代替ロボ(ショートショート)
上着が血で汚れた殺し屋の男が、人里から隔絶された山の麓にある倉庫を訪れた。
「代替屋あとは頼んだぞ。」代替屋と呼ばれた中年の男は、煩わしく思いながらも殺し屋を倉庫内へ招き入れた。
「これがこいつの普段の行動を記録した映像と様々なパターンの音声を収めたデータだ。この遺体は今回もあんたが処理しといてくれ。」
データの入ったチップと、血の滲んだ布でぐるぐるに巻かれた遺体を置いて、殺し屋は倉庫から出て行った。
「全く汚れ仕事を引き受けるのは、全部私じゃないか。」愚痴を溢しながらも、代替屋は早速仕事に取り掛かった。
布から遺体を取り出し、顔や体の写真をあらゆる角度から撮り始めた。彼は殺された人間の代替ロボットを作るというビジネスをしている。
先程、殺し屋の男が持って来たデータと、今
代替屋が撮った写真のデータをコンピュータに入力すれば、自動で機会が製造してくれる。
数時間待ち、完成した代替ロボは自宅に向かって帰り始めた。彼には妻や子供がいたが、ロボットだと気づかれることは無い。
見た目だけで無く、触れた時の皮膚感や声や仕草、行動パターンまで忠実に再現している。そして歳をとるごとに、シミやシワを増やしたり腰を曲がらせたり、老化出来るようにプログラムされている。
気付かれるとすれば、ロボットの寿命が尽きて停止し、亡くなったと勘違いした親族が火葬した後だ。唯一気付かれてしまうリスクが有るのは、充電している時だけだろう。
奥歯に小さな穴が開いており、そこに充電プラグを差し込まなければならない。充電している姿を他人に見られる訳にはいかないのだが、充電時間は一日に一度、五分間だけで良いので気付かれる確率はかなり低いだろう。
ロボットの製造も完了し、あと残った仕事は遺体を埋めに行くだけだ。代替屋の業務の中で一番辛い作業だ。代替屋を開業してから、世間では簡単に人を殺める人間が増えている。
色んな人から恨みを買っている政治家や、ライバル会社の社長などが特に多い。また、使えない従業員を始末して、便利で生産性の高い代替ロボットに交換したいと言う経営者まで現れた。軽薄で残酷な世の中になってきている。
しかし、悪い事ばかりでは無い。代替屋の住んでいる部屋の隣に住む夫婦が、夫の浮気が原因で毎日のように喧嘩していた。ある時我慢の限界に達した妻が夫を殺めてしまい、その妻が私にロボットの製作を依頼した。
私はすぐに夫の代替ロボットを作り妻に届けた。初めのうちは、妻も罪悪感を抱えて毎日暗い表情をしていたが、今では毎日隣の部屋から笑い声が聞こえてくる。ロボットに性欲なんか無い為夫婦の問題は解決し、隣の妻は以前よりも幸せな生活を送っているようだ。
また、国のお金を使い遊んで、真面目に働いていない政治家が暗殺された。今ではその代替ロボットが遊ばず真面目に働き、以前よりも活躍している。全員がロボットになってしまった方が、世の中上手く回って行くのかもしれない。
遺体を山へ埋め終わると、殺し屋の男から連絡が入った。また一人始末したので、ロボットの製造と遺体の処理を頼む。との事だった。
代替屋は溜め息をし、帰路に着いた。こんな血生臭い仕事をしている代替屋の、唯一安らげる場所は家だけだった。
代替屋には十年以上連れ添う妻がいて、新婚当初はお互い若く喧嘩が多かったが、最近では落ち着き夫に尽くしてくれる良い妻になった。
「ただいま。」代替屋が帰宅すると妻は笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい。食事の準備もお風呂の準備も出来ているわよ。」代替屋は気の利くとても良い妻だといつも感心している。料理が上手で、家事も得意で部屋は常に綺麗に保たれている。死体を埋めていた事など忘れて、妻の作った美味しい料理を食べながら、二人だけの時間を楽しんでいた。
深夜十二時になり、二人はベッドに入った。
「明日は八時に起こして欲しい。」代替屋は妻に起こしてもらうのが習慣になっていたが、妻は嫌な顔一つせずに頷いた。
消灯して一時間程経過し、妻は代替屋が眠りに就いたことを確認すると、奥歯にある小さな穴に充電プラグを差し込んだ。
