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多様性と伝統文化をやさしく学べる映画『BISHU〜世界でいちばん優しい服〜』(2024年)

2025.10.25 Saturday

この映画、羊の毛織物の産地を舞台にしている。その産地である尾州(一宮市を中心とした愛知県西部と岐阜県西濃部)のアパレルメーカー・三星毛糸(岐阜県羽島市)にて、西川監督のトークショー付の上映会で鑑賞した。
(文・陽菜ひよ子 / 写真・宮田雄平

あらすじ(ネタバレなし)

発達障害の高校生・神谷史織(演:服部樹咲)は、生活の中で細かなこだわりがあったり苦手なものが多かったりと「生きづらさ」を抱えるが、街工場を営む父・康孝(演:吉田栄作)やその姉の友野静江(演:清水美沙)、親友の鴨下真理子(演:長澤樹)などに支えられながら暮らす。

そんな中、史織が巫女から連想して描いた服のデザインのスケッチを見て、その真理子は才能を感じて、史織には内緒で校内デザインコンクールに応募する。その作品が最優秀賞となったことで、史織の運命は大きく変わっていく。

感想(ネタバレあり)

2人の発達障害

本作には発達障害の少年がもう一人登場する。映画『国宝』で吉沢亮演じる主人公の少年時代を演じた黒川想矢演じる「大村満」である。満は史織よりも重症な発達障害を持つ少年として描かれる。

非常な難役だが、黒川想矢の演技がこれまた素晴らしい。彼は吉沢に「(少年時代の)彼(黒川)がすごすぎてプレッシャーだった」と言われていたが、正直、この映画の黒川は『国宝』以上かもしれない。

冒頭で通学路の途中で工事現場に行き当たった史織は、その先に行けないことを理解するが、満はパニックに陥ってしまう。ひとくちに発達障害といっても人それぞれで、簡単に一括りにはできない。

満は「音」に大きなこだわりを持ち、いつも周りの音を録音しては音楽を作っている。ファッションショーに出演することになった史織は、彼の作った音楽で助けられるが、映画のクライマックスで彼はその趣味ゆえにトラブルに巻き込まれてしまう。

満は「発達障害だ」とわかっているのといないのとでは180℃別人格に見えてしまう。彼はトイレに入ろうとして掃除中だったことからパニックを起こす。録音機材を手にパニックを起こして女子トイレでかがみこむ彼は、女性たちから「盗撮犯」として通報されてしまうのだ。

史織を支える親友・真理子と複雑な思いを持つ姉・布美

彼を助けようとする史織、そしてそんな2人を助ける真理子。筆者は真理子を演じる長澤樹さんが大好きなので、真理子にかなり感情移入して見た。まだ10代の多感な真理子にとって、毎回フォローしなくてはいけない史織との付き合いは大変ではないのだろうか。そんなことを感じてしまう自分が恥ずかしくなるほど、真理子はまっすぐに史織を想う。

史織の才能を応援したい!と突き進む真理子は、恐れて辞めようとする史織に失望して一時期距離を置く。また、姉の布美はファッションデザイナーとして活躍し、東京に店を構えるまでになったけれど結局閉店し、夢破れて地元へ帰る。

布美の妹への想いは複雑だ。普段は生きづらいけれどデザイナーとしては天才的な妹。何でもそつなくこなすけれど、突出したものはない自分。比較しても仕方がないのに、身近な「妹」という存在だからこそ、比べてしまう。これは身につまされる人も多いだろう、と感じた。

自らの力で勝ち取った最優秀賞

父は障害を持つ娘がこれ以上傷つくことを恐れて、ショーの参加も史織が服を作ることにも反対する。けれどそんな父も含めて、最終的にはみんなが史織を応援する。ラスト近くのショーでは、史織がパニックに陥るものの、自分の力で克服して無事にランウェイを歩く姿には、思わず涙がこぼれた。

そして史織はショーで最優秀賞を獲得し、副賞のパリへ旅立つ。旅行ではなく学びに行くのだ。言葉が通じる日本ですらこんなに大変な史織が、果たしてパリで一人で生活できるのか・・・?という疑問はわくが、個人主義な国の方が意外と生きやすいのかもしれない、とも思う。

