コミケ評論島で出会った面白おじさん(完全版)
年末、M-1グランプリで惜しくも優勝を逃したドンデコルテ。その最終決戦で披露した「名物おじさん」というネタは我々に強烈な印象を残した。様々な事情により、少し世の中一般から外れてしまったクセの強いおじさんをテーマにしており、観客から共感による笑いと、身近に想像できてしまう恐怖を誘い、世間に大きなインパクトを与えた。
同様に。こちらも年末に開催されたコミックマーケットという同人即売会イベントにおいて。特にその中でも評論島という文章や情報を扱うエリアで、この「名物おじさん」に近い存在はよく確認される。頻度としては「稀によくある」というやつ。
僕自身も気づけば、コミックマーケットの魔境である評論島で20年弱同人誌を頒布し続けており、望まずとも、この手の面白おじさん達と出会った経験がある。先んじてX(Twitter)で一部つぶやいたが、SNSでは字数制限もあったため、ここで改めて件数も増補し、完全にストレス発散を目的としながら、その時のことをランキング形式で思い返してみたい。
4位 喧嘩腰議論ふっかけおじさん
程度の差こそはあれども、少なくとも過去2件は経験した。この手の議論ふっかけおじさんが登場してしまうのは、評論島のサークルが「情報」を取り扱うという前提を持っているが故、仕方のないことでもある。オタクは、自分が詳しいと自称している対象について、自分よりも詳しくない人間が語っている事が許せないという基本的な性質を持つ。
「へ~、これってつまり〇〇について論じているってことですよね?であれば、このあたりは押さえておられる?」「すみませんが、今回このネタを選ぶ理由ないですよね?」みたいなの。本当にこんな感じ。企画全否定。大人しく立ち読みしていると思ったら、突如目をこちらに向けて戦闘モードに入る。「はぁ、ちょっと分からないですね」と答えたものなら、読むにも値しないとばかりに乱雑に本を置いて去っていく。クソ…なんで一方的にこんな仕打ちを受けなきゃならないのか。
僕も20代前半でこの手の議論ふっかけおじさんの攻撃を喰らい、苦汁を舐める結果となったわけだが、ただ一方で、この評論島とは闘争の場なのだ、という自覚も持つにも至った。ここに良心はない。情報と情報、オタクとオタクの争いの場なのだと知った。それ以降、仮想議論おじさんに負けないよう同人誌の基本的な概要を事前に用意し、いくつか反駁も用意してから会場に行く習慣ができた。普通に仕事に役立っている。ただし、彼らを許してはいない。
3位 まめしばおじさん
上記の議論ふっかけおじさんに近い。いわゆる決め台詞は「ねえ、知ってる?」である。ただ、このタイプの場合、その問いかけの対象は人だ。「近しいジャンルで既に先行しているサークルがあって、〇〇さんって知ってます?」みたいな。やはり評論島は世間が狭い。流行ジャンルによって人の入れ替わりが激しい二次創作の世界と異なり、評論島は延々、ひとつのテーマだけを追いかける人が多い。半ば在野の研究者がそこら中にいるような状況に近い。
そうなれば、やはり先行研究の存在を言いたくなるのであろう。「あなたより凄いことしている人いますよ」こちらからしたら、うるせえよ、である。同じことを二次創作島で言うならば「同じジャンルで絵がもっと上手い人、他にも沢山いますよ」みたいな事だ。二次創作島ではいけないことも、評論島なら言っていいと思っている輩がいたりする。ダメに決まってんだろ。
確かに、そうした先行研究を知る事でより良い作品に繋がる可能性はある。発言の意図として本当に前向きなアドバイスであることは否定できない。但し、本人にそれを伝えた上で、目の前の本を買わない理由にするのはあまりにも残酷なんだよな。何を言うべきかどうかも、全ては関係性の為すところ。知らないおじさんに突如「ねえ、知ってる?」と聞かれたくはない、というのが皆の総意である。
2位 無言無動作おじさん
これまでと打って変わって、逆に何も言わない、何もしない。でもそこにいる。そういうおじさんも数人いた。多分、コミュニケーションを取ろうしている…のか。何も分からない。確かに、メンタル面などそういう性質がある方もいる。でも何も言わないから分からない。ずっと立っているから、別の接客対応をするにも毎度「ちょっとどいて下さい~」など声をかける。でも去ろうとしない。怖い。
