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転生監査機関《RAC》CASE.010

「ブリーフィング」


「はい! 早速ですが次の任務よ!」

 カイを筆頭に、上級裁定官のユリス、下級オペレーターのミラ、そして準上級執行官にドゥーの四人が作戦会議室で円になり、次の任務のブリーフィングを行っている。
 インヨウ兄妹はこういった会議への出席を基本的にしない。
 単に怠惰という面もあるが、なんせ態度が如何せん問題なので、カイが後から説明するという形を取っているらしい。それでも十二分の働きを見せるため、第六から文句を言う者は誰もいないのだ。

「質問があるっス!」
「はい、ミラ下級オペレーター」
「それですそれ」
「あら?」

 ミラはおもむろに立ち上がり、不満を訴えるかのように声を荒げる。

「なんでアタシだけ“下級”なんッスか??」
「あぁー……」

 確かに、特殊第六執行部隊の面々の中でミラだけが下級官止まりだ。
 つい先日まで同じ下級だったドゥーは、早くも準上級執行官。件の双子フィクサーもすでに準上級。ユリスとカイはもちろん上級、ヘパーに至っては官の資格を持つ。
 各々が胸元に爛々と輝かせる上級・準上級のバッジを前に、ミラが劣等感を抱くのも無理からぬことだった。

「なんでアタシだけー!なんでアタシだけ~!え~んっ(´;ω;`)」
「落ち着いて、ミラっ! ね?」

 カイが必死に泣きじゃくるミラを宥めていると、そこにユリスの無遠慮な一言が炸裂する。

「仕方がないことだよ、ミラオペレーター。この部隊の主役はドゥー執行官。上はどうやら我々に厄介ごとを任せたい魂胆が見え見えであるがゆえに、僕やカイ監査官、フィクサー兄妹を始めとしたベテランは、ドゥー執行官の昇進に釣られて上がりやすい」
「じゃあなんでアタシは上がらないんっスか!? というかアタシだけ“下級”つけるのやめてくれませんッ?! パワハラっスよ! パ~ワ~ハ~ラ~ッ!!」

 カイのふくよかな胸の中に再度顔を埋めるミラ。
 これ以上はまずいという目配せを送るカイだが、ユリスの律儀な解説は止まらない。

「例えばだが、仕事を持ってくるのはカイ監査官、それを査定するのが僕だ。よって我々二人の位が高ければ高いほど、厄介な任務をこの部隊に回しやすい。ドゥー執行官やインヨウ兄妹も同様、三人の位が高いほどそれに応じた装備が支給されるため、成功率に直結する。対してオペレーターだが……」

 ごくり、とドゥーは息を飲む。
 期待はしていないが、ユリスの次の言葉がミラの納得できるものであることを願うばかりだ。

「シンプルにあまり関係ない。下級だろうが上級だろうが支給されるものも同じであり、権限にも特に差は――」
「うぎィーッ!!」

 ミラがユリスに飛び掛かる。
 眼鏡を奪われ、視界を失ったユリスが周囲を手探りで探し回っている。

「どうするんですか? これ……」
「はぁ……もう、二人とも。そこまでにしなさい」

 カイはミラの頭を撫でながら、諭すように言葉を紡ぐ。

「ミラ、よく聞きいて。ユリスは別に、オペレーターの仕事が取るに足らないなんて言ってないわ」
「……ッス」
「実際はその逆。オペレーターの質が高いほど、任務の成功率が上がるの。ね、ユリス?」

 ようやく眼鏡を取り戻し、ユリスはよろよろと弁解する。

「……誤解をさせてしまったなら謝罪しよう。僕が言いたいのは、あくまでオペレーターの職域が位では変動しにくいということだ。だが実際、データを見るに、オペレーターの質が高いほど成功率が上がるのは事実。特に高難度の案件ではその傾向が顕著だ」
「……ウス」
「それに、オペレーターって評価しづらい役職なの……だからごめんね、ミラ。今日は私のおっぱいに免じて許して?」
「ウス…ついでにその無駄にデカい乳から何カップか頂けると嬉しいッスねぇ(#^ω^)……」

 どんな悩みも“おっぱい”で解決する。過度なストレスも、劣等感も、怒りも悲しみも、母性の権化のようなそれの前では皆子供心を取り戻すのだ。
 ミラはようやく機嫌を取り戻した(?)。

