうることを証明した一編。

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