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ハチミツはたっぷり使って #シロクマ文芸部

ハチミツはこだわって買っているの。

そういう彼女はいつも自信に満ちていた。
眩しいな、羨ましいなと思って一緒に仕事をしていた。
そんな彼女がなんで同じ会社にいるんだろう、とも思っていた。
私はなんの変哲もない専門学校を選び学校の廊下に掲示された求人見てここに来た。彼女だったらそうだな、もっとエグゼクティブな横文字の会社に行ってそうだもの。私は彼女をこっそり「はなまる先輩」と呼んだ。
なんでもできる。ミス??そんなものは母親の胎内に置いてきた。
スゴすばな彼女は私の二期先輩で、今私は彼女の仕事を引き継いでいる。

そんな彼女の部屋に招かれたのは私が少し落ち込んでいた日だった。
書類を幾枚か紛失してしまった私は上司から管理能力のなさやだらしのなさやらを指摘されさんざん叱られてしまったのだ。

同僚達が見ている中ひたすら謝るしかない自分はひどく惨めであった。
言えることは「すみません」だけ。
そのすみません1つ1つが
「私はダメな人間です」「私は愚かです」と言わされているようで
苦しかった。

でも、5分ほどそれを我慢すればいいのだ、とも思っていた。
自分のミスを謝ってやり過ごすせ。あと頑張ればいいんだからと。

彼女の部屋はイメージ通りでやっぱり同じ会社にいる人ではない、
いや、私なんかが一緒に働いていていい人ではないと思わせるには充分だった。物を多く置かないこざっぱりとした空間だった。
でも置いてあるものに妥協は見られない。やっぱりはなまる先輩だ。

道中立ち寄ったデリカテッセンで買ったお総菜と少々のワインがディナー。
「あなた、今日偉かったわよ。きちんと自分のミスを認めて。」
私は思いがけない言葉にビックリ。いや、書類なくしたのは自分だし、そこは謝るしかないのだ。いや、謝っておけばいい、とも思っていた。
「結構、言い訳がましいこと言う人が多いから。自分もよ。」
はなまる先輩が言い訳??それ以前にミスることなんてあるの???

彼女とその日は夜通し語り明かすことになった。
彼女の学生時代、仕事での失敗やこれからの夢などなど。
彼女の未来がどんどん拓けていくのが話を聞いていてわかった。
私は自分がなんとなく過ごしてきただけのこれまでを振り返りながら
彼女のパジャマと布団を借り丸くなって眠った。
小さく小さく丸くなって眠った。

朝食は彼女が焼いてくれたトーストだった。
「これ、気に入っているハチミツなの。使ってみて」と
小さな瓶を見せた。
「ずっとこのハチミツにしてる。こだわってるんだ」と
彼女はトーストにたっぷりハチミツをたらした。
「地元の友人からもらったの。それ以来ずっと取り寄せて使ってるんだ。」
私も真似た。遠慮なくたっぷりハチミツをたらした。
それは歯に沁みるような甘さだった。
パジャマのまま口を大きく開けてトーストにかぶりつく彼女。
あんまり「はなまる」じゃなかったけど、とても愛らしいと思った。
口角にハチミツがくっついたままお互いの顔を見て笑った。

「頑張れそうね」と玄関で私を見送る彼女はやっぱり眩しかった。

今彼女は違う世界にいる。学び直すのだと会社を辞めていったのだ。
別れの日にひと瓶ハチミツをこっそり私にくれるところなんか
やっぱりはなまる先輩だったな。
でも私が思い出すのはハチミツくっつけたちょっとぼさぼさの髪の
はなまるじゃない先輩の方だ。

#シロクマ文芸部
お題「ハチミツは」

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