講師力は「気づく力」で飛躍する受講者の変化を捉える「ティーチャー・ノーティシング」と7つの実践トレーニング
講師力を高めようとすると、多くの人は「説明する技術」を磨こうとします。
話す順番を整える。
分かりやすい例え話を用意する。
声の大きさや話す速度を調整する。
スライドを見やすくする。
これらは、どれも大切な技術です。
しかし、どれほど説明が上手になっても、受講者の状態を正しく捉えられなければ、研修の成果は大きく変わりません。
例えば、研修を終えた講師から、次のような報告を受けることがあります。
「受講者はよくうなずいていました」
「質問もなかったので、理解できていると思います」
「一人が正解したので、そのまま次へ進みました」
「演習中に手が止まっていたので、やる気がないのかもしれません」
これらは、すべて研修中に起こり得る場面です。
しかし、
* うなずいているから理解できている
* 質問しないから問題がない
* 正解したから判断基準を理解している
* 手が止まっているから意欲が低い
と、そのまま判断してよいのでしょうか。
受講者が見せる反応と、頭の中で起きていることは、必ずしも一致しません。
うなずきながら、説明についていけなくなっている人もいます。
正解を選んでいても、理由を説明できない人もいます。
沈黙していても、複数の条件を比較しながら深く考えている人もいます。
反対に、積極的に発言していても、誤った理解に強い自信を持っている場合があります。
講師に必要なのは、目に入った反応へ、すぐに意味をつけることではありません。
研修中の重要な変化に気づき、その意味を確かめ、次の対応を選ぶことです。
この講師の専門的な力を考えるうえで、参考になる概念があります。
それが、ティーチャー・ノーティシング(Teacher Noticing)です。
ティーチャー・ノーティシングとは何か
ティーチャー・ノーティシングは、授業や研修で起きている多くの出来事の中から、学習にとって重要な情報へ注意を向け、その意味を解釈し、次の対応へつなげる力です。
研究者によって枠組みの表現には違いがありますが、企業研修へ置き換えるなら、次の三つで捉えると分かりやすいでしょう。
1.気づく
受講者の発言、沈黙、誤答、質問、行動の変化から、学習に関係する重要な兆候を捉えます。
2.解釈する
受講者が何を理解し、どこで迷い、どのように考えているのかについて仮説を立てます。
3.対応する
待つ、問い直す、説明を変える、演習を追加するなど、次の行動を選びます。
Jacobs、Lamb、Philippは、学習者の思考に対する専門的なノーティシングを、学習者の考え方へ注意を向けること、その理解を解釈すること、理解に基づいて対応を決めることという、相互に関係する技能として整理しました。
また、van EsとSherinは、講師が重要な出来事を選択的に捉え、専門知識と結びつけながら解釈する力を扱ってきました。
その後の研究では、講師が受講者へ問いかけ、思考が見える状況そのものをつくる側面も重視されています。
ただし、これらの研究は学校教育、特に数学教育を対象としたものが中心です。
そのため、本記事では研究結果を企業研修へそのまま当てはめるのではなく、約10年間、新人育成や講師育成に携わってきた私の経験と結びつけ、企業研修で使える形へ置き換えて考えます。
同じ研修でも、講師によって見えているものが違う
研修中の講師は、同時に多くのことを処理しています。
説明する。
資料を操作する。
時間を確認する。
質問へ答える。
受講者の演習を見る。
次の進行を考える。
すべての出来事へ、同じように注意を向けることはできません。
そのため、何に注意を向け、何を重要だと判断するかによって、講師の対応は変わります。
例えば、二人の受講者が演習で同じ不正解を選んだ場面を考えてみます。
ある講師は、
「二人とも理解できていない」
と考え、同じ説明を繰り返します。
別の講師は、それぞれに理由を聞きます。
すると、一人は問題文の重要な条件を見落としていました。
もう一人は条件には気づいていましたが、判断基準を誤って理解していました。
見えている結果は、同じ不正解です。
しかし、必要な支援は異なります。
条件を見落としている人には、判断前の確認手順が必要です。
判断基準を誤解している人には、似た事例との比較が必要です。
講師が不正解という結果だけを見れば、二人は同じ状態に見えます。
答えへ至る過程まで見ようとすれば、異なるつまずきが見えてきます。
ティーチャー・ノーティシングは、単に観察力が高いという話ではありません。
学習にとって重要な違いを見つけ、支援の違いへつなげる力なのです。
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