「誰?」🟥きのころチャレンジ
今朝、きのころさんの記事に
私の記事が2つも紹介されていました。
すっかり調子に乗ったので、
今度は「誰?」で
きのころチャレンジいたします。
朝、目が覚めると、
隣で知らない女が電話をしていた。
私のスマホで。
私の声で。
叫んでも声は出なかった。
鏡の中の私は眠っている。
女が一瞬だけ私に顔を向けた。
そして、私の声で電話の相手に告げる。
「起きました」
女は静かに電話を切り、
クローゼットを開けた。
取り出したのは赤いユニフォーム。
広島東洋カープ。
何度も洗ったユニフォームの赤。
応援で振り上げ続けた袖の柔らかさ。
負け試合のあとも脱げずにいた日の匂い。
女はそれを抱き、
胸の「Hiroshima」の文字をなぞった。
その瞬間、私の記憶が流れ込む。
九回表を抑えきれなかった夜。
帰りの広島駅で誰も口を開かなかった時間。
「今日は仕方ない」と言いながら、
次のチケットを探していた自分。
やめられなかった理由。
女はそれらをすべて知っていた。
女は私のユニを着て、私のチケットを持ち、
球場へ向かう人の流れに乗る。
なぜだか私には女の行動が全て分かる。
駅を出ると、赤いユニフォームの群れ。
「今日こそはな」と誰かが言う声。
グッズショップの列。
売店から流れるソースの匂い。
マツダスタジアム。
開けた空。
芝の鮮やかな緑。
応援バットがぶつかる乾いた音。
女は私の席に座る。
内野一塁側。カープベンチがよく見える場所。
選手が出てくるたび、周囲がどよめく。
打順が回るたびに高まる期待。
凡退すれば一斉に漏れるため息。
だが女はただ静かに見ている。
試合は重かった。
チャンスで一本が出ない。
併殺。
見逃し三振。
周囲では
「流れが悪い」
「今日もか」
という声が増えていく。
それでも女は応援歌のときだけ、
小さく口を動かした。
声にならないほどの声で。
試合も終わり近くになってきた。
ビールの泡の音。
売り子の呼び声。
諦めかけた観客が席を立ち始める気配。
八回終了、まだ一点差。
そのとき女が立ち上がった。
「大丈夫」
私の声で、しかし私の知らない確信で。
九回裏、二死。ランナーは一二塁。
球場全体が息を止める。
応援団の太鼓だけが響く。
打球は右中間へ伸びた。
スタンドに吸い込まれるように入っていく。
一瞬の静寂のあと、
歓声が爆発する。
知らない人同士が抱き合い、
赤いタオルが空に舞う。
だが女は騒がなかった。
ただ涙を流していた。
勝ったからではない。
最後まで信じていた時間そのものを、
抱きしめるように。
帰宅後、女は鏡の前に立った。
眠る私の額に触れる。
「私は、あなたが捨てなかった気持ちです」
「何度負けても球場へ向かった足です」
「結果ではなく、好きでい続けるという選択です」
彼女は微笑む。
「だから今日は、もう大丈夫」
その姿は夕暮れの光の中に溶けていった。
目覚めると、私は一人だった。
机の上には観戦チケットの半券。
テレビでは今日の試合の再放送。
劇的な逆転勝ち。
なぜか胸があたたかい。
それから私は、
どんな連敗の夜も、
ユニフォームの手入れを欠かさなくなった。
勝つ日も負ける日もある。
それでもまた球場へ向かう。
好きでいることは、
明日を信じる習慣だから。
夜更け、まどろみの底で、
ときどき声がする。
やさしく、静かに。
「起きました」
そのたびに私は知る。
私の中で、カープはまだ負けていない。
エレキング娘が愛らしい、きのころさんの記事。
昨日からオープン戦だったんですが、
投手陣が打ち込まれて負けました。
しかし、打撃の方は期待が持てそうです。
こんな勝利の女神がいてくれたらなあ、
という
都合の良い願望を書きました。
女が話している相手もまた私かもしれません。
きのころさん、カープネタばかりですみません。
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