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転生監査機関《RAC》CASE.034

「暗号解読」


「暗号?」

 ミラ曰く、偶然裏路地でドゥーの目に留まったこのビラには、何やら暗号が仕掛けられているという。

 執行官3人が上から下まで何度読み込んでも特に違和感はない。
 何が何でも手柄が欲しいミラの吹いたホラではないかと、インヨウ兄妹がからかう。

「は!? ちょ、違うッスよ! 思い出してください、ここ宝国には特徴的な点があったでしょう!?」
「とくちょー?」
「特徴か……」

 宝国『セレスティア宝統府』の特徴。
 歩いてみた感じでは清潔な国というのが第一印象だ。国民は何不自由なく暮らしており、特筆すべき点は特にない。
 強いて言えば転生者が上にのさばっていることだが、おそらくそれはこのビラとは関係ない――ロザリアが転生者であることを伏せている場合に限るが。

 食文化、色、地形。
 様々な要素を検討するが、これといったものは浮かばない。

 だがミラにヒントをもらうのは癪だ。
 できれば自力で解きたい。

 そんなことを考えていると、ヨウが一言漏らした。

「そういえばボクたち見逃したおじさん、変わった名前だったね」
「なんだっけ? ロック・ラフストーンとかだっけ? たしかになんか“石”感すごいね」

「…………石……名前……ロック――名前か」
「そう、それッス」

 執行官に支給されているヘルメット――そのバイザーには、オペレーターが入力した情報を視覚へ投影する機能がある。
 先ほどビラの翻訳を表示したのも、この機能の一つだ。

 もう一つの機能として、リアルタイムでオペレーターが解析した情報が自動的に執行官の視覚情報へ加算される仕組みになっている。
 つまりミラが、ドゥーたちを中心に解析した周辺情報を、彼らのバイザーへそのまま出力できるのだ。
 そのおかげで、すれ違う人々の名前や性別などが頭上へ映し出される。
 ゲームで言うところの情報ログ、あるいは埋まっていくステータス画面を想像してもらえれば早い。

 あの時、ドゥーたちを城壁で見逃してくれたロック・ラフストーンという男。
 そしてすれ違う国民たちの名前。
 それらには特徴的な共通点があった。

「……鉱物か」
「ピンポーン! 正解ッス。ここ宝国『セレスティア宝統府』は、鉱物にちなんで名を与える文化があるみたいッス。さすが宝国。ちなみに王族は鉱物の最たる宝石が由来みたいッスねぇ~」
「鉱物かぁ~」
「それがなんなん?」

 インヨウ兄妹はいまだぴんと来ていない様子だが、そこまで言われればもはや正解同然だ。
 ドゥーは答えが喉元まで出かかっていた。

「ミラ、歴代国王の名前のリストをくれ」
「はいッス」

 カタカタという音と共に、左手のガントレットから宝国の歴代王たちの名前がずらりと並んだリストが表示される。

 初代王 ルーン=カスケリオン
 二代目・パルイス一世
 三代目・ルナモンド二世
 四代目・サファール三世
 五代目・エメラルディア四世
 六代目・ルベリオ五世
 八代目・アゲートス七世 ←NOW!

「なるほど………………わかったぞ」

 え、なになに、とインヨウ兄妹は教えてほしそうにぴょんぴょん跳ね回る。
 もう答えが知りたくて仕方ない様子なのでドゥーはビラを指さしながら説明を始めた。

「このビラを見てください。各段落に一つずつ、不自然に宝石の名前が紛れ込んでしょう?」
「えー?……翠玉、紅玉――ほんとだ!」
「そしてこれが歴代王の名前。これを段落の順に照らし合わせていくと――」

 文章中の翠玉、紅玉、真珠、月長石、瑪瑙、青玉。
 これを宝国の王の代数と順に対応させていく。
 すると六桁の数字が浮かび上がった。

 562384

「ナニコレ」
「ご・む・に・み・や・し? ドゥーの好きな■■女優の名前?」
「んなわけねーでしょうが。これは“座標”です。下にあつらえ向きの円盤状の宝石が描かれているでしょう???」

 「そんな名前の娘いるっけ?」というカイの独り言は無視する。
 インヨウ兄妹に向け、ビラの末尾に描かれた宝石の絵、その中央へ大きく書かれた〇の文字を指さした。

「この円盤状の宝石は、まさにセレスティア宝統府の形状そのもの。そして中央の〇。これは丸ではなく0――直交座標系の原点を示しているのでしょう」
「「ほうほう!(よくわからん)」」

「つまり先ほどの六桁の数字――56-23-84。これを0を中心として距離を計測するんです。ミラ、どこに該当する?」
「概ね推理は正解ッスねぇ。そして面白い解析結果が出ました。ロザリアの城の方角を基準に当てはめると――」

