私が惹かれるダークヒーロー③シャア・アズナブル――極悪で、情けなくて、だからこそ目が離せない男
※この記事は『機動戦士ガンダム』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の内容に触れます。
「かっこいいのに、情けない」
シャア・アズナブルの魅力を考えるとき、
私はいつもこの矛盾に戻ってきます。
赤い彗星。
仮面の男。
ジオンのエースパイロット。
アムロ・レイの宿敵。
そして、長いガンダム史の中でも圧倒的な人気を誇るキャラクター。
2018年にNHKで放送された「全ガンダム大投票」でも、シャアはキャラクター部門の総合1位に選ばれています(※1)。ガンダム公式サイトでは、彼は「赤い彗星」の名で呼ばれ恐れられるジオンの将官であり、実はジオン・ズム・ダイクンの長男、セイラの兄であると紹介されています(※2)。
でも、私がシャアに惹かれるのは、彼が完璧な英雄だからではありません。むしろ逆です。
シャアは、かっこいい。
でも、間違える。
強い。
でも、負ける。
カリスマがある。
でも、心の奥にはずっと満たされない子どもがいる。
この極悪さと情けなさが同居しているところに、私はどうしようもなく惹かれてしまうのです。
シャアの悪は、人を利用してでも復讐へ進むところにある
シャアは、ただのライバルキャラクターではありません。
彼は、かなり悪いことをしています。
自分の目的のために立場を利用する。
人を欺く。
仲間のように振る舞いながら、復讐のために動く。
必要なら、他人の人生さえ踏み台にする。
特に『THE ORIGIN』で描かれるシャアは、その冷酷さがよりはっきりしています。
彼は、もともとの「シャア・アズナブル」という青年の存在を利用し、その名を奪うようにして生きていきます。公式インタビューでも、第3話までに本物のシャア・アズナブルが物語から消え、エドワウ、つまりキャスバルがジオン軍に身を投じていく流れが語られています(※3)。
これは、かなり重い悪です。
シャアは、ただ怒りにまかせて暴れる人ではありません。
もっと静かで、もっと計算高い。
彼の悪は、自分の復讐のためなら、人の名前も、信頼も、人生も利用してしまう悪です。
だから怖い。
でも同時に、そこまでしなければ生き残れなかった人にも見える。
その危うさが、シャアという人物をただの悪役で終わらせないのだと思います。
仮面は、顔を隠すためだけのものではない
シャアといえば、やはり仮面です。
でもあの仮面は、単に正体を隠すための小道具ではないと思います。
あれは、シャアが「シャア・アズナブル」という役を演じ続けるためのものです。
本当の彼は、キャスバル・レム・ダイクン。
父を失い、母と引き離され、政治と復讐の渦に巻き込まれた少年です。
けれど彼は、そのままでは生きられなかった。
だから仮面をかぶる。
名前を変える。
赤い彗星になる。
誰にも弱さを見せない男として振る舞う。
ここが、とても痛々しいのです。
シャアは最初から完成された大人ではありません。
むしろ、大人のふりをし続けた少年なのだと思います。
「認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを」
この言葉が印象に残るのは、シャア自身が自分の未熟さをどこかでわかっているからです。
彼は強がっている。
自分でもそれをわかっている。
でも、もう弱い顔をすることができない。
一度かぶった仮面を、降ろせなくなっている。
そこに、シャアの孤独があります。
カリスマなのに、心の中はずっと欠けている
シャアには、人を惹きつける力があります。
部下を従わせる力。
人を期待させる力。
時代を動かしそうに見せる力。
でも、そのカリスマは、満ち足りた人間の明るい輝きではありません。
むしろ、彼の中にある欠けた部分から生まれているように感じます。
母を失ったこと。
家を奪われたこと。
自分の名前で生きられなかったこと。
本当の自分を、ずっと押し殺してきたこと。
その欠損が、シャアを動かしている。
「このままでは終われない」
「奪われたものを取り返したい」
「自分をこんなふうにした世界を変えたい」
そんな飢えが、彼の強烈なエネルギーになっているのだと思います。
だから、シャアは止まっていられません。
復讐へ向かう。
戦場へ向かう。
政治へ向かう。
アムロとの決着へ向かう。
でも、どこへ行っても満たされない。
この満たされないまま動き続ける感じが、シャアのカリスマの正体なのかもしれません。
シャアは極悪なのに、どこか情けない
シャアの面白さは、ただ冷酷で有能なだけではないところです。
彼はすごい。
でも、情けない。
ザビ家への復讐を進める冷酷さがある。
戦場で名を轟かせる実力がある。
人を惹きつけるカリスマもある。
それなのに、大事なところで人間としての未熟さが出てしまう。
アムロに勝ちきれない。
ララァへの思いを引きずり続ける。
クェスのような若い存在を引き寄せながら、結局は救いきれない。
大きな理想を語りながら、その奥には個人的な執着がにじんでしまう。
ここが、たまらなく人間くさいのです。
彼は、かっこよく決めているのに、どこか痛い。
もしシャアが最初から最後まで完璧な悪役だったら、ここまで惹かれなかったかもしれません。
でも、強い言葉を吐くのに、心の奥ではずっと迷子のまま。
そのかっこ悪さまで含めてシャアなのだと思います。
「母」を求め続けるところが、シャアの弱さであり核心
シャアを語るうえで避けられないのが、ララァ・スンへの思いです。
『逆襲のシャア』で語られる、
