なぜ娘のフランス語習得は速いのか〜語学習得に8年付き添って感じた「言語距離」と「英語基盤」の重要性
こんにちは、阪口です。2025年から家族で南フランスに暮らしています。
8歳になる娘は、
・両親は日本語ネイティブ
・日本生まれ日本育ち、母語も日本語
・習い事として4歳から英語
・8歳からフランス語の公立校へ
という言語遍歴を辿っています。
僕ら両親は共に英語ができず、海外での留学経験もありません。ただ、娘が大きくなる頃には諸外国語は必要だろうと思い、0歳の頃から英語やフランス語のかけ流しをしたり、4歳からは習い事として英語スクールに入れていました。
ということで学習歴は、
・英語8年
・フランス語9ヶ月
になるのですが、8歳からはじめたフランス語の習得スピードが、とても早く感じます。発音も良いですし、詩の暗唱やフランス語の書き取りテストなども困らず、最初はChatGPTに手伝ってもらっていた学校の宿題も1人でやるようになりました。

先日学校の成績表(CE2の前期)が出たのですが、フランス語も含めほとんどの教科で「学年目標に到達」という評価でした。最初の2ヶ月はクラスに参加しながらも別のドリルをやっていたようですが、進級してからはクラスメイトと同じ授業を受け、評価は「到達」なので、普通にフランス語で学べる状態になっているようです。
この状態まで約80日。フランス語がゼロの状態から習得するまで想像より早かったです。
興味があって調べていくと「言語距離」という概念に出会ったので、今日はその概念について、調べたことをまとめたいと思います。

結論から言うと、娘のフランス語習得が速かったのは、子どもだからという単純な理由ではなく、先に英語を学んでいたからということがわかりました。
英語とフランス語は「言語距離」が近く、英語で獲得した知識をフランス語に転用することで早く習得することができている、ということのようです。
この記事では、
・我が家の言語教育遍歴
・これまでの教育方針
・これまでの学習時間などのデータ
・過去8年間の娘の様子
といったエピソードを交えつつ、関連する研究データなどを調べてわかった「言語距離」について、まとめていきます。
言語教育に興味を持ったきっかけ
冒頭にも書きましたが、
「将来的に英語や諸外国語ができるようになったらいい」
と思い、0歳の頃から英語を中心に、フランス語、スペイン語、タイ語などいろんな言葉を聞かせることしていました。専門的にやっていたわけではなく、BGMとして現地語のアニメを流したり、Peppapigなどの多言語展開しているアニメを見せる、ような感じです。
娘に英語の映像を見せ始めたのには、あるきっかけがありました。
ラオスで出会ったバイリンガルな人たち
2013年、まだ独身だった頃、僕はラオスで暮らしていたことがあります。
暮らしていて驚いたのは、現地で出会うラオス人の誰も彼もが、隣国であるタイ語を話す「バイリンガル」だったことです。
「どうやって覚えたのか」と聞くと、全員が「テレビを見て覚えた」と言う。
「ラオスには面白いテレビが何もないんだよ。国営放送しかないし。アニメにしろ、バラエティにしろ、面白いテレビ番組はタイ語しかないんだ」
「特にアニメの力は大きいよね。ドラえもんにしろ、ポケモンにしろ、ラオス語ではやってないから。小さい頃からタイ語のアニメみて育ってるから、それで覚えるんだよ」
この事実は、「言葉を覚えるためには沢山勉強をしなければならない」と思い込んでいた僕にとって衝撃的でした。
幼少期からテレビを見続けた、という環境の力によって、これだけのんびり暮らしている(そういう国民性の)ラオス人たちがバイリンガルになっている。
この経験から「映像を流せば言語を習得できる」と考え、2017年に娘が生まれてからは、0歳から英語の映像をかけ流すことをしていきました。
僕はこれを勝手に「ラオス式英会話」と名付けています。(下記、参考記事)
そんな経緯もあり、最初は娘のフランス語習得が速いのも「ラオス式」が効いたのかと思いました。0歳からフランス語の音も少し聞かせていたし、Peppa Pigのフランス語版も見せていた。その土台があったからスムーズに習得できたんだろう、と。
何かがおかしい
でも、何か腑に落ちない。
0歳から英語もフランス語も聞かせていた。でも、当時はフランス語圏に暮らす予定もなかったので、圧倒的に英語を長く聞かせていました。フランス語なんて、英語の100分の1程度しか聞かせていなかったはずです。
それなのに、習得スピードは英語よりフランス語の方が圧倒的に速い。現地の学校に通っているからだろうか、年齢的なものだろうか。この疑問を解くために、色々と調べてみると、「言語距離」という概念に出会いました。
言語距離という概念
言語の「近さ」を測る科学的指標
言語距離とは、2つの言語がどれだけ「似ているか」「離れているか」を測る指標です。
・音韻(音の体系)
・文法
・語彙
の3つの要素で測られます。

