短編小説は「詰め込んだ人」から失敗する?
必要なのは「壮大な設定」より一つのドラマ
数千〜2万文字で読者を満足させる、ライトノベル短編の作り方
頼斗くん:野辺先輩、今度短編を書こうと思ってるんですよ。
野辺先輩:いいね。何文字くらい?
頼斗くん:一万文字くらいです。それで、異世界転生して、魔法学園に入って、ヒロイン三人と出会って、王国の陰謀に巻き込まれて、最後は魔王を倒そうかなと。
野辺先輩:長編を書いてきなさい。
頼斗くん:まだ一行しか説明してないのに!?
野辺先輩:その一行でもう一万文字から溢れてるよ。
頼斗くん:短編って、長編をギュッと圧縮すればいいんじゃないんですか?
野辺先輩:それが一番やりがちな失敗だと思う。
文芸では数万文字、賞によってはかなり長い作品まで短編として扱われることもあるけど、今回はライトノベルやWeb小説でよく見る、数千文字から一万文字前後、多くても二万文字以内くらいの短編として話そうか。
頼斗くん:お願いします。
短編は「小さな長編」ではない
野辺先輩:まず短編を書くとき、私は長編を縮めようとは考えない。
頼斗くん:違うんですか?
野辺先輩:長編なら、
主人公の過去。
世界の歴史。
能力の仕組み。
仲間との出会い。
敵との因縁。
主人公の成長。
複数回の逆転。
そういうものを時間をかけて積み上げられる。
でも一万文字しかないのに全部やろうとしたら、
「主人公には悲しい過去があった」
「そしてヒロインと出会った」
「二人は次第に惹かれ合った」
「その後、王国を揺るがす事件が起こった」
「激闘の末、主人公は勝利した」
みたいになる。
頼斗くん:あらすじみたいですね。
野辺先輩:そう。出来事はたくさん起きているけど、読者が一つ一つを味わう時間がない。
だから短編では、
何を書くかより、何を書かないか
を先に決めたほうがいい。
一万文字で世界を一から説明しようとしない
頼斗くん:僕、ファンタジーを書きたいんですけど、世界観説明は必要ですよね?
野辺先輩:必要な分だけね。
頼斗くん:魔法体系とか、王国の歴史とか、五百年前の人魔大戦とか。
野辺先輩:その五百年前の戦争、本編で必要?
頼斗くん:世界観に深みが出るかなって。
野辺先輩:長編なら後から意味を持つかもしれない。でも短編では、その説明に五百文字使ったら、全体の二十分の一を消費することになる。
頼斗くん:そう考えると大きいな。
野辺先輩:短編では、世界そのものを説明するより、
今回の話を理解するために必要なルールだけ説明する
くらいでいいと思う。
たとえば、
「この世界では、死者に一度だけ手紙を送れる」
これだけで始めてもいい。
頼斗くん:魔法の起源は?
野辺先輩:いらない。
頼斗くん:なぜ一度だけ?
野辺先輩:今回の話で必要なら説明する。
頼斗くん:誰がその制度を作ったのか。
野辺先輩:だからいらないって。
頼斗くん:世界を作ったのに……。
野辺先輩:作者が知っていることと、読者へ説明することは別だからね。
短編なら「一つのテーマ」に絞ったほうが扱いやすい
頼斗くん:じゃあ、何を残せばいいんです?
野辺先輩:私はまず、
この短編で、一番何を書きたいのか
を一つ決める。
たとえば恋愛なら、
「十年間好きだった幼馴染に、今日告白する」
これだけでも一本できる。
頼斗くん:それだけ?
野辺先輩:むしろ、それだけだから掘れる。
なぜ十年間言えなかったのか。
今日だけはなぜ言おうと思ったのか。
告白する直前に何が起こるのか。
相手はどう反応するのか。
告白したことで二人の関係はどう変わるのか。
頼斗くん:確かに、一個でも意外と書くことありますね。
野辺先輩:ホラーなら、
「拾った財布を返そうとしたら、持ち主が昨日死んでいた」
ミステリーなら、
「毎朝自分の机に置かれている花は誰が置いているのか」
ファンタジーなら、
「勇者を倒した魔王が、勇者の娘を育てることになる」
それくらい中心がはっきりしていると組み立てやすい。
一つの感情、一つの関係、一つの謎、一つの選択。
短編では、それくらいでも十分なんだよ。
キャラクターも増やしすぎない
頼斗くん:ヒロイン三人は?
野辺先輩:一万文字なら、一人でいいんじゃない?
頼斗くん:せっかく三タイプ考えたのに。幼馴染、クーデレ、生意気後輩。
野辺先輩:三人出したら、それぞれ登場させて、性格を見せて、主人公との関係を説明して、見せ場も作りたくなるでしょ?
頼斗くん:なりますね。
野辺先輩:それだけで文字数がなくなる。
短編は、登場人物が少ないこと自体が欠点じゃない。
主人公。
相手役。
必要なら第三者。
それだけでも話は作れる。
むしろ人数を絞ると、一人あたりに使える文字数が増えるから、関係性を丁寧に描ける。
頼斗くん:短編って、削る作業なんですね。
野辺先輩:かなりそう思う。
始まる前の説明を減らして「事件の近く」から始める
頼斗くん:冒頭はどうすればいいです?
