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「夜見枯古書店心書譚」第二十一話

「お前、どうやって」

黒い鎌に狙われるのもそれを必死でかいくぐり、勢いのまま阿光の腰に抱き着いてきた。

「お兄ちゃんに助けてもらいました! それ以上はだめ!」

「は? あいつがどうやって……」

問答をしながらも、書き手がそう書いたのか、黒い鎌は美夜子を狙う。阿光は、それを喰いながら美夜子を逃がそうとした。

だが、そんな阿光の行動を拒否するように、美夜子は強く抱き着いてくる。

「私が! 書き換えます!」

そういって、美夜子が手をかざす。その場所に来た鎌が、ふわっと泡のように崩れ去ったのを見て、阿光は目を見張った。

――こいつ、本当に書き換えている!

相手の書き手もまた、『バベルの言語』を使う者だ。それが書いた殺戮の物語を、彼女はどうやら白紙に戻しているように、阿光には見えた。

彼女の物語が白紙であることと、関係しているのか、『バベルの言語』をもってしてもわからなかった。

美夜子が立っている場所から、真っ黒に塗りつぶされた物語が書き換えられていく。その白亜は瞬く間に広がっていき、阿光が最後の鎌を食ったのと同時に、最後の一行が白紙になった。

「おわ、た」

「! おい」

がっくりと美夜子が崩れ落ちる寸前に、かろうじてその体を抱きとめる。
書き換えられた物語は、羽毛の壁が崩れ去るように柔らかく壊れ、最後には静かな図書館の風景と静謐さが辺りを覆っていた。

終わった、と思ったのは、阿光も同じだ。

だが……年上の責任というものがある。

阿光は物語が崩れ去ったことで、戻ってきた右腕の感覚を確かめながら、気絶して力が入っていない彼女の体を抱き上げた。

「――お疲れさん」

それと、と背後に隠れているつもりらしい気配をじろりと睨んだ。

「あとで見舞いに来いよ、お兄ちゃん」

言い残して、その場から去る。二人がいなくなった空間にひょこっと顔を出した影が一つ。

「……りょーかい」



「やぁ」

「……来たな、迷惑兄貴」

「あの時は助かったよ。美夜子とはまだ顔を合わせられなくってさ」

「『あいつ』が原因か?」

「まぁね。やっと書き手に近づけたと思ったら、今度は白紙の美夜子に目を
付けられそうになって、慌てて君を頼ったんだよね」

「僕に頼るな」

「いいじゃないか。君だったら、と思ってお願いしたんだから」

「……せめて顔だけでも見て行けよ。那々さんのところで寝てるから」

「そうするよ――ね、君は大丈夫? ボロボロだったけど。物語の中だったから、君のダメージは精神に来るだろう? 腕一本分、相当この後つまらなくなると思うけど」

「腕一本分ぐらいの借りはお前にあるからな。兄妹仲は保てただろう?」

「ははっ。ありがとう。君のおかげで夏笠家は安泰だよ」

「……ちゃんと両親に説明しろよ」

「ちゃんと手紙に書いたよ。ここに置いておくから。――じゃあ、また」

「僕に会うくらいなら妹に顔を見せろ」


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