「夜見枯古書店心書譚」第二十二話
「お兄ちゃんが来たの!?」
「うるさい病み上がり」
「美夜子ちゃーん、だめよ、そんなにいきなり起きちゃ! ご飯食べなきゃ!」
にわかに、夜見枯古書店が騒がしくなる。相変わらずの態勢で阿光は寝転がっており、違いといえば、私服姿の美夜子ぐらいだろう。
目覚めて、少し経った後に那々から兄が来たことを知らされて飛び起きた美夜子は、頭もぼさぼさ、顔もすっぴん、服は実は那々から借りたものなのでサイズが合わないという人前には出られない状況だった。
だが、そんなの気にしていられない。あんなに探していた兄が来たのだ。
けれども、その勢いも我に返って阿光に一瞥された途端、吹っ飛んだ。
ぶわりと突如思い出される、羞恥しかない行動の数々。
抱き着いたり、名前で読んだり、抱き着いたり抱き着いたり……。
「……きゃああああ!」
「うるさっ」
「美夜子ちゃーーん……、これ被って……」
追いかけてきた那々から薄毛布を頭から被せられ、ぷしゅーと音を立てて顔の赤みが増す。
ドアの前にうずくまる美夜子を見て、呆れた阿光が深いため息をつき、本を閉じてテーブルの上に置いてある白封筒の手紙を手に取った。
そして、それをうずくまる美夜子の頭の上に乗せる。
「ほら。念願の兄さんからの手紙だ」
「……ありがとうございます……」
それを受け取ると、阿光はそっけなく言った。
「それ読んでしばらく来るな。学業に専念しろ」
「え……、来ちゃ、ダメなんですか?」
「美夜子ちゃんがショック受けてる! 阿光君、ひどい!」
「那々さんはどっちの味方なんだ……」
「今は、美夜子ちゃん!」
そういいながら、美夜子に抱き着く那々。美夜子はと言えば、ちょっと涙目になっていたので、見られないように毛布に固く包まった。
「…………勉強で使う本でも探しにくればいいだろ、仮にもここは古書店だからな」
深―いため息とともに、そんな言葉が落ちてくる。よし、それを理由に本当に来てやろう、と美夜子は心に誓った。
ここに来る理由はたくさんある。
那々に会うこと、阿光のぐうたらを叩きなおすこと、この古書店の摩天楼を崩して正当な場所に本を置くこと、何より……阿光が怪物になるのを止めること。
「わかりました。すぐ来ますからね。絶対来ますからね! 阿光さん」
「勝手にしろ」
「わー! ……決まったところで美夜子ちゃん、本当にご飯食べましょ?」
ちょっと圧を感じる那々の笑顔を受け、美夜子は胸元に手紙を抱きしめながら、渋々夜見枯古書店を後にする。
―――自分に背を向ける高い背中に、「絶対に来てやる」と再度念を押しながら。
拝啓、美夜子へ
夜見枯古書店はいかがだったでしょうか?
僕の居場所はわかったかい? 僕は、こういう世界に今、いるんだ。
美夜子には知っておいてほしかったから、少し無理をさせてしまったね。
今回の件で分かっただろうけど、僕の親友はすごく危うい奴だ。でも、美夜子の強い味方にもなってくれるはずだ。学生の君にも、普段の君にも僕と同じぐらい大切な味方になってくれると思う。
いろいろと疑問はあるだろう。ここでそれを説明することはできないから、夜見枯に少しずつ教えてもらうと良い。きっと彼は教えてくれるはずだから。
だから、僕からはここにお願いを書いておこうと思う。
僕と一緒に、夜見枯を助けよう。
あいつは僕がいないとすぐに無茶をするんだ。美夜子には、あいつをちゃんと見張っていてほしい。そして、夜見枯にはこれを知らせないでくれ。二人だけの約束にしよう。
そうしないと、あいつ、うるさいからね。
美夜子や父さん、母さんがずっと元気でいることを願っています。やるべきことをやった後に、必ず会おうね。
では、また。
敬具
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