【小説】マイノリティとしての矜持 (11)双子のおばさんと海
双子のおばさんと海
名古屋駅12番ホームに、エンジンの唸り声をあげて特急「南紀」が入線してきた。
「自由席は一号車だ。一番前の左の席に乗れ。」
数学のP先生の甲高く鋭い声を真似て、かさねが言った。
Pは仏頂面で教壇に仁王立ちし、象のような目で生徒たちを見据え、一瞬の間をおいて、鬨の声のような甲高い声で生徒を威嚇する激ヤバ教師のことだ。
夏休みの朝一の「南紀」は混雑していたが、二人は何とか狙った席を確保できた。ここまではドタバタだった。
「ジャージで良かった!こんなに走ると思わなかった死ぬ」
「なんか部活より頑張ったかもしれん」
プージャーのかさねに、部ジャーの青葉のペアだ。
昨晩バイトから帰るともう23時近かった。
青葉は旅行の準備を土壇場でやっと始めた。
通学リュックをひっくり返して空っぽにした。
着替えにタオルに、あ、水着ねえわ。え、明日、何着てくの?高校に入って、忙しくて私らほぼ私服ゼロじゃん。バイトはGUの白シャツ黒パンだったし。
無理。
かさねにメッセージを送る。
急募水着なし明日着る服もなし
もう水陸ジャージ
部ジャー?
おれはプージャー
セレブだからな
チャリ置き場に6時な
部ジャーもプーマなんだけどな。よそ行きのプージャーがあるのか。
青葉はTシャツ数枚に下着とタオルをバッグに詰めた。
遠くの貨物列車の汽笛が聞こえたような気がした。
明るいなんで。
やばすぎるもう6時になる!
青葉は寝落ちした部ジャーのまま、リュックを背負って家を飛び出した。
青葉は激怒した。
今日は遅刻するわけにはいかないのだ。
チャリを全速で走らせた。
まて、かさねから連絡がないぞ!
もしや邪智暴虐の睡魔の餌食になっているのか。
テンションは『走メロ』だ。
大通りの信号で、青葉はかさねに生存確認の電話をした。
「やべえ終わったーーー!!!!」
スマホのスピーカーから、かさねの絶叫が聞こえてきた!
結局、特急『南紀』に乗る名古屋まで行く名鉄が一本遅くなった。
報いとして名鉄名古屋駅からJR名古屋駅までの乗換猶予が全力疾走になった。
