小さな訪問日記⑤ シンクにもたれる小さなクッションの話
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— 母に送った小さな日記 —
台所から、水の流れる音が聞こえてくる。
母が洗い物をしていると、よく同じ言葉を聞く。
「最近、腰がかなり痛いのよね」
シンクの前に立って食器を洗いながら、少し体を伸ばすようにしてそう言う。
長く立ったままの姿勢は、やっぱり腰にくるらしい。
僕はその様子を見ながら、
「何か楽になるものはないかな」と思っていた。
母は大げさに困るわけではない。
でも、毎日のことだから、少しでも楽になればいい。
ある日、通販サイトを見ていたときに、
シンクに取り付けてもたれることができる小さなクッションを見つけた。
シンクの縁に引っかけて使うもので、
洗い物をするときに体を少し預けられるらしい。
「こういうのって、本当に楽になるのかな」
正直、半信半疑だった。
でも値段もそれほど高くなかったので、試しに買ってみることにした。
数日後、実家に行くと、
注文していたクッションが届いていた。
箱を開けて、台所に持っていく。
そしてシンクの縁に、そっと取り付けてみた。
特別な仕掛けがあるわけではない。
ただ、体が当たる位置にクッションがくるだけだ。
母は少し不思議そうな顔をしていた。
「それ、なに?」
「シンクにもたれるクッションなんだって」
母は洗い物をする位置に立ち、
そっと体を前に預けてみた。
「……あら」
少し驚いたような声だった。
もう一度、体を預けてみる。
「これ、楽かも」
母はそう言って、少し笑った。
洗い物のあいだ、ずっと体重をかけるわけではないけれど、
少しもたれるだけで腰の負担が違うらしい。
それから何日かして、実家に来たとき。
母はいつものように台所で洗い物をしていた。
そして時々、そのクッションにもたれている。
「前より楽よ」
母はそう言った。
劇的に何かが変わるわけではない。
腰の痛みが全部なくなるわけでもない。
でも、ほんの少し楽になる。
それだけで、毎日の動きは少し変わる。
小さなクッションひとつで、
母の洗い物の時間は、ほんの少しだけ楽になった。
実家に来たとき、その姿を見ると、少しほっとする。
今回使用した商品です。