野辺先輩:内容にもよるけど、短編では始まり方に切れ味があると読みやすい。
頼斗くん:切れ味?
野辺先輩:本題まで遠回りしないこと。
たとえば、
「俺は十年前から幼馴染の美咲が好きだった」
から始めてもいいけど、
「今日、俺は十年間好きだった幼馴染に告白する」
なら、その日の話だとすぐ分かる。
あるいは、
「魔王を倒した翌朝、勇者がうちの玄関先に赤ん坊を置いて死んでいた」
でもいい。
頼斗くん:いきなり何が起きたのか気になりますね。
野辺先輩:短編は助走に使える文字数が少ないから、私はなるべく物語が動き始める地点の近くから入ることを意識する。
主人公が生まれたところから説明しなくていい。
今回の出来事が起きた日。
関係が変わる瞬間。
異常が発覚した場面。
そこから始める。
「主人公の人生」ではなく「主人公の一日」を切り取る
頼斗くん:でも短いと、主人公の成長を描きにくくないですか?
野辺先輩:人生全部を描こうとするからじゃないかな。
短編なら、
「人を信用しなかった主人公が、一人だけ信じてみる」
くらいでも変化になる。
頼斗くん:世界を救う必要はない?
野辺先輩:もちろん救ってもいいけど、それが必須じゃない。
たとえば、
朝は「絶対に謝らない」と思っていた主人公が、
夜には「ごめん」と言える。
それだけでも、一日の中でちゃんと物語がある。
頼斗くん:変化の幅を小さくする。
野辺先輩:そう。
短編って、人物の人生を最初から最後まで描くというより、
人生の中で、その人物にとって忘れられない一場面を切り取る
感覚に近いと思う。
終わり方も「その後全部」を説明しなくていい
頼斗くん:僕、短編の最後になると不安なんですよ。
野辺先輩:何が?
頼斗くん:読者に「このあとどうなったの?」って思われそうで。
だから、
「二人は結婚した。その後三人の子供に恵まれ、主人公は騎士団長となり、王国は平和になり、ヒロインは七十八歳で……」
まで説明したくなる。
野辺先輩:急に年表が始まった。
頼斗くん:ちゃんと完結させないと。
野辺先輩:完結と、その後を全部説明することは違うよ。
短編ではむしろ、中心に置いた問題が解決した瞬間で閉じるほうが印象に残ることもある。
告白する話なら、返事をもらったところ。
母親と仲直りする話なら、二人が初めて本音を言えたところ。
謎を追う話なら、真相が分かった瞬間。
頼斗くん:未来まで説明しなくていい。
野辺先輩:読者がその先を想像できるなら、そこで終えていい。
冒頭と同じ台詞を、意味を変えて最後にもう一度言わせる。
最初に出した小道具を最後に再登場させて活躍させる。
最後の一文で、それまで見えていた出来事の意味を少し変える。
そういう終わらせ方も短編とは相性がいい。
短編では「回収できないもの」を置かない
頼斗くん:伏線はいっぱい仕込んだほうが読者も考察できません?
野辺先輩:回収できるならね。
短編で、
謎の老人。
意味深な王家の紋章。
主人公だけに聞こえる声。
封印された右腕。
ヒロインの過去。
頼斗くん:全部面白そう。
野辺先輩:全部回収する文字数ある?
頼斗くん:……ないですね。
野辺先輩:だったら減らす。
短編では、読者に「これは何だろう?」と思わせたものを放置すると、余韻より説明不足に見えやすい。
だから、
出したものはなるべく使う。
使わないものは最初から出さない。
これはかなり意識してる。
短編は「一つだけ持ち帰ってもらう」と考える
頼斗くん:じゃあ、短編を書く前に何を決めればいいです?
野辺先輩:私なら最後に、こう考えるかな。
読み終わった人に、何を一つだけ持ち帰ってほしい?
頼斗くん:一つだけ?
野辺先輩:「この二人の恋愛、よかったな」でもいい。
「最後の真相に驚いた」でもいい。
「この設定、面白かった」でもいい。
「ちょっと切なかった」でもいい。
全部を持ち帰ってもらおうとしない。
短編は文字数が少ないぶん、中心を一つに絞れば、その一つを最後まで濃く描ける。
頼斗くん:なるほど。じゃあ僕も一万文字の短編を考え直します。
野辺先輩:今度はどんな話?
頼斗くん:魔法学園に入学した主人公が、三人のヒロインと出会って、王国の陰謀を暴きながら、封印された古代竜を倒して、最後に実は主人公自身が魔王の転生体だったと判明する話です。
野辺先輩:何を削ったの?
頼斗くん:五百年前の人魔大戦の説明を。
野辺先輩:そこだけ!?
頼斗くん:だいぶ我慢したんですけど!
野辺先輩:もう少し我慢しようか。