日本人は周りの空気を読む人が多い。だからこそ、自閉症スペクトラム障害やADHDの特異性が目立つ。しかし、周りの空気を読まない人たちの中ならば、空気を読めない彼らは目立たないのではないだろうか。

なんてことをつらつら思いながら調べていたら、興味深いコラムが。

多民族、多文化社会による共存が作り出す闇
フランス文化は昔から世界中に影響を与え、現在では世界中から観光客が訪れる観光大国。しかし、フランスは精神病の多い国でもある。国民の4人に1人はなんらかの心や精神の病気を抱えている。そのうちの75%が25歳の若年層。なぜ日本人とは正反対の性格を持つされているフランス人がうつ病などの精神病が多いのか?

理由1:エリートと非エリートに分断された階級社会
フランス人は個人主義で、一見、他人に興味がなく干渉しないように見えるが、実は他人を意識し嫉妬深い。これには、フランスの根強い階級社会が影響している。フランスは平等という名の元で国民が革命を起こし、国民のための国家を設立。しかし実際はエリートと非エリートに分かれた階級社会を再度構築。

非エリートはチャンスが少なく、絶望感から精神を病む。またエリート層は子供のころからエリート育成機関に入学するため厳しい競争に勝ち抜く必要がある。フランスは成績が悪いと小学生でも留年する。留年や受験失敗は子どもたちの精神を崩壊させる危険がある。

理由2:表面上の「平等」と矛盾する現実
フランスでは表面上は宗教や思想、人種が平等であることが謳われている。実際にはカトリックの文化や風習が根強く残る。イスラム教やユダヤ教などの異教徒やLGBTなどに対して目に見えない差別が蔓延。この社会の矛盾が人々の絶望感に陥る原因の1つ。

理由3:常に即戦力と結果を求められる全欧州を相手にした競争社会
終身雇用ではなく毎年労働契約を結ぶ契約社員。労働者は結果が求められ、常にスキルアップをしないと解雇される。新卒制度がなく、全員即戦力を求められる。学校を卒業したばかりの学生は、未経験の不利な中で中途採用の経験者から仕事を勝ち取る必要がある。EUにより自由に国境を超えれるため、他の欧州諸国の人々との競争も強いられる。

理由4:高度な医療制度のために依存となる人も
日本同様、国民健康保険制度がある。副作用が少ない薬なら処方箋があれば大量に購入可能。日常的に自己判断で大量に服用して依存する人も。

発達障害の人が働く職場とは?も興味深い。

発達障害の人は、集中できれば一般の人の1/3の時間で仕事を終わらせることができる。彼らには「電話がかかってこない」「外部から人が来ない」環境を与えると高いパフォーマンスで仕事をする。ただいつまでも仕事を続けてしまうので、区切ってあげたり、働きすぎたら翌週は休みを取らせるなどの配慮が必要。(フランスの週35時間労働を守ってもらえるように工夫)


西川達郎監督の話

この映画は「発達障害」という「マイノリティ」の話だが、監督いわく、「ファッションの世界では、ユダヤ人かLGBTQのように一般的にはマイノリティとされる人々が多い」のだという。むしろ異性のパートナーを持つ人でも「本当はバイセクシャルだけど、たまたま今のパートナーは異性なだけ」というほうがしっくりくるのだとか。

とはいえ、繊維業界は別だ、ともいう。

映画の解像度と繊維の分解の話など、たとえがとてもおもしろかった。繊維を学ぶとき、最初は分解して顕微鏡で糸を一本一本見て書くと設計図になる。この映画は、尾州を分解した映画で、「作り手」にこだわって解像度を上げているそうだ。

まず最初のシーンで、「この映画はこういう映画ですよ」と説明している。この映画には、鳥が重要なモチーフとして登場する。主人公の部屋には青いたくさんの鳥の置物とデザイン画がある。

その部屋で主人公は目を覚まし、織り機の音の中でアイマスクをはずし、右足を下ろす。その一連のルーティンがないと、彼女の一日は始まらないのだ。

その後、父と一緒に食事をするその所作から、「ちょっと変わった子」である彼女の深層心理へと入っていく。

でもここで、わかってほしいと期待しすぎても、あまり説明しすぎてもいけないとも。説明してもファンにはなってもらえない。あくまでも「見つけてもらうことが大事」だと語る。

