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「夜見枯古書店心書譚」第四話

「じゃあ、家か」

「はい?」

「お前の家に、たぶん変わった本があるはずだ。悟志は、わざと僕に取りに来させようとしてるんだろ」

「はいぃ?」

何を言っているのか、さっぱりです――そういおうと口を開いた瞬間、先を読まれたように眼前に阿光の手がかざされる。

「質問は、なしだ。まず、僕が本以外のことで動くと思ったのか?」

「……お兄ちゃんとは同級生ですよね? お友達だった記憶があるんですけど……」

阿光の方は美夜子を知らないだろうが、美夜子は彼のことを知っていた。

遠目で見ただけだが、高校生の頃、兄とよく一緒にいた少年の人離れした美貌を見間違えようがない。

あれはお兄ちゃんの友達なんだ――と、悟志が笑って教えてくれたのだって、ちゃんと覚えている。

友人である阿光が、兄の悟志を依頼で探す――普通に友達としては、アリだと思うのだが。

そんな美夜子の思惑を遮るように、阿光は顔を不機嫌そうに歪めると、吐き捨てるように言った。

「たかが高校の同級生だっただけだぞ。交流関係があったとはいえ、それだけで仕事ほっぽり出して人探しするなんてお人好しじゃないぞ、僕は」

「え、仕事してるんですか」

「してるだろ。店番」

「あーだめよお嬢さん、阿光君、これでもちゃんと仕事しているつもりなんだから」

那々がひょっこり顔を出してにこにこ笑いながら、結構辛辣なことを言う。

それは阿光にもぐっさりと刺さったのか、体裁を取り繕うように咳払いをする。

「……僕は、本のこと以外では動かない。悟志は、それをわかっている。お前の家……例えば、悟志の部屋に本はあるだろ」

「はい、あります。学生時代のですけど……」

「それだろうな、僕を呼び出すには本が必要だ。あいつがどこにいるかっていうヒントはお前の家にある」

「本にですか? メモに残してるなら、さすがに私でもわかると思うんですけど」

もしそんなに簡単だったのなら、わざわざ阿光を呼び出すほどのことはない。

美夜子は那々に淹れてもらった紅茶に口をつけながら、ふとそのまま思いついたことを呟く。

「もしかして、兄とあなたの間にしかわからない暗号でもあるんですか」

「……夏笠妹、ミステリー好きだろ。読みすぎだ」

「ぐっ」

痛いところを刺されてしまったが、実のところミステリーが好きだったのは兄である。一緒にドラマを見たりしているうちに、だんだんと好きになっていっただけだ。今ではシャーロッキアンを自称しているが、全部兄のせいである。たぶん。

「あら?でも、阿光君が食べる本だったら、基本的にこの店にしかないはずよねぇ。さすがに悟志君が持っているとは思えないのだけど」

那々が歌うような声で、やはり聞き逃せないことを言う。さっきから、彼女はずっと「食べる」という言葉を使っている。しかも「本を食べる」とはどういうことだ。

阿光は説明する気がなかったのだろう。那々の言葉に疲れたように頭を抱えてため息を吐く。

「……那々さん、そろそろ帰ってくれないか……さっきから外部に言わないようにってくぎを刺してたことを何回も暴露してるから……」

基本的に不愛想な奴だと思っていたが、那々の前だとどこか普通の気苦労な青年に見えるのはなぜだろう。彼の背中には何度もこういう目にあわされている、というようなぐったりとした苦労感がにじみ出ていた。

(こういう人を天然、っていうのかな……)

しかし、美夜子からすれば彼女の言葉は、救いの船である。

阿光が一切説明しようとしなかった言葉を、わざわざ暴露してくれているのだから。

「あの! さっきから言っている、食べるっていうのは何なんですか? 那々さん、私に兄と、阿光さんが「食べる」ことって、何か関係があるんですか?」

「あ、バカ」

焦る阿光。その反応を見るに、那々に質問の矛先を変えたのは大正解だったようだ。

事実、那々は何の疑問も持たずに、美夜子の質問に答えてくれた。

「んー? 阿光君はね、特別な本と、特別な人の物語を食べるのよ。あれ? 悟志君から聞いてないの? この件については、彼が一番の理解者だったはずだよ、ねぇ阿光君……阿光君? どうしたの?」

那々の目線の先には、思いっきり頭を抱える阿光の図があった。ぎろり、と自分の目地からががぜん強くなった気がする美夜子である。

「物語を、食べる? どういうことですか、阿光さん」

きっちり説明してもらいますよ――と、追い詰める腹を決めた、美夜子であった。

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