オランダのラドバウド大学のSchepens博士らの大規模研究(2020年)では、約50,000人のオランダ語学習者のデータを分析し、「学習者の母語」が習熟度の9〜22%を説明することを示しています。つまり、母語と目標言語の距離が、学習の困難度を大きく左右するということです。
例えば、ドイツ語話者がオランダ語を学ぶのは比較的簡単ですが、日本語話者がオランダ語を学ぶのは非常に困難と言われます。これは、ドイツ語とオランダ語が近く、日本語とオランダ語が遠いためです。
フランス語と英語は「近い」
アメリカ国務省の外務職員局(FSI)が公表している言語難易度ランキングと、言語学的データを総合すると、言語の差が見えてきます。
フランス語と英語は、共通語彙が27〜40%もあります。「restaurant」「table」「music」「nature」といった単語は、両言語で同じか非常に似ています。同じアルファベット26文字を使い、同じSVO語順(主語-動詞-目的語)を持ち、時制システムや冠詞の使い方も類似しています。

FSIのデータでは、英語話者がフランス語を習得するのに必要な時間は600〜750時間。これは「Category I(最も易しい)」に分類されています。
日本語と英語は「遠い」
一方、日本語と英語の組み合わせは全く異なります。
・共通語彙はほぼ0%(外来語を除く)
・文字システムが完全に異なる(ひらがな・カタカナ・漢字 vs アルファベット)
・語順が逆(SOV vs SVO)
・音素数も大きく異なる(日本語約20音素 vs 英語約44音素)
と、共通項が全くありません。

FSIのデータでは、英語話者が日本語を習得するのに必要な時間は2,200時間。これは「Category V(最も難しい)」に分類されています。
つまり、フランス語-英語間の学習時間が約600〜750時間なのに対し、日本語-英語間は約2,200時間。実に3倍以上の時間差があるのです。
日本語とフランス語の組み合わせも同様で、推定2,200〜2,400時間が必要とされています。
娘のフランス語習得が速かった本当の理由
第三言語習得の「転移効果」
では、なぜ娘は9ヶ月でフランス語の読み書きまでできるまでになったのか。
調べていくと、「第三言語習得における転移効果」という現象に行き当たりました。
コロンビア大学のMurphy博士の研究(2003年)や、バスク大学のCenoz教授の研究(2013年)によれば、第二言語(娘の場合は英語)の知識が第三言語(フランス語)の学習を促進することが確認されています。特に、類型的に近い言語間(英語とフランス語)では、この効果が顕著に現れます。

つまり、娘がフランス語を学ぶ際、完全にゼロからのスタートではなく、既に英語で獲得した膨大な知識を「転用」したようでした。
英語で既に獲得していたもの
娘が英語学習で獲得していたものを整理してみます。
まず、ローマ字アルファベットの読み書き。これは当たり前のように思えますが、日本語しか知らない子どもにとっては全く新しい文字システムです。娘は既にこれをマスターしていました。
次に、SVO語順の概念。日本語は「私は・本を・読む」という語順(SOV)ですが、英語もフランス語も「私は・読む・本を」という語順(SVO)です。この語順感覚を、娘は既に身につけていました。
時制システムも重要です。日本語は主に「過去」と「非過去」の2時制しかありませんが、英語もフランス語も、現在・過去・未来・完了形など複雑な時制システムを持っています。娘は英語でこの概念を理解していました。
フォニックスとメタ認知スキル
フォニックス(文字と音の対応)も大きな武器でした。英語スクールでフォニックスを学んだことで、娘は「文字と音が対応している」という概念を理解していました。だから、フランス語の新しい文字を見ても、「これはどういう音だろう」と類推できる。
そして最も重要なのが「言語学習のメタ認知スキル」です。
これは、「言語を学ぶとはどういうことか」という理解です。新しい単語を覚える方法、文法ルールを理解する方法、間違いから学ぶ方法——こういったスキルを、娘は英語学習を通じて獲得していました。