「だがまぁ、前回の任務では役立たずだったことも否めないが――」
「ウギィーッッ!!!!」

 再度取っ組み合いが始まる。
 カイはもはや諦めたのか、二人を置いてブリーフィングを再開した。

「馬鹿二人はほっといて、次のターゲットの概要よ……」

 カイがボタンを押すと、空間上に次の執行対象の情報が大きく映し出される。

 ◇

 異世界目録:宮廷魔導学園を追放されたので辺境でスローライフするつもりが、規格外魔法で伝説を量産していた件 ~あれれ?僕また何かやっちetc……
 異世界座標:γ-411-ノード
 名前   :エリオット・レインフェル
 性別   :男
 種族   :人間
 年齢   :17歳
 身体的特徴:細身、黒髪、蒼眼。中性的な美貌。常に無垢な微笑を浮かべている。
 性格   :温厚、善良、素直。だが致命的なまでに社会常識・加減・責任感が欠落している。悪意なく他者を見下す傾向あり。
 地位   :元・王立宮廷魔導学園特待生/元・勇者候補補佐官
 人間関係 :幼少期に学園の校長たる“大賢者”に拾われ育てられる。学園では天才として持て囃される一方、同級生・教員・隊員たちとは無自覚な軋轢多数。人格成長を願って学長自ら追放、彼を“神童”と崇める同期たちを連れて世界を放浪する。
 能力   :常理外演算《オーバー・チュートリアル》
 罪状   :第二級拡散型執行対象――無自覚な超常的介入により、地域経済・軍事均衡・身分秩序・宗教観へ継続的破壊を発生。及び、追放後も善意による技術供与・魔法行使を繰り返し、複数国家における社会基盤の崩壊と局地戦争激化の要因となる。

 ――以下省略

 ◇

 目が眩むほどの文字数が情報録を埋め尽くしている。
 上記の情報はほんの一部。カイがどれだけ操作しても、スクロールバーは微々たる動きしか見せない。

「お、おお……(今回はやけに詳しい)」
「今回もヤベェくらいヤベェ案件ですね……えーと何々? 第二級拡散型執行対象……って何スか?」

 初陣の時とは違い、やけに詳しい情報録だ。人間関係の内情まで事細かに調べ尽くされており、今回は下調べの時間を丸々割愛できると、ドゥーは微かに安堵していた。
 ミラにとっても、この詳細に記載された情報録は好ましく、すいすいと読んでいく内に“第二級拡散型執行対象”という用語に引っかかる。

「拡散型執行対象とは、その被害範囲が拡散しているということだ。各地でトラブルメーカーのように問題ごとを振り撒いているらしいが……第二級から察するに、かなりの広範囲だ。それと君はもう少し勉強をした方がいい、ミラ下級オペレーター」

 やれやれと、ユリスは長々と説明する。
 拡散型執行対象とは、つまるところ被害が局所的ではなく、まんべんなく広範囲に広がっているということ。第〇級とはその程度を指し、特級ほどにもなるとその世界すべてを丸々支配しているとか。
 ちなみに前回――ケイン・アッキネンの罪状「第四級累積型執行対象」とは、その名の通りターゲットの悪行が塵積で積み重なり、やがて執行対象となるまでに悪化したということだ。数ある罪状でもかなり一般的な罪状であり、それも四級なのでとてもしょぼい。

「へぇ~~、でも“γ”なんスね。あと次“下級”って言ったらその眼鏡へし折るッスからね」
「…………すまない、つい」

「そうねぇ……広く浅く? 小さな厄介ごとを引き起こしている感じなのかしらね」
「それも無自覚に……ですか」

 ここでミラの言う“γ”とは、異世界座標のことを指す。

 座標は基本「○-□□□-ノード△△」の形式で表され、神々が造りたもうた無数の異世界を識別するために設けられたものだ。
 △はシンプルな空間座標の値、□は異世界自体の番号、そして○が階層を指す。
 
 この階層こそ最も重要視される要素であり、端的に言えば世界のだ。
 低い順にγ→β→α→Ζとランク付けされ、高位の神ほど高くなりやすい傾向にあるため、神々は見栄と権威を示すべく“Z”の獲得に躍起となっている。分かりやすく喩えるなら、地球ガイアにおける文壇――その最高峰に名高い「芥川賞」の獲得に近いだろうか。

