サイクルブレイク・シナリオメソッド(初級編3) 隠された第三のプロット「エビルプロット」
初級編3
前回は第二幕で必須の技術になる2つのプロット(メインプロット、サブプロット)について説明した。
今回は、私の調査で判明した第三のプロット、「エビルプロット」について解説していく。
このプロットは現在出回っている脚本術にはない新たな概念である。
そして、私が提唱する脚本術、「サイクルブレイク」の由来にもなっている極めて重要なプロットだ。
既存脚本術が説明しきることができなかった箇所を全て説明できる画期的なものなので、ぜひよく読んでみてほしい。
1 ダイエットで見るプロット
早速だが、次の脚本を見てほしい。
主人公は太った女性。最近お気に入りのズボンが入らなくなったから痩せようと思い立つ。
これをプロットに分解すると以下のようになる。

状況設定…主人公が太ってズボンが履けなくなる
メインプロット…痩せることを決意する
サブプロット…ダイエット(pfc計算、カロリー計算、睡眠、運動etc…)
解決…ズボンが履けるようになる
このように脚本上で分解できる。
しかし、勘のいい読者は気づいただろう。ダイエットには天敵が存在することを。
そう、「リバウンド」である。
痩せようとしているのに食欲に負け、結果ズボンがはけないまま…となる悲しい結末。
しかしこれを脚本上で表現できるプロットがない。
そこで役立つのが、今回私が提唱するエビルプロットだ。
2 第三のプロット「エビルプロット」
メイン、サブに続き登場した3つ目のプロット、エビルプロット。
これはずばり、「主人公の邪心とそれを原則にした誤った行動」だ。
主人公はこのプロットに足を引っ張られ、ゴールへの到達が困難になる。
そしてこれは、主人公の内面だけでなく、別キャラや環境を通して現れることがある。
先ほどの主人公を例にすると、エビルプロットは以下のようになる。

【エビルプロット例】
①断食で無理やり痩せようとする。→ダイエット初心者がやりがちな典型例。痩せこけるし後で過食して元に戻りやすい危険行為。
②スーパーの特売 →主人公が貧乏なら「半額」の言葉につられ、ついつい総菜、菓子パンを買って食べすぎる。
③家族、友人、恋人からの差し入れ →旅行帰りや②で他キャラが買ってきてしまうパターン。断りずらい分一番きついかも。
ざっと考えただけでもこれだけ浮かぶ。そしてこれらのエビルプロットはある一つのことを軸に考え出している。
それは主人公の内面に潜む「邪心」だ。「欲心」「怠惰」と言い換えてもいいだろう。
上記のエビルプロットは主人公の邪心を刺激し、ダイエットを失敗させるトリガーとなる出来事だ。
(ちなみに、これらを宗教では煩悩や試練と称することがある。これについてはまた別の記事で)
つまりエビルプロット=主人公の邪心が行動や環境を介して現れた試練、ということになる。
そしてこのプロットに沿って進んでしまうと振出しに戻り、今までの努力が水の泡になってしまう。これをバットエンドという。
3 エビルプロットは「因果が反転したプロット」
主人公は物語を通して幸せになろうと歩む。当然、歩むのだから時間は経過していく。
第一幕で自分の足りないものを自覚
↓
メインプロットで決意
↓
サブプロットで様々な条件をクリア
↓
第三幕で幸せをつかみ取る
しかし、エビルプロットによって足を引っ張られると、サブプロットの条件を達成できずに振出しに戻ってしまう。
メインプロットとサブプロットは時間の経過で発展、改善していくのに対し、エビルプロットは時間の経過で悪化していく。
これは言い方を変えれば、「時間軸に逆らった行動」とみなすことができる。時間経過と因果関係が逆行しているのだ。
つまりエビルプロットは「因果が反転している」唯一のプロットとなる。
(それがなんだと思うだろうが、実は脚本の一大イベントである「伏線」と密接な関係がある。というか伏線そのものである。これも別記事で書く。)
4 エビルプロットの4つの役割
エビルプロットは大別すると4つの役割に分けられる。
①分断線
これは脚本を見ればすぐわかる。メインプロットとサブプロットの間に割って入り、二つが結びつくのを邪魔している。転じて、作品内で発生する対立、葛藤の元となる役割だ。
②悪循環
これは上記で書いたとおりである。主人公の邪心を刺激し、それまでの努力を水の泡にする。邪心を解決しない限り、主人公は何度も失敗し続ける悪循環(サイクル)へと陥る。
③妨害
目的達成を邪魔し、振出しに戻す。これらは全て敵キャラや環境、主人公の間違った行動による妨害によって起こる。
④邪心の鏡
主人公はエビルプロットを介して、自分の中に潜む闇の側面に気づき始める。それは間違った行動をする「もう一人の自分」であり、エビルプロットでやってくる妨害は「闇の自分」が形を変えて自分を失敗させようとしているのだと。
5 第二幕の「葛藤」の正体
三幕構成の第二幕のフェーズは英語でconfrontationと書かれている。直訳すると「葛藤、対立」だ。
既存脚本術ではこれをプロットで表現できていなかったが、エビルプロットによって解決できる。
葛藤・対立=メインプロット+エビルプロット
この二つは改善と悪化を繰り返す相容れないプロットだ。これが一人の人間に起こると悪循環となって「何度も失敗する自分はダメな奴だ」と心を蝕むようになる。
6 主人公のwantとneedの正体
著名脚本術、save the catの法則で主人公はwantとneedを巡って深く悩むと言われている。
want=主人公が物語の最初から最後まで手に入れたいと渇望している、目に見える具体的な目標。外的、物理的なものが大半。欲望。
need= 主人公が心の底から必要としている「真実」や「人間的な成長」。内的、精神的なもの。正義や愛。
じつはこれも、私のプロットで説明できる。
want=メインプロット+エビルプロット
need=メインプロット+サブプロット
これは言い方を変えれば、主人公はメインプットという目的を元に道を進み、エビルプロットとサブプロットのどちらの選択を取るか迫られる岐路に立たされているのだ。
これは三幕構成の3つの分岐点(PP1,MP,PP2)を意味している。他にはShoulder angel(心の中の天使と悪魔)とも言える。

上のイラストで説明するなら、左はサブプロット、右はエビルプロットとなる。そして中央の男は挑戦して物語を進む主人公であり、メインプロットを意味する。
7 エビルプロットを設定することで「意味のある戦い」になる
エビルプロットは主人公の心の闇であり、超えるべき試練でもある。つまりエビルプロットをしっかり設定することで、主人公が何と戦っているのか語らずとも、試練や環境を介して観客に伝えることが可能になる。そしてその戦いが観客にとっても「見届けるべき意味のある戦い」となる。
環境や登場人物が違えど、どんな人も必ず同じような試練に遭遇している。そして人は似た境遇の人に対し、良くも悪くも共感する力がある。
善人が苦労していれば報われてほしいと思うし、悪人が幸せになっていれば裁きを受けろと怒りが出る。共感性羞恥、同族嫌悪などは、見ている人が無意識に感じている自分の嫌な側面を、他者という鏡を通して見せつけられているが故に、そこから目を背けたい、叩き潰してなかったことにしたいという心情が湧くのである。これらは全てプロットを組み立てることで、論理的に物語にすることができる。心理学を学べば、より深い物語を作れるかもしれない。
これで初級編は終わり。次回からはより具体的な内容を解説していく。中級編スタート!
