「夜見枯古書店心書譚」第五話
『はるか昔、人が古と呼ぶよりもさらに過去。
世界は、今は誰も知らない同じ言葉で統一されており、みんなが協力し合って神様をあがめる塔を作ろうとした。
どんな山よりも高く、天を突き抜けるほど高くそびえる塔。
しかし、天からそれを見ていた神様は、人間が自分たちのいる場所に攻めてくるつもりだと思った。
ゆえに、災害を起こして塔を破壊した。人々がもう一度一致団結しないように、世界を統一していた言葉を消し、すべての人々の言葉をバラバラにした。
だから、その塔ができる前の言葉を知るものは誰もいない。
しかし、とある人が、世界のすべてを統一する言葉を本に記していた。
世界という大きな存在さえ書き込まれたその一冊を、読める人間は誰もいない。
いない、はずだった』
「―――もし、これを読める人間がいたとすれば」
「その人はきっと、とても辛いね」
「だって、もう世界は知ってしまっていることなんだもの。未知のものは何もない」
「だって、もう知らないことはないんだもの。不思議を楽しいと思うことはない」
「壊れてしまうね」
「狂ってしまうね」
「もしも、読める人間が狂っていないのなら」
「もしも、読める人間が壊れていないのなら」
「「それはもう、とうの昔に壊れてしまっているからだ。これ以上、壊れようがないくらいに」」
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