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美しき陰

某SNSに憧れの人がいる。
友達でも知り合いでもない。性別すら知らない。
その人は今もSNSにいらっしゃるので詳細は省くが、とある海外の女優さんについて、及び、彼女に纏わる映画や監督、その人が愛する書籍などについて語っている。私がどこからその人を知ったのか既に記憶にないが、紡ぎ出す言葉は穏やかで、おまけに口数が少ない。けれど強烈に惹かれる語彙を発する。そのうち、私自身も彼女が出演した作品群を観るようになり、今ではほとんど日本で公開された作品は配信も含め、鑑賞した。

一時期はその人と相互フォローし合ったこともあったが、何しろ私はSNS内ではお喋りなので静寂な世界を好むその人の世界観にはふさわしくなかったのかも知れない。いつしかフォローは外れていた。しかしそれは私だけではなく、連日ぽつぽつとフォローが消えていき、現在は数人の方しかいない。反対にフォロワーさんは三桁だったりする。

戸惑いはしたものの、納得の方が大きかった。
その人は数日、いや、数か月に一度くらいしかオンラインにいない。けれど残す言葉はやはり彼女を想うもので静寂に充ちている。まさに「呟く」という印象だ。私もフォローすることを止めた。そこに執着はなかった。なぜならその人のペースを乱したくなかったから。何か月に一度でもいいから言葉を紡いでくれたらそれで良かったから。

その人が愛する女優さんの佇まいはどこかモノクロのイメージがあり、細い体に纏う衣装が赤やオレンジなど明るいものであってもいつもどこか陰を思わせた。私はいつしかその人を通じ、たくさんの映画作品、監督、書籍に影響されていった。そしてその人と言葉の使い方は違っても、私自身も静寂を好み、どこか憂鬱な景色のような作品を愛する人間だということに気づいた。

その女優さんは若くして亡くなっている。
メジャーな作品に出演するタイプではなかったので詳細は判らない。けれどその人は毎年彼女の命日に、そっとつぶやき、彼女が眠る墓の画像を載せる。静寂という音が聞こえてきそうなその人の生きる世界を私は遠くから、時折そっと禁断の扉を開けるように覗くのだ。


※画像はシャルナス・バルタス監督作品『Freedom』(2000年)のシーン。この映画に件の女優さんは出演していないが他作品には多数出演している。

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