「予算3000万、バグゼロ、納期通り」── それでも現場がそのAIを静かに捨てた理由 【DXの光と影 Case:1】
【制作について】
このシリーズでは、DXに関わる現場の声を拾い上げています。
記事は実際のインタビューに基づくノンフィクションです。
取材対象者のプライバシー保護のため、一部の固有名詞は伏せています。
会話の再現には脚色を含みます。
はじめに
「予算3000万円。遅延なし。バグもなし。社長からは『成功事例』として表彰されたよ」
師走の金曜、渋谷の喧騒から逃れた焼肉屋の奥で、元同期の優秀なエンジニアは自嘲気味に笑った。
「……現場で誰も使っていないという点に目をつぶれば、ね」
彼が担当したのは、AIによる高度な組み合わせ最適化プロジェクト。 要件定義も完璧、ベンダーのスキルも一流。 しかし、そこで起きていたのは、「高度なAIに計算させるために、人間が必死にデータを手入力し、残業が増える」 という、笑えない喜劇だった。
これは、悪意のない人々が「正しいこと」を積み重ねた結果、現場に毒が回ってしまった事例の記録である。
師走の金曜の夜、渋谷。
道玄坂を登った先にある「肉汁とっつぁん」の前には、いつもより多くの人だかりができていた。ロケバス。田村淳が、ファンに手を振りながら乗り込んでいく。スマホを掲げる群衆と歓声。
人混みをかき分けて店に入ると、先に来ていた元同期が奥の席で手を上げていた。
彼が転職したのは4年前。製造業の大手企業から、エンジニアリング会社へ。硬直した組織に嫌気が差し、新しい挑戦をしたいという選択だった。
再会を祝して乾杯。互いの近況を報告し合う。
彼の担当は、AIによる組み合わせ最適化プロジェクト。予算3000万円。大手IT企業に発注し、熟練職人の計算ロジックをシステム化する。
2017年、彼は私に深層学習を教えてくれた。同期入社の中でもトップクラスに優秀で、転職した時は誰もが惜しんだ。彼が関わるプロジェクトなら、技術的には間違いない。
「2週間に1回、先方と密にミーティングをしながら進めたプロジェクト。社長からも『成功した』って褒められてさ」
彼は少し誇らしげだった。
「成果が出てよかったね。」
私が聞くと、彼はグラスの水滴を拭きながら、ぽつりと言った。
「...一応ね」
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