 再度セレスティア宝統府の立体マップが展開される。
 すると、ミラが指定した場所――暗号が示す箇所が赤く点滅した。

「ここか。面白い」
「っスね」

 どこなのどこなの、とインヨウ兄妹がドゥーの尻をぺしぺし叩く。
 もう答えが知りたくて仕方ない様子なので、ドゥーとミラは示し合わせたように、ビラが指し示す場所の名を同時に口にした。

「「王の玉座」」

 二人の答えが一致し、カイはぱちぱちと拍手する。
 インヨウ兄妹は何がそれほどすごいのかいまひとつ理解していないが、とりあえず目をきらきらさせながら「おー」と声を上げてみたりした。

「王の玉座……つまりこのビラの書き手は、城の内部の人間――いや、王に関係する人物の可能性が高いわね」

 カイの補足へ、ドゥーは同意する。

「それに場所が場所でだ。相当な地位の者でなければ、そう容易には近づけない可能性も無きにしも非ずだ」
「まぁアタシが書き手だったら、悪女を陥れるんだから玉座への侵入くらい自分でこなしてくれないとね、って思うッスけど」

 なるほどな、とドゥーは頷く。
 そこへヨーが問いかけてきた。

「いつ集合なのー?」
「……あ」

 確かに、場所が判明しても時間の指定がなければ取り越し苦労に終わりかねない。
 完全に思考から抜け落ちていたとドゥーが頭を悩ませると、今度はインが何かを閃いた様子だった。

「わかったぞー」
「え?」
「さすがイン兄! いつなのいつなの?」

「ふふん……0時だ!」

 その心は、とドゥーが説明を求める。
 子供に解説されるのもどうかとは思うがミラの馬鹿よりはマシだと、ドゥーはインの話へ耳を傾けることにした。

「ここ、最後の文章」
「最後の文章?」

 ――集え反逆の石塊達よ、我が始まりの王の下へ集え。
   その時が、悪女の失墜の端緒となろう。

「始まりの王……ルーン=カスケリオン……なるほど。宝国の建国者――つまり0代目」
「やるねドゥー~~。何も言うことなくなっちゃった」

 全ての情報を統合すると、0時にドン・クライム城の玉座へ来いということだ。
 ちなみに今の時刻はというと――

「そっちの世界時間で23時20分ッスね」
「――あと40分じゃねぇか」
「やばーい」
「やばー!」

 このビラの質感を見る限り、本日発行されたものだろう。
 とすれば、書き主は今夜の0時に王の玉座で待機しているはずだ。
 内通者に接触できる千載一遇の機会を、ここで無為に逃すわけにはいかない。

「大丈夫よドゥー。FREYAがあれば王城への侵入なんて造作もないわ」
「……どういうことです?」

 カイの説明を聞く時間も惜しいため、一同は王城へ足を向けながら、侵入作戦を急遽練ることにした。

 

 ―――

 

 0時、ドン・クライム城――王の玉座。

 三つの影が、音もなく天井から玉座へ舞い降りる。
 着地の音は極めて小さく、枯れ葉が地へ触れる音よりも静かだ。

 すると、何もない空間からホログラムが解除されたかのように、三人の人型の姿が忽然と露わになる。

「本当に、あっさり入れた……」

 ドゥーとインヨウ兄妹だ。
 難なく玉座へ辿り着いたものの、あまりの拍子抜けっぷりにドゥーは逆に戸惑っていた。
 というのも、FREYAにはホログラムによる偽装機能を応用した透明化という機能があり、警備の目をすり抜け、ここまで難なく辿り着くことができたのだ。

 初めてこの機能を目の当たりにしたドゥーは、ならば潜入など不要でこの機能でロザリアの元まで直接忍び込めばいいのでは――と考えた。
 しかし気配までは消すことができず、足元の影も残るため、ルーンプリンスの強化具合次第では容易に看破されかねないとして、カイより直々に却下が下っている。

 それにしても、こうもあっさり玉座まで入れてしまうと、背信者を炙り出す罠ではないかという疑念が頭をもたげる。
 特に今の三人は機械的な元の姿に戻っている。見つかれば一発でアウト――即、全面戦争だ。

 その時――玉座の奥、ロザリアが謁見の際に使う扉から誰かが入室してきた。
 ドゥーはブレード、毎度の如く例のANUBISを引き抜き、その者へ突き付ける。

「誰だ」

 その者が一歩前へ出る。
 暗闇では判別できなかったが、窓から差し込む月光に照らされ、その素顔が露わとなった。

「お待ちしておりました、“反逆の石塊達”よ」

 あのビラのフレーズと一致している。
 間違いなく、この女がビラの書き手本人だとドゥーは確信した。

 だが警戒は微塵も緩めない。
 ブレードの刃を裏返し、切っ先を女へ向けたまま動かない。
 いつでも斬れるという意思表示だ。

「そう警戒なさらないで。私は貴方方の協力者です」
「では名を乗れ」

「……かしこまりました」

 女はスカートの裾をたくし上げ、静かに一礼する。

「私の名はラブラドーラ。あの悪女――『ロザリア・ディ・エルヴァニス』御付きのメイド長でございます」

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