最近のハリウッド映画では「目的」が出てくるまで5分もないそうだが、この映画は20分かかる。目的のないキャラクターはいないし、「どんなキャラか?どんな目的か?」でストーリーの半分はできているのだそうだ。

苦労した点としては「映像は質感を伝えるのが苦手」なことだという。たとえば三星の記事はなぜ選ばれるかは、質感や手触りが大きいけれど、それは画面には写らないのだ。

途中、主人公が名古屋の栄でテレビ塔を前に踊るように歩くシーンがある。そこでは青や白や赤の「フランスカラー」の鳥が飛び、パリに「羽ばたく」未来を暗示している。

監督からの「名古屋のテレビ塔(※)って、エッフェル塔を意識してるんですよね?」の質問には、名古屋ネタで本を出している身として「あってます!テレビ塔が日本で最初の電波塔で、デザインはエッフェル塔を見本にしていると思います」と元気よく答えた。

テレビ塔は建設時は「東洋のエッフェル塔」と呼ばれていたのだ。

※現在はネーミングライツにより、「中部電力 MIRAI TOWER」


「シントウカイシネマ聖地化計画」第1弾作品

この映画、東海地方を舞台にした全国公開映画を毎年1作ずつ制作・公開するプロジェクト「シントウカイシネマ聖地化計画」の第1弾作品。

東海地方とは、歴史的に広義には、東海道に面した3県(愛知・三重・静岡)に岐阜を足した4県だが、狭義には名古屋を中心に文化的結びつきの強い東海3県(愛知・三重・岐阜)を指すことが多い。

静岡からは名古屋市は結構遠く、静岡の人は名古屋に来るくらいなら東京へ行くことが多いのだと思う。

『ひつじサミット尾州』の会場の一つ・三星毛糸さん

余談だけど、この夏に絵本『ひつじのモフモフ』を出版した。筆者の4冊目の本である。

この絵本は、この上映会の舞台となった三星毛糸(岐阜県羽島市)を取材したときことがきっかけで完成した。

絵本を出版したことがきっかけで、再度三星さんを取材したら「尾州を絵本にできたらってずっと思ってたんです」とのお言葉。

実は尾州、昨年は映画になったのだ。その映画を毎年秋に開催しているイベント『ひつじサミット』で上映し、監督とトークショーが決定。これは見なくては!である。

ひつじサミット尾州で出会ったモフモフのひつじ
ひつじはクールで、エサがないとわかると、プイッと去って行く


筆者の絵本『ひつじのモフモフ』は、「ひつじサミット公式絵本」なので、会場で販売した。

イベントの間はポツンという感じ(笑)合間に購入してくださる方もいらして感謝!
※映画もここで上映されました

BISHU〜世界でいちばん優しい服〜
監督     西川達郎
脚本     鈴木史子
       西川達郎
       義井優
原案     小宮眞二
製作     森谷雄
       竹田太郎
製作総指揮  神谷哲治
出演者
服部樹咲:神谷史織・・・発達障害の女子高生。父と2人暮らし
岡崎紗絵:神谷布美・・・デザイナー。東京で店を潰して家に戻る
長澤樹:鴨下真理子・・・史織の親友。史織の才能を全力で応援
黒川想矢
:大村満・・・発達障害の中学生。音にこだわりを持つ
知花くらら
:滝本セシル・・・モデル兼ファッションデザイナー
田中俊介
:宮澤直人・・・史織と真理子が通う高校の担任の先生
山口智充
(友情出演):斎藤さだを・・・布美の服飾学校の恩師
近藤芳正
:稲毛洋一・・・一宮で紡績工場を営む職人
吉澤健
:大村源次郎・・・満の祖父で整理工場のベテラン職人
清水美砂
:友野静江・・・義孝の姉。史織たちを母親代わりに見守る
吉田栄作
:神谷康孝・・・史織の父。経営の苦しい毛織物工場の社長
音楽     小山絵里奈
主題歌    服部樹咲 feat.池内ヨシカツ「BISHU」
撮影     清久素延(J.S.C.)
編集     谷地みこ音
制作会社   アットムービー
製作会社   「BISHU 世界でいちばん優しい服」製作委員会
配給     イオンエンターテイメント
公開     日本 2024年10月11日
上映時間   125分
製作国    日本
言語     日本語





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