フランス語で新しく学ぶ必要があったもの
一方、フランス語で新しく学ぶ必要があったものは、実はそれほど多くありませんでした。
約8〜11個の新しい音素(特に鼻母音)、動詞の活用(英語より複雑)、性・数の一致、そして新しい語彙。
でも、英語とフランス語には多くの共通点があります。語彙の27〜40%が共通していますし、文法構造も似ています。同じアルファベットを使っているので、文字を覚え直す必要もありません。
学習時間の計算
娘の実際の学習時間を計算してみます。
0〜6歳:英語の映像・音声に約8,000時間
4〜8歳:英語スクールで約600時間
→英語の累積学習時間は約8,600時間になります。
そして8歳からの9ヶ月間、フランスの学校で約600時間。
FSIの推定では、英語話者がフランス語を習得するのに600〜750時間かかるそうで、9ヶ月目の娘はちょうどこのラインに達しています。

イマージョン環境(フランスの公立小学校で毎日6〜8時間)という集中的な学習環境と、英語で獲得していた基盤知識が組み合わさって、急速な習得を可能にしたのだと思います。
もし英語を学んでいなかったら
逆に、もし娘が英語を学ばずに、日本語からフランス語へ直接学習していたらどうなっていたか。
過去の研究データをみると推定で2,200〜2,400時間が必要だったと思います。
文字システムから全て新規に学習しなければならないし、SVO語順の概念も、時制システムも、全てゼロから学ぶ必要があります。9ヶ月でディクテができるようにはならなかったはずです。
ディクテ=フランスの学校ではとても重要な学習方法で、先生が読み上げたフランス語を、聞いてそのまま正しく書き取る練習です。できるようになるためには、文法・語彙・発音などの総合的な理解が必要です。
娘のフランス語習得が速かったのは、「ラオス式」のかけ流しが効いたからではなく、英語という強固な基盤があったから。これがデータと実体験から導き出された結論です。
「ラオス式」の真実—なぜラオス人はテレビだけで習得できたのか
タイ語とラオス語は「ほぼ同じ言語」だった
さて、 改めて調べてみると、タイ語とラオス語は言語学的に極めて近い関係にありました。
具体的に言うと、両言語の相互理解可能性は80〜90%。これは言語学の世界では「ほぼ同じ言語の方言レベル」と見なされる近さです。
両言語は同じタイ・カダイ語族に属し、5つの基本的な声調システムを持ち、主語-動詞-目的語という同じ語順を使います。文法構造もほぼ同一で、共通の語彙が非常に多い。
これは、日本人が大阪弁と東京弁を両方理解できるのと、ほとんど同じレベルの「近さ」です。

だから、ラオス人はテレビを見ているだけでタイ語を習得できたのだと思います。子どもの頃にタイのアニメを見ていれば、特別な勉強をしなくても自然とタイ語が分かるようになる。それは、大阪の子どもが東京のアニメを見て標準語が分かるようになるのと同じ現象だったのです。
「ラオス式」が成立した特殊な条件
つまり、僕が長年持ち続けていた仮説である
→「映像と音を流していれば自然と言葉は覚える」
は、言語距離が近い場合にのみ成立する極めて特殊なケースということがわかりました。
日本語と英語のように言語距離が遠い組み合わせでは、「流すだけ」では不十分だったのです。僕の「ラオス式」は、言語距離が近い特殊なケースを遠い場合にも当てはめようとしていました。
6年間続けた「ラオス式英会話」の効果と限界
0歳から始めたかけ流し生活
→娘が生まれてから、僕は「ラオス式英会話」を実践してきました。ラオス人がタイ語を覚えるのと同じ要領で、日常的に英語のテレビを見せ、日常的に英語の音を聴かせる。これだけです。

ディズニーも、アニメも、Netflixも、全て英語。興味を持ちそうな作品をひたすらに英語で見せることにしました。0歳の頃はフランス語も少し混ぜていましたが、中心は英語です。
一時期(2歳頃)、「英語はいやだから日本語で見たい」と言われる時期がありました。でも「うちのテレビは日本語見れないから」と伝え、そのまま見せ続けていたら、次第に何も言わなくなりました。
途中から遺伝的に近視の傾向が出たので動画視聴は制限。代わりに、映像を覚えているだろう作品(主にPeppa Pig)をひたすらにかけ流すことに。
日によって差はありますが、幼稚園に入る前は1日5〜6時間くらい、幼稚園に入って習い事が増えてからも、1日2〜3時間くらいはかけ流しをしています。
4歳から英語スクールで読み書きを習得
ただし、ラオス人の多くは「タイ語は話せるけれど、タイ語は書けないし読めない」という人がほとんどでした。たしかに、テレビで言葉を覚えているのであれば、読み書きはできるようにはならないでしょう。
ということで、4歳から娘には英語スクールに入ってもらい、読み書きはそこで覚えてもらうことにしました。僕も妻も英語がそこまでできない(簡単な会話はできても、発音が悪いので、英語で絵本を読んだりできない)ので、このあたりは外注です。