その中でも強かった方は、しばらく無動作無言を貫いたのち、突如机の上にあった僕のペンケースを指差し「これ、買えます?」と聞いてきた。最初、何を聞かれているのか分からず「本ですか?」と聞くと、首を振り、再度ペンケースを指す。「すみません、私物なもので」と説明すると、不機嫌そうに帰っていった。本は買わずじまいだった。俺は何のフラグ回収を間違えたのか。ハードモード過ぎる『ときメモ』をやらされている気分になった。
この手の方はたまに見受けるのだが、当然何らかの障害を持っている可能性もある。こちらも丁寧に対応すべきという前提はあるのだが、やはり難しい。評論島において、こうした悲しいディスコミュニケーションが少なくなることを切に祈る。
番外編 SNSで虚言をバラまく売り子
ここでは少し番外編。今では少し距離が離れてしまった知人に売り子を頼んでいた時期があった。彼の行動は多少普段から派手というか、ある程度フォロワーもいて、SNSでもバズ目的でネタをよく発言するタイプだった。
その時にも新刊の告知をお願いしていたのだが、僕自身のチェックも甘かった。彼は、完全に嘘の告知をしていたのである。僕のサークルの新刊は「ロシア蟹密漁に潜入レポート」を頒布する、と5000人超のフォロワーに対して告知しており、結果まあまあ拡散していたらしい。僕は最後まで全然そのことを知らなかった。
更に売り子をすると言っておいて、彼は買い物に出かけており、彼不在のままいざ開場。そうすると、評論島には珍しく僕のスペースに数人の列が出来る。そして「すみません、蟹密漁の本下さい」と言われる。「は?スペース間違えてません?」と僕も意味が分からず不機嫌そうに返すと、今度は客がちょっとムッとしながら「この〇〇さんのツイートに書いてあるんですが」と画面を僕に見せる。その瞬間、全てを察した僕は心からのお辞儀と謝罪。集まった列の人にも「すみません、僕実は蟹密漁行ってないんです…」と平謝り。今思い返しても、なんの謝罪だよマジで。
知人のSNSには気を付ける。そして久々に、大人になって本気で友達を叱った。そんな話でした。
1位 ハッテン場情報開示おじさん
その年は、女装特集の企画を組んだ新刊だった。売れ行きも好調で上機嫌だったところに彼は表れた。物腰低そうで比較的紳士のように振る舞うおじさんだったので、こちらも油断していたのだが、少しずつ日常会話から話のトーンがズレていく。
「普段あなたも女装とかするの?」から「お兄さんもハッテン場とか興味ある?」に話が飛躍する。当時は僕自身も女装していたし、色んなセクシュアルな体験をしていたことで興味がないわけでもなかった。こちらからも少しノリ気味で話を聞き出したのがすべての誤りの始まりだった。
おじさんは紙で突然東京の地図を出した。「この公園、あまりそういう場所として聞かないでしょ?ところがとてもいいんです」今思えば、いいんですじゃねえよな。「毎晩、集まってくる数と質、これが都内でも指折りで、昨晩もここで(自主規制)」「本当に当たりが多くて(自主規制)なことも出来ました!」みたいな話が約20分くらい。生々しい。ずっとフランス書院の読み聞かせみたいな内容。実際、自分の生活圏に近い公園や場所も開示されてしまい、人生で初めて「知らなくても良い情報ってあるんだな」という事を身をもって理解した。
確かに評論島は、高い専門的知識をもった人間が集う場であることは間違いない。一般通過モブみたいな顔しながら、その内に秘めている知識や嗜好は計り知れない魔境である。そして、それがいざ需要のない所に解放された時、それはほぼ災害に近い惨状を招く事もある。すべてはTPOなのだとその経験を経て実感した次第である。危ない話は聞かないに限る。
という訳で、勢いに任せてコミケで出会った面白おじさんたちを紹介してみた。本当に怖いのは、出会うまで彼ら面白おじさんの顔も名前も全く知らないということだ。他人に突然降りかかる強烈かつ悪質な情報。実際、これが評論島の楽しさでもあるのだけれど、ある程度慣れていないと一発で心折れたりするので、サークル参加者側も、おじさん側も気を付けて生きていきましょう。
年明けがほぼ、ストレス発散日記で良かったのかという自責の念はあれども、吐き出せる時に吐き出した方がいいよね、ということで今年もよろしくお願いいたします。
