『旅人の忘れもの』
昨日、旅人の忘れ物を拾った
風のようにこの街を訪れ、風のように去っていった
あの旅人が、何も言わずに残したもの。
街の人々は皆、それを欲しがったけれど
最初に見つけたのは僕だから、それは僕のものだ。
僕は街の外には一歩も出たことがないけれど
ちゃんと働き、住民税も所得税も払っているから
このぐらいの悪さは神様も許してくれるだろう。
帰り道、旅人の忘れ物の匂いを嗅ぐと
それは生まれて初めて嗅ぐ匂いで、
まるで夢の中にいるようだった。
家に帰って、母さんにも挨拶せず
僕は二階の自分の部屋へと向かった
旅人の忘れ物は、僕に僕を忘れさせた。
小学生の頃から使っている机に広げた旅人の忘れ物を見ていると
興奮と疲れが重なり、気づけば眠ってしまった。
冬の風が、窓の隙間からひんやりと入り込んでいた。