「ララァ・スンは私の母になってくれるかもしれなかった女性だ」
という言葉は、何度聞いても衝撃的です。
恋愛ではなく、母。
対等な愛ではなく、包み込んでくれる存在。
ここに、シャアの弱さが出ています。
彼は大人の男として振る舞います。
軍人として、指導者として、革命家のように語ります。
でも心の奥では、ずっと母を求めている。
失われた安心。
無条件に受け止めてくれる場所。
本当の自分を許してくれる存在。
それを求め続けている。
だからシャアは、どれだけ強くなっても、どれだけ偉くなっても、根っこの部分では満たされない。
ここが情けない。
でも、切ない。
そして、だからこそ忘れられないのです。
アムロに負け続ける理由
シャアは強いです。
でも、アムロには勝ちきれません。
戦闘能力だけの話ではないと思います。
アムロは、苦しみながらも現実の中で成長していきます。
他者と関わり、傷つき、変化しながら前へ進む。
一方のシャアは、どこか過去に縛られ続けています。
父の死。
母との別れ。
ザビ家への復讐。
ララァの喪失。
アムロへの執着。
彼は大きなことを言います。
人類の未来を語ります。
地球の重力に魂を引かれた人々を批判します。
でも、いちばん重力に引かれているのは、シャア自身なのではないかと思うのです。
過去という重力。
母性への飢えという重力。
アムロに認められたい、止められたいという重力。
だから彼は、どれだけ高く飛ぼうとしても、最後にはその重力に引き戻されてしまう。
そこが、シャアの悲しさです。
それでも惹かれるのは、彼が未完成のまま動き続けるから
では、なぜ私たちはシャアに惹かれるのでしょうか。
彼は極悪です。
人を利用します。
復讐のために他人を巻き込みます。
大きな理想を語りながら、私情も捨てきれません。
しかも、かなり情けない。
でも、それでも惹かれる。
たぶんそれは、シャアが完成された人間ではないからです。
彼はずっと途中にいます。
復讐者としても、指導者としても、男としても、大人としても、どこか未完成です。
でも、その未完成のまま、必死に前へ進もうとする。
仮面をかぶって。
強がって。
赤い彗星を演じて。
本当は傷だらけなのに、誰にもそう見せずに。
その姿に、私たちはどこか自分を重ねてしまうのだと思います。
私たちも、日々どこかで仮面をかぶっています。
大人らしく。
仕事ができるように。
平気なふりをして。
傷ついていない顔をして。
本当は不安でも、ちゃんとしているように見せている。
シャアの仮面は、決して遠い世界のものではありません。
私たちもまた、それぞれの場所で、自分用の仮面をかぶって生きているのかもしれません。
ティリアン、ウィリアムとは違うシャアのダークヒーロー性
これまで「私が惹かれるダークヒーロー」として、ティリアン・パーシモンやウィリアム・ジェームズ・モリアーティについて書いてきました。
ティリアンは、人の愛情や信頼まで自分の野望の燃料にする男でした。
ウィリアムは、理想を達成するために、自分の命さえ差し出す男でした。
では、シャアはどうでしょうか。
シャアは、仮面をかぶり、理想と復讐を掲げながら、最後まで自分の欠損から逃げきれなかった男だと思います。
彼は大きなことをしようとします。
世界を動かそうとします。
人類の未来を語ります。
でも、その根っこには、ひとりの傷ついた少年がいる。
そこが、シャアのダークヒーロー性です。
悪でありながら、幼い。
カリスマでありながら、孤独。
理想を語りながら、私情に縛られている。
この矛盾が、シャア・アズナブルという人物を、ただの敵役ではなく、何十年も語られ続ける存在にしているのだと思います。
私がシャア・アズナブルに惹かれる理由
シャア・アズナブルは、安心できるキャラクターではありません。
正しい人でもありません。
優しいだけの人でもありません。
むしろ、自分の目的のために他人を利用し、戦争の中で多くの人を巻き込む人物です。
でも、それでも惹かれます。
なぜなら彼は、極悪でありながら、どこまでも人間らしいからです。
強いのに、弱い。
美しいのに、情けない。
大人のふりをしているのに、心の奥には子どものままの痛みがある。
この矛盾が、私にはたまらなく魅力的です。
シャアの悪は、復讐のために人を利用する悪。
シャアの弱さは、失ったものをいつまでも求め続ける情けなさ。
そしてシャアの魅力は、その両方を抱えたまま、仮面をかぶって進み続けるところにある。
完璧だから好きなのではありません。
欠けているから。
揺れているから。
情けないところまで見えてしまうから。
だから、目が離せない。
シャア・アズナブルは、私にとってそんなダークヒーローです。
赤い機体の奥で、いつまでも泣いている少年。
でも、その少年が世界を動かそうとしてしまう。
その危うさと痛々しさに、私はどうしようもなく惹かれてしまうのです。
参照元リンク一覧
※1 ガンダム公式「NHK『全ガンダム大投票』結果発表!シャア&オルガ&アムロのキャラクターTOP3イラスト公開!」
※2 機動戦士ガンダム公式Web「WORLD|CHARACTER シャア・アズナブル」
※3 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』公式サイト SPECIAL 第3話キャストコメント
※4 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』公式サイト CHARACTER
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