第15話 フォークは、食べ物を刺すためのもの
その日の夕飯のメニューは
皆大好き母手作りのハンバーグ。
月1〜2回、家族そろって
夕食を囲む時間は
両親もなるべく普通でいようとしていた。
少なくとも、子供の前では。
その日の食卓も最初は静かだった。
テレビではバラエティ番組が流れ、
父は黙々と食べ、
母は弟のライスのおかわりを
よそって席に戻った。
ほんの些細な一言だったと思う。
父が何かを言い、母が聞き返した。
その返事が少し強くなり
空気が変わった。
私は「あ、まずいな」と思った。
両親は、私たちの前では
露骨に喧嘩をしないようにはしていた。
怒鳴り合いになる前に
話を切り上げたり、どちらかが黙ったり。
でも、その日は違った。
私と弟は、デザートはまだだったが
早めに食事を終えて席を立った。
リビングとはガラス越しの
隣の和室に行き、
そこでテレビをつけてアニメを見始めた。
ガラス一枚
隔てた向こうから、低い声が聞こえる。
最初は抑えていた口調も、
だんだん鋭くなっていった。
すると突然、
隣のリビングのテレビ音量が大きくなった。
きっと、私たちに口論を
聞かせないためだったのだと思う。
私はアニメを見ながら、
心の中で
「また始まったな」
と思っていた。
もう慣れていたのかもしれない。
それでも隣の様子は気になって、
時々、音の方へ意識が向いた。
声がさらに大きくなる。
私は、何となく様子をうかがおうとして、
リビングを通った先にある
洗面所に行く風に装いながら、
リビングの後方を横切ろうとした。
その瞬間だった。
母が持っていたフォークを、
父の手の甲に突き刺した。
「ゔぁ―っ」
父が短く声を漏らす。
けれど、その後は
何も発することもなくただただ黙っていた。
父の手から、
どす黒い赤色の血が流れていく。
私は驚いた。
もちろん怖かった。
でも、不思議なくらい騒がなかった。
泣きもしなかった。
ただ、その光景を見て立ち尽くしていた。
そして同時に思った。
弟が隣の部屋で
アニメを見ていてよかった。
それだけが、
あの時の唯一の救いだった。
