浮世絵を、次の制作現場に渡す

浮世絵は、もともと「展示されるための絵」ではありませんでした。
刷られ、配られ、貼られ、日常のなかで消費されていく──
とても実用的なメディアだったはずです。
けれど現代では、多くの浮世絵が
「鑑賞するもの」「保存されるもの」
として扱われています。
それは決して悪いことではありません。
ただ、少しだけもったいないとも感じています。
原画は美しい。でも、そのままでは使いづらい

紙の質感、にじみ、かすれ、線の揺れ。
原画の魅力は、疑いようがありません。
一方で、
・拡大すると荒れる
・印刷サイズに制限がある
・色調整が難しい
といった理由から、
現代の制作現場では扱いにくい存在 でもあります。
そこで私は、一度この浮世絵を
「素材」として捉え直します。
鑑賞用から、実務素材へ
浮世絵を、Adobe Illustrator上で線を引き直し、
構造として再構築する。
これは「復元」ではありません。
また「加工」でもありません。
次の制作現場に渡すための変換です。
※ここで重要なのが「色」です。
浮世絵は作品ごとに、
摺りや経年によって色のムラや個体差があります。
私は再構築の際、すべてのデータで色が均一になるよう整理し直しています。
※同じ基準・同じ構造で再構築することで、
異なる浮世絵同士であっても、
コラージュのように組み合わせて使うことができます。
これは鑑賞用の原画では、ほぼ不可能な使い方です。
浮世絵は、まだ働ける

ベクターデータにすることで、
拡大・縮小しても線が崩れない
印刷、Web、パッケージにそのまま使える
色や構成を柔軟に調整できる
そしてもう一つ、
「複数の浮世絵を、同じ制作現場で使える」
という状態を作ることができます。
江戸時代の絵師たちは、
当時の制作環境のなかで、
最適な形を選んでいました。
ならば現代では、
現代の制作環境に合った形に
渡し直してもいいのではないか。
鑑賞用 → ベクターデータ化 → 実務素材
この流れは、
浮世絵を消費することではなく、
もう一度働いてもらうことだと思っています。
次の人の手へ
このデータが、
デザイナーの手に渡り、
印刷物やWeb、プロダクトの一部として使われる。
そのとき浮世絵は、
「過去の美術品」ではなく、
現在進行形の制作素材になります。
それで十分です。
もし、ちょっと面白いなと思ってもらえたら。
それだけで、この変換は意味を持つと思っています。

なぜ、色を均一化しているのか
浮世絵の原画は、1点ずつ色が違います。
摺りの差、紙の状態、経年変化によって、
同じ作品でも色には必ずムラがあります。
鑑賞する分には、それが「味」になります。
でも制作現場では、その「味」がノイズになります。
理由①:現代の制作は「複数素材を同時に使う」から
現代のデザインは、
1枚の絵を単体で使うことがほとんどありません。
背景と人物を分ける
複数のビジュアルを並べる
別の素材と組み合わせる
このとき、
元の浮世絵ごとに色の基準が違うと、
並べた瞬間に破綻します。
均一化は、
「どの素材を並べても同じ現場で使える」
状態を作るための前提条件です。
理由②:「作者の色」ではなく「使える色」にするため
原画の色は、
絵師の意図だけでなく、
紙・摺り・保存状態の影響を強く受けています。
それをそのまま使うと、
制作者が色の調整役を引き受けることになります。
私はそこを引き受けたい。
だから一度、色を整理して、
「使う側が迷わない状態」にします。
これは表現を消すことではなく、
選択の負担を減らすための均一化です。
理由③:浮世絵を「シリーズ素材」として使えるようにするため
色がバラバラなままだと、
浮世絵は「1点もの」で終わります。
でも同じ基準で再構築すれば、
別作品同士を並べられる
コラージュとして使える
パッケージや壁面で展開できる
浮世絵は、
単体作品から、素材群に変わります。
私はそこまで含めて、
「次の制作現場に渡す」と言っています。
理由④:AIに任せないため
色ムラを「味」として残すことは、
AIがとても得意な領域です。
一方で、
どこまで揃えるか
どこは残すか
他の作品と並べたときにどう見えるか
こうした判断は、
制作現場を知っていないとできません。
均一化は、
効率化ではなく、編集行為です。
均一化とは、浮世絵を使う人への配慮

均一化しているのは、
浮世絵を「整える」ためではありません。
使う人が、すぐ使えるようにするためです。
鑑賞用の美しさを守る仕事は、
美術館がやってくれています。
私は、
浮世絵が次の現場でちゃんと働けるように、
少しだけ形を整えて、手渡しているだけです。
もし、ちょっと納得してもらえたら。
それで十分です。
いいなと思ったら応援しよう!
このページの内容は無料でご覧いただけます。
チップは必須ではありませんが、
今後の素材制作・品質向上のためのサポートとして任意で受け付けています。