美術館をはしごする上野『フィラデルフィア美術館展』(東京都美術館・2007年11月)
※過去の展覧会の記事です。
2007.11.24 Saturday
12月で会期が終わる美術展が多すぎて、今日は梯子だ!とバタバタと上野の森から都美へ移動。途中通りかかった国立西洋美術館の『ムンク展』にも心ひかれつつ……(泣く泣くスルー)。
ポカポカと温かく、上野公園はお散歩日和でもあった。
とっても濃いシャガール展のあとは、いよいよ東京都美術館へ。
美術史の教科書が、まるごと目の前に
フィラデルフィアといえば、1776年に独立宣言が採択された、アメリカ独立の聖地。その独立100周年を記念した1876年の万博の美術展会場が、そのままフィラデルフィア美術館の起源となった。130年以上の歴史を持つ、アメリカ屈指の美術館だ。
今回の展示は、コロー、クールベにはじまり、印象派を代表するモネ、ルノワール、ゴッホ、セザンヌを経て、20世紀のピカソ、マティス、デュシャン、シャガール、ミロ、マグリットにいたるヨーロッパ絵画の巨匠たちに、ホーマー、オキーフ、ワイエスなどのアメリカ人画家を加えた47作家77点という、まさに近代西洋絵画の教科書そのものみたいな展示。贅沢すぎる!

巨匠がたこ焼き屋になった日
みんなは知らなかった。巨匠が屋台でたこ焼きを焼いていたことを。
ピカソです。『パレットを持つ自画像』(1906年)です。

もうわたしたちには、彼がテキ屋のあんちゃんにしか見えません。たこ焼きでなければ金魚すくいでもいいです。罰当たりでスミマセン。
(正しくは、当時アフリカ民俗芸術に触発されたピカソが、自身を黒人になぞらえて表現したもの。この自画像は代表作《アヴィニヨンの娘たち》の直前に描かれており、影響を受けた対象と自己を同一視するピカソのアイデンティティが見て取れるのだそうです)
お口直しに、同じピカソのキュビズム時代の作品を。『三人の音楽師』(1921年)。

どんどんスタイルを変え、現状に満足することなく生涯自分の芸術世界に挑み続けたピカソだが、その中でもキュビズムはいちばんピカソらしさが出ていると思う。おしゃれだし、赤が効いてるなぁ。
「色彩の美しさ」が際立つ展覧会
『睡蓮、日本の橋』モネ(1918〜26年)。

モネといえば睡蓮、モネといえば印象派。しかしこの絵はどう目をこらしても、睡蓮がどこにあるのかよくわからず。
印象派を代表するモネは、晩年に抽象絵画を思わせる画風へと移行していったそうだ。もう一人の印象派代表画家・ルノワールが、晩年は印象派を離れて古典主義に移行し、最終的には融合した、と聞いた時、モネは生涯印象派だったと記憶していたけど、そういうわけではなかったのね。
しかし、モネの色は本当にきれい。世の中の美しさを画布にとどめずにはおられなかったのだろうなぁ、と思う。
そして色が美しいといえば、ゴッホ。『オーギュスティーヌ・ルーラン夫人と乳児マルセルの肖像』(1888または1889年)。