英語スクールは週2回/1回3時間。ここでフォニックスを学び、読み書きの基礎を身につけていきました。
フォニックスというのは、文字と音の対応関係を教える指導法で、例えば「c-a-t」という文字を見たら「キャット」と読めるようにする訓練です。ここではじめて娘は、英語を音ではなく「言語」として学ぶことをしたと思います。
4歳から7歳までの3年間、家でも娯楽は英語中心です。Netflixも英語で見るのがデフォルト。簡単な英語の本も読めるようになり、日常会話も問題なくできるようになっていました。
英語スクールからは、土台の日本語教育は家庭でお願いします。母語の強さが英語を支えます。とアドバイスがあったので、動画やかけ流しは英語ですが、並行して日本語の絵本も毎月50-100冊読み聞かせしていました。
今思えば、「ラオス人は話せはするけど読み書きはできない」という事実を知っていて良かったです。それを知らなければ、テレビと音声のかけ流しだけで言語習得できると思い込んでいたかもしれません…
確かに「効いた」部分
では、6年間続けた「ラオス式英会話」は無意味だったのかというと、そんなことはなく「効いた」部分は確実にあります。

0〜6歳の大量インプットによって、娘は英語の音に慣れました。特に、日本語にない音(/r/と/l/の区別、/th/の音、母音の微妙な違いなど)を識別できる耳が育ちました。音韻的基盤の形成という意味では、確実に効果がありましたと感じます。
心理的ハードルの除去も大きかったです。娘には英語への抵抗感が全くありません。Netflixを英語で見るのが当たり前ですし、英語環境への適応力も高いです。これは、幼少期からの大量露出がなければ得られなかったものです。
語彙・表現の蓄積も無視できません。映像と文脈で意味を理解しながら、日常会話レベルの表現を大量に蓄積できました。「Thank you」「How are you?」といった定型表現だけでなく、「I’m so excited!」「That’s not fair!」といった生き生きとした表現も、自然に使えるようになりました。
Krashenの「理解可能なインプット仮説」との関係
第二言語習得研究の第一人者、Stephen Krashen博士は「理解可能なインプット仮説」を提唱しています。これは、「i+1」レベル(現在のレベルより少しだけ上)のインプットが言語習得に必要だ、という理論です。

映像があれば理解可能性が高まるのは確かです。子どもがアニメを見ている時、映像から状況を理解し、その文脈で英語を聞くことで、言葉の意味を推測できます。
でも、それだけでは不十分。特に、言語距離が遠い場合(日本語-英語)には、理解可能なインプットに加えて、明示的な指導、体系的な学習が必須なるのだということが理解できました。
まとめ:言語距離を理解すれば、効率的な学習ができる
仮説の修正
2013年にラオスで抱いた仮説ー「映像と音を流せば言語を習得できる」。これは修正が必要でした。
正しくは、
「言語距離が近ければ受動的露出で習得可能。遠い場合は、受動的露出に加えて体系的学習が必須」
というのが、娘の言語習得の様子をみてきた今の結論です。
ラオスで見た奇跡の正体は、タイ語とラオス語の80〜90%という相互理解可能性にありました。だから「テレビを見るだけ」で習得できた。でも、日本語-英語という3倍の言語距離では、同じ方法は通用しないのだと思います。
今回学んだ4つの教訓
娘のフランス語習得から、4つの重要な教訓を得ました。
1.英語の基盤が次の言語学習を劇的に加速する
2.言語距離が近い言語を選べば、さらに効率的に習得できる
3.イマージョン環境(学校で毎日6〜8時間)の威力は計り知れない
4.一度「言語学習のメタ認知スキル」を獲得すると、次の言語学習が格段に楽になる
ということです。
フランス語の前に英語をやっていて良かった
今回はたまたま、先に英語ができる状態になった上でフランス語圏に移住しましたが、フランス語学習をする上で、英語がここまで有利に働くとは正直思ってもいませんでした。
特に、僕は英語もフランス語もさほどできるわけではないので、娘がスムーズに言語を覚えていく姿をみるととても驚きます。本人的にも、英語だけでなくフランス語でも意思疎通ができるようになり、大きな自信になっているように見えます。
娘はイタリア語やスペイン語に興味を持っていますが、フランス語と両言語は言語距離が近いので、スムーズに習得できるかもしれません。
今回、言語距離という概念を知ることで、より効果的な言語学習の方法が見えてきたように思います。

阪口ユウキ
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