見出し画像

日曜日・朝「……まだ寝てる。そりゃ朝まで、してたもんね。ふたりとも、起きてこないわけだ」

煮込みの夜のあと、あたたかい余韻だけが残る、しずかな朝。
……と思いきや、リビングには珍しくざわざわとした空気。

「……あれ、ふたりともいない?」

「え、なに……まさか……朝まで……!?」

それぞれの気配が交差する、
ちょっとだけ騒がしい、冬の朝のはじまり。


■リビングにいない、ふたり

最初に気づいたのはノゾミだった。

洗面所で顔を洗って、キッチンの冷蔵庫を開けて、リビングのカーテンをめくって──

「……あれ? 嵯峨美も、みつも、いない……」

ぼそっとつぶやいた声に、

「ん〜、なに?」と眠そうな翔がのそのそ入ってくる。

「え、あいつらまだ寝てんの?」

「部屋、電気ついてなかったけど……」

そのとき、ちょうど階段を下りてきたのはカナタ。

「嵯峨美の部屋は、昨日からドア開いた音してないけど」

「ってことは……」

「……みつの部屋?」ノゾミがぽつり。

全員、顔を見合わせて沈黙。
翔が小声で「……マジかよ」って言って、急に全員がリビングの空気を吸い直した。



■何も言えねぇ、でも全員わかってる

「いやさ〜昨日の空気、あれはもう、な?」

翔がトースターの前で呟くと、ノアがあくび混じりに「煮込みって、催淫効果ある?」と返す。

「ないよ。てか、あったら俺がまずやられてる」とカナタがぼやく。

「嵯峨美、昨日ちょっと濡れてたよね……髪」

ノゾミのつぶやきに、翔が吹き出しそうになって「そこ?」とツッコむ。

三波がのんびりとマグカップを片手に現れて、
「ただいまって言って、グラス持ってたな。……あれ、飲む前だったんじゃない?」

「まさかのノンアルで、あの勢い……?」

「うわぁ、逆にこわ……」

誰も明言はしないけど、全員がわかってる。
──たぶん、今、あの部屋でふたりは寝てる。朝まで、ずっとしてたんだろうな。

潤が湯気の立つカップを手に現れて、「静かにしてあげよ?」と微笑むだけで、全員ピタッと黙る。



■「お疲れさま」の、代わりに

ノアが小さく伸びをして「じゃあ俺、あとで様子見に行ってくるよ。コーヒー持って」

翔が即座に「やめろ変な気配させんな、逆に気まずいわ」

「そっちこそ、なんか渡そうとしてない?」

「俺は、ただ、あいつらの無事を……」

会話がにぎやかに戻ってきたところで、三波がバゲットを切りながらぽつり。

「でも、よかったよね。あのふたりも、ああやって──」

言いかけて、ふと、ノゾミと目が合う。
ノゾミは恥ずかしそうに目をそらして、でも、うっすら笑ってた。

冬の朝。
まだ寝室の奥では、ふたり分の寝息がそろってる。

「……起きてきたら、ホットミルクだな」

「あと、ブランケット。足腰やられてる可能性ある」

「それ言うなって……」

笑い声のなかで、少しずつ、今日も動き出すシェアハウス。
嵯峨美とみつは、もうちょっとだけ夢の中──朝までしてた、ふたりで。

いいなと思ったら応援しよう!