「守ってもらう人」から「残す理由がある人」へ。日産の赤字リストラが事務職に突きつける冷徹な現実



日産自動車が国内工場の事務職を対象に早期退職を募集するというニュースが流れた。ついに実行したか。

市場の一部やSNSの反応を見る限り、これを「黒字リストラ(余裕があるうちに人員構成を最適化する先進的アプローチ)」と混同している向きもあるようだが、明確に違う。これは純然たる「赤字リストラ」であり、本質はただの「延命・経営再建策」だ。

余裕があるから切るのではない。余裕が皆無だから切るのだ。

「ない袖は振れない」という物理的限界を前に、企業が生き残るための縮小均衡を選択したに過ぎない。会社がこのまま沈めば、社員を守るどころか全員まとめて飛ぶ。

このドラスティックな意思決定の背景と、そこに内包される「事務職の存在価値の地殻変動」について、感情論を排して冷静に論じてみたい。

1. 感情論の無価値さ:経営者の椅子から見える景色

こうしたニュースのコメント欄は、判で押したように以下の言葉で埋め尽くされる。

「役員は高額報酬をもらっているのに、下だけ切るのか」「社員を大切にしない会社は信用できない」と。

労働者としての感情は理解できる。しかし、経営において感情論は1円の利益も生まない。

厳しいようだが、高額報酬をもらっている役員であっても、今の時代、変わらずスマホをいじって現状維持に甘んじていれば、容赦なく会社ごと飛ぶ。それが今の現実だ。

企業の目的は「存続」であり、雇用を守ることは「存続した結果として可能になる手段」に過ぎない。赤字のまま人件費を維持し、固定費を維持し、工場も事務部門も維持しろというのか。それは優しさに見えて、ただの全滅ルートである。経営者の仕事は、全員に好かれることではない。会社を存続させることだ。

批判を恐れずに言えば、「社員を守れ」と叫ぶ人々も、いざ自分が経営者の椅子に座れば、全く同じ決断を下す。

「この人員数で、競合に勝てる利益率が出るか?」「この業務はテクノロジーで代替可能ではないか?」

そこまで考えたら、普通に人を切る判断をするはずだ。自分が従業員なら「守れ」と言い、経営者なら「切るしかない」と言う。立場が変われば言うことも変わる。だからこそ、従業員側も感情論だけで止まっていてはいけないのだ。

2. なぜ事務職なのか:AIとシステムが埋める「隙間」

今回、削減のメスが事務職に入ったのは至極当然の帰結である。なぜなら事務職は、最も「コストカットの効果が可視化しやすい領域」だからだ。

事務職の主要な業務を分解すると、その多くが以下のプロセスで構成されている。

入力、転記、集計、整形、確認、資料作成、帳票処理。

かつてこれらは「人間の手」を介さなければ成立しなかった。しかし現在、大企業には高度な基幹システムがあり、その周辺をAI、OCR、Excel、Power Query、Power Automate、VBA、SQL、RPAが取り囲んでいる。

これまでの事務職の本質は、「システムとシステムの隙間を埋める人間の潤滑油」だった。

CSVをダウンロードし、形式を整え、PDFを読み取り、社内書式に打ち直す。この「隙間」が今、テクノロジーによって急激に圧縮されている。

私自身、国策インフラ系の現場で就業させてもらいながら、AIを使った事務効率化をリアルに実体験している。

PDFのOCR化から、AIによるデータ整形、Excelへの流し込みまでの一連の下処理は、AIに投げれば数分で終わる。人間はその間に会計入力を進めるなど、並行して別の実務をこなせる。これだけでも、処理速度は圧倒的だ。

もちろん、セキュリティの問題やAIの誤答リスク、フォーマットの破損など、人間の「最終確認」は依然として不可欠だ。しかし、必要な人員の数が確実に減るという事実は変わらない。これからの事務職は「作業者」ではなく、「AIとシステムを使って業務を回す人」へ変わらなければならないのだ。

3. 「電話応対」という高コスト業務の終焉

事務職の主要な役割であった「電話応対」も、急速にその価値を失っている。

今の私の職場でも強く感じるのは、電話があまり鳴らないということだ。問い合わせはメールやチャット、専用フローに集約され、必要な連絡も担当者のPHSや直通ダイヤルに直接入る。「取次」という無駄な中間プロセスの排除だ。

従来の電話番は、極めてコストパフォーマンスの悪い業務だった。

  • 電話を受ける、相手を確認する、担当者を探す

  • 不在であればメモを残し、折り返しを伝える

  • その間、本来の作業は中断され、作業効率が激しく低下する

記録も残らず、聞き間違いのリスクを伴う電話から、テキストベースへの移行は、無理無駄のない効率化の正解である。電話番としての事務職の居場所は、もうどんどん不要になる。

4. リストラの本質は「守りのDX」である

人員を削減すれば、当然現場の業務は回りにくくなる。だからこそ、経営再建型リストラは「守りのDX」とセットでなければならない。

ここで言うDXとは、華やかな新規事業の創出や、キラキラしたAI戦略ではない。

「少人数で、昨日と同じ業務を確実に回すため」の、極めて地味で泥臭い実戦的なシステム化だ。

  • AI OCR、Excel整形、Power Query、VBA、RPA、SQL、Power Automate、Power BI、Python、Azure

  • メール化、電話削減、帳票削減、承認フローの簡略化、データの一元化

事務職を減らすなら、その分だけ業務フローを軽くしなければならない。人を減らしても回る仕組みを作らなければ、リストラは成立しない。つまり、リストラとDXはセットなのだ。

5. 結論:コストになるか、コストを削る側に回るか

結局、今回のニュースから見える現実はこれだ。

会社は社員を無条件には守れない。赤字なら、なおさら守れない。

ここで、胸に手を当てて考えてみてほしい。

最低限の仕事だけをこなして、電車の中でスマホをいじり、ソシャゲ、漫画、LINE、SNS、ショート動画に時間を溶かしているほど、今の時代は平和ではない。

AIで仕事は圧縮される。電話番は減る。入力、転記、整形作業は減る。人海戦術型の事務は消えていく。そのときに必要なのは、会社への文句ではない。自分を変えることだ。

AIを、Excelを、Power Queryを、VBAを、SQLを使いこなす。会計を理解し、業務フローを読み、無駄を見つけて作業を減らす。作業者ではなく、業務を軽くする側に回るのだ。

これからの事務職は二つに分かれる。

  1. 「コスト」として削減対象になり、切られる人

  2. 「コストを削る側」として組織に必要とされ、残る人

会社から見て、「この人は指示された作業をするだけの人だ」と思われるか。それとも、「この人がいれば業務が速くなり、ミスが減り、AIやExcelで処理を圧縮できる」と思われるか。ここが決定的な分かれ道である。

今回の日産のリストラは、単なる一企業のニュースではない。事務職全体への警告だ。

冷静に進化するしかない。感情論ではなく、実績。肩書きではなく、証拠。会社への依存ではなく、持ち運べる戦闘力。

これからの時代、残るのは「守ってもらう人」ではない。自らの意志で動き、そこに「残す理由がある人」だけである。

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