黄色と赤とグリーンと……鮮やかな色ばかりで構成されてもうるさくないのはなぜ?暗い中にアクセント的に色を使う絵が多い中で、いさぎよいほどに鮮やかなのがゴッホだ。
残り20分!ワイエスのテンペラを満喫
まだ展示が半分残っているのに、残り時間があと20分!!
あせって、アメリカのアートはとばしとばし見てしまったけど、オキーフと大好きなワイエスだけはじっくりまったりと鑑賞した。
ワイエス(1917〜2009)は20世紀アメリカン・リアリズムを代表する画家で、戦前から戦後にかけてのアメリカ東部の田舎に生きる人々を詩情豊かに描いた。
この展覧会で72点中唯一のテンペラ作品を出品していたのがワイエス。さすが、相当イカしてます。
テンペラというのは、卵や蝋など乳化作用を持つ物質を固着材として利用する絵具および絵画技法で、油彩が主流となる16世紀以前のヨーロッパで広く使われた中世の画法。ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」やレオナルド・ダ・ヴィンチの初期作品もテンペラで描かれている
この中世の技法を現代に蘇らせたのがワイエスで、彼の純然たるテンペラ技法の作品により、テンペラは20世紀に絵画技術として再び注目を浴びるようになった。
油彩ほど重くなく、水彩ほど軽くなく……あのなんとも言えない清潔で静謐な質感は、テンペラならではだ。
ワイエスの作品でこんなに人がたくさん描かれているのを見たのは初めてで(画像がないのが残念)、びっくりした。
近代西洋絵画の流れがざーっとわかる、初心者にも上級者にも贅沢な展覧会だった。次回は時間をたっぷり取って来ようと思う。
フィラデルフィア美術館展
http://www.phila2007.jp/
◆はじめに
ペンシルベニア州南東部に位置するフィラデルフィアは、アメリカが、ヨーロッパの植民地から独立する際に、もっとも重要な役割を果たした都市です。1776年7月4日、フィラデルフィアの州議事堂において、独立宣言が採択されました。1787年には、この地で憲法が制定され、現在に至るアメリカ合衆国が誕生します。
1876年、独立100周年を記念して、アメリカ初となる万国博覧会が開催されました。
美術展会場として使われたメモリアル・ホールは、博覧会終了後も、美術館として公開されることとなり、フィラデルフィア美術館の130年を超える歴史が始まります。
アメリカの未曾有の繁栄を享受し、先見の明をもって近現代美術の収集に情熱を注いだ多くの個人コレクターの寄贈により、豊かな美術コレクションの礎が築かれました。現在では、中世、ルネサンスから、現代に至る25万点の充実したコレクションを誇るアメリカ屈指の美術館として知られています。なかでも、ヨーロッパとアメリカの近現代絵画は、第一級のコレクションとして世界中の美術ファンを魅了してやみません。
本展では、19世紀のコロー、クールベにはじまり、印象派を代表するモネ、ルノワール、ゴッホ、セザンヌを経て、20世紀のピカソ、カンディンスキー、マティス、デュシャン、シャガール、ミロ、マグリットにいたるヨーロッパ絵画の巨匠たち、さらにホーマー、オキーフ、ワイエスなどのアメリカ人画家を加えた47作家の選りすぐりの名作77点を一堂に展示、最も多彩でダイナミックな展開をみせた19世紀後半から、20世紀の西洋美術史の流れをたどります。
アメリカ独立の息吹を伝える古都、フィラデルフィア。
この珠玉のコレクションは、アメリカの富と繁栄の象徴であると同時に、そこで育まれた美の遺産の豊かさと奥深さを雄弁に物語っています。
今回、京都と東京におきまして、「フィラデルフィア美術館展」を開催できますことは主催者として望外の喜びです。膨大な作品群から精選された西洋絵画の巨匠たちの名作の数々は、日本の美術ファンの心を捉え、魅了することと確信しています。
◆見どころ
「フィラデルフィア美術館展」は、まるで美術史の教科書さながらに、近代西洋絵画をまとめてわかりやすく理解できる格好の展覧会である。
サロン絵画から印象派への変化、そしてアメリカで大衆文化を反映して、独自の発展を遂げたモダンアートまでの近代西洋美術の流れを、美術史上重要な47作家の作品で網羅している。美術を教える人、学ぶ人にとってまさに必見の内容といえる。フィラデルフィア美術館には、よくぞここまで重要作品を気前よく出品してくれたと感謝したい。
本展は、油彩72点(うちヨーロッパ絵画57点、アメリカ絵画15点)に加え、彫刻が5点の計77点で構成される。コロー、クールベ、ブーダンに始まり、マネ、ドガ、ピサロ、モネ、ゴーガン、ルノワール、ゴッホ、セザンヌといった、日本人がこよなく愛する印象派の傑作がずらりと並ぶのに加え、ピカソ、マティス、レジェ、シャガール、ミロ、デュシャンなど、きら星のごとき20世紀の巨匠の名作が惜しげもなく出品されている。
もちろん、誰もが知っている傑作が数多く展示されるが、とくに監修者として、お勧めの作品はルノワールの《大きな浴女》(1905)だ。豊かで美しい女性を数多く描き「女性の画家」とも呼ばれるルノワールの女性像のなかでも、ベストテンに入る傑作であり、アメリカ国外になかなか出ないことで知られている。
それが日本で初公開されるので、この機会にぜひご覧いただきたい。
また本展ではルノワールが計4点も出品される。一つの美術館から、ルノワールの名作がこのようにまとめて出品されることは非常にまれである。
マティスの《青いドレスの女》(1937)は、数年前に国立西洋美術館で開催された「マティス展」にも出品がかなわなかったものだ。画家が得意とした静物と女性像という二大テーマの傑作3点が展示される。
いずれも色遣いが開花した1920年以降の作品で、マティス独特の色彩を堪能できる。
ピカソは彫刻を含め5点出品されるが、なかでも、彼がバリエーションとして取り組んだ平面的キュビスムの最高傑作《三人の音楽師》(1921)と、《自画像》(1906)をぜひ見てもらいたい。
この自画像はピカソ前期の代表作《アヴィニヨンの娘たち》の直前に描かれたもので、当時アフリカ民俗芸術に触発されたピカソが、自身を黒人になぞらえて表現しており、影響を受けた対象と自己を同一視するといったピカソのアイデンティティが見て取れる。
アメリカ絵画のなかでは、とくに女性のシュルレアリストであるドロテア・タニングに注目したい。1910年にアメリカに生まれ、ヨーロッパで成功を収めたタニングは、ジェンダー研究においても重要な人物で、代表作《誕生日》(1942)は日本初公開となる。
最後に、今回出品される平面作品72点すべてが油彩(1点のみテンペラ)であることに言及しておきたい。
近年の企画展でこれだけまとまった数の油彩、しかも傑作ばかりが揃う展覧会はまずないだろう。油絵を堪能したい向きには久々に満足できる展覧会となること請け合いである。
本展覧会に、ぜひご期待いただきたい。
井出洋一郎(本展監修者、東京純心女子大学教授)

