紫陽花山 #シロクマ文芸部
「紫陽花を見に行こう」
「どこの紫陽花??見ごろに有休とれるかな」
なんてはしゃいだ私にあなたは言いました。
「俺の地元、紫陽花がすっげぇんだぜ。」
少し得意げな、
それがプロポーズでした。
青い海岸線をなぞって走る特急列車。
ボックス席にお見合いみたく座ったの、可笑しかったな。
眠っているのかうつむいているのか
わからないから時々顔を覗き込んだの。
あなたが言った紫陽花がすっげぇ場所は
お山が丸ごと紫陽花のようでした。
花についたしずくの1粒1粒はまるで音符。
紫陽花たちの歌が雨上がりの街に響きました。
少し散策し、
そのままご挨拶に行くのかと思えば
コーヒー飲もうって喫茶店に入ったのよ。
自分の家に行くのに何を粘ってたんでしょう。
コーヒーをお替りしようとするんですもの。
あなたが緊張してどうするの?
不安なのは私の方なんだから。
あなたが育ったおうちにも紫陽花がたくさん
植わっていました。
あなたの地元は紫陽花をとても身近に感じているんだなって
すぐわかったの。
今年もお庭の紫陽花が咲いています。
お嫁に来てからあなたと植えたものもありますね。
「お母さん、そろそろ・・」
娘に肩をぽん、とされてはっとした。
「ごめんごめん、考え事してた。」
「四十九日終わって疲れが出てるんでしょう?これから1人で大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫大丈夫。」
法要が終わり東京へ戻る娘に街の名物あんぱんを持たせた。
仏壇にも同じものが並んでいる。
「これ、お父さんが好きだったやつだ。」
「そうね、何かっていうと買ってきたよね。さ、駅まで送るわ。」
きっと娘は「東京で一緒に暮らせないか」って考えてくれてるんだろう。
ここは紫陽花がすっげぇ街。
私はもうちょっとおばあちゃんになるまでここで1人で生きてくつもり。
明日も晴れの予報だ。
お山の紫陽花を見て少し歩こう。
#シロクマ文芸部
お題「紫陽花を」
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