「今回はやけに詳しく書かれてるみたいですけど……これも何か理由が?」
「あぁ、それはだな、ドゥー執行官――」

 そしてランクは同時に、異世界の調整難度を表す。
 完成度の高い世界ほど任務の難度が高いのだ。
 今回の異世界は“γ”のため、初回任務の異世界よりも評価は下――いわゆる“駄作”だ。したがって本来は下級執行官が担当する案件である。

「今回の世界は日の目を浴びていない、所謂マイナー案件。つまり執行すべきターゲットが内在しているものの、緊急性がないので長らく情報収集のみ行われてきた。それがこの結果だよ」
「なるほど……」

 ドゥーは指で画面を弾き、何度も情報録を上下にスクロールする。
 かなりの文章量だ。家族構成に能力の詳細、数ある問題行動がいちいち事細かに記載されている。正直、この短時間での読破は難しいだろう。

「長い時間をかけたということは、今回やっと“執行”に踏み切るに至る事件が起きたということですね?」
「あぁ、その通り。君は話が早くて助かるよ」

 チラッと、誰かと比較するようにユリスがミラを一瞥する。
 それに気づいたミラが眉を酷くひそませ、ガンを飛ばす。

「端的に言うと、ターゲットが殺人を犯した。これまでは無自覚な迷惑行為を重ねるだけにとどまっていたが、ついに一線を超えた。それがトリガーとなったのだよ」
「ふーん。で、その殺人ってはなんスか?」
「残念ながら詳細は不明。だがこれは悪意はなく、善意による無自覚であると同時に、悪辣な好意によるものであることは確かだ」

 つい先ほどの出来事なので、詳しい情報はRAC本部もいまだ把握していないという。
 そこは本案件を受け持つことになった彼ら特殊第六執行部隊が直々に解析しなければならない。つまり、オペレーター『ミラ』の出番だ。

「今回の働き次第では、君にも昇進チャンスは十二分にある。せいぜい励みたまえ、ミラか――オペレーター」
「フンッ、言われずとも! 来月発売される新グラボのためなら先輩の命だって賭けられますッス!」
「おい」

 ミラは本案件における気合は十分なようだ。
 鼻を鳴らしながら、オペレーター室へと意気揚々と向かった。
 聞き捨てならない言葉を聞いたが、ここで横やりを入れて彼女の浮き沈みのあるやる気を削ぐのも面倒だと、仕方なく見過ごすことにする。

「ちなみにドゥー、今回の案件は『アバドン・システム』の許可は下りていないわ」
「えっ」
「それにヘパから伝言よ――」

 ――テメエが無理してアバドンぶっぱなすから『FREYA』がいかれちまってる! 当分はただの頑丈な鎧だが自業自得だボケナスッ!!

「――だそうよ」
「ハァ~~…………」

 『FREYAフレイヤ』とは、終始ドゥーが装着しっぱなしの統合万能戦術スーツのこと。彼の外見を機械的たらしめる主な原因だ。
 その機能は多岐にわたるが、本来『アバドン・システム』を使う際は任務前に特別な調整を必要とするところを、ドゥーはヘパーの許可なしに発動したため、その機能は失われ今はただの特別頑丈なスーツと化している――らしい。

 随分と似ていないヘパーの物真似だったが、その様子から彼がどれだけカンカンかは十分に伝わった。
 前回に引き続き、今回もまたデカい制約があるということで、ドゥーは周りの目も気にせず巨大なため息をつく。

「とはいえ、その他武装は通常通り支給される。今回はそれを活用したまえ」
「……了解です」

 話が済んだことで、カイは発破をかけるようにパンッと手を叩く。

「ハイ、じゃあブリーフィングおしまい! ちゃっちゃか終わらせてミラの昇進祝いしましょ♡」

 自分が飲みたいだけだろ、というツッコミはさておき、ドゥーも準備を始める。
 といっても彼はすでに装備済みだが。

 初陣が微妙な感じで終わり、一時はどうなるかと思われたが、なんとかカイの頑張りでぎりぎり認可が下りた特殊第六執行部隊。
 失敗すれば即解体。彼らに失態は許されない。
 次なる任務に向け、各自気を引き締め、早足で持ち場へ就くのであった。

 
「では行きましょ!RAC所属・特殊第六執行部隊、出動!!」

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 ――報告。
 地球時間130632ZJAN25

 特殊第六執行部隊の“γ-411-ノード”への出動を確認。
 各員、ターゲット「エリオット・レインフェル」もとい――『工藤・旭くどう・あさひ』の執行を開始せよ。

